DXを「しなくていい会社」もある--Kaizen Platform須藤氏が考える真のデジタル化 - (page 2)

DXを「しなくていい会社」もある

——DXについて難しく考え過きている人が多いのかもしれないですね。では、Kaizen Platformではどのようなアプローチで企業のDXを支援しているのでしょう。

 DXには3つの論点があると思っています。1つ目が「ID」です。僕らは今、企業のウェブサイトの改善を手がけていますが、多くの会社にとって、このID戦略をどうするかがDXの最初の一歩なんです。ミーティングをするとよく出てくるキーワードが「会員獲得・囲い込み」というものですが、「このなかで誰か囲い込まれたい人います?」って聞くと誰もいません。これはつまり古いワードなんですよね。釣った魚に餌をやらないでDMを送るのが会員戦略だと思い込んでいるところが少なくありません。

 IDというのは、その人を一意に認識して、その人のために何かするためにあります。たとえばBARに行って顔を覚えてもらって、「いつもの」と言ったらいつも注文しているドリンクが出てくる、っていうことだと思うんです。ユーザー1人1人をちゃんと認識して、その人の体験をどう高めるか、というのがID戦略のキモだと思っていて、それが今の僕らのビジネスの本流になっています。

 2つ目は「動画」です。僕らは動画広告を早く安く作る「KAIZEN Ad」というサービスを提供しているのですが、これがすごく伸びています。この半年間で10倍になっている。なぜ伸びたのかというと紙不足が背景にあります。中国のECで出荷用にダンボールが大量に使われていて、そのために日本の古紙などが買われまくっているんです。その影響で、印刷用の紙の値段が20%くらい上がっています。

 日本では物流コストも上がっているので、紙のDMやパンフレットやチラシは、今トータルで3割くらい値段が上がっているんですね。なので、その3割を他のところで減らそうとするわけですけど、売上げの3割とはいかずとも、1割くらいは影響が出てきます。そこで何をしたいかというと、紙ではなく動画を作りたいということになる。

 通信の分野では5Gが始まります。5Gで通信が高速・低遅延になると言われていますが、これによってたとえばデータを送るコストが100分の1になったりするわけです。紙の値段は上がり、物を運ぶためのコストも上がっている時代に、「運ぶコスト」が下がるってすごいことじゃないですか。

 それで、動画にしたいという会社が増えています。しかも、YouTubeやInstagramでは、動画の視聴に関するあらゆるユーザーデータを取ることができます。大事なのは動画をただ作ることじゃなくて、データを見て動画を作ること。配信後にデータを見て、反応を見てまた作り直していく。再生開始から2秒以内にメインメッセージを持ってこないと継続的に見られないこともわかってきました。

キャプション

 たとえば、製品紹介のために縦にすごく長いページを作っているECサイトなどもありますが、今のユーザーはスクロールを全然しません。想像以上に面倒くさがりになっているんです。そこで、ページ内の製品紹介の内容を動画に変えて、同じ情報を1画面に収まるようにすると、それだけで今までと比較してコンバージョンレートが20%くらい上がります。そもそも製品紹介ページの内容は、上から見ていくとストーリーになっているので動画と相性がいいんですよね。

——ECサイトの商品説明を、動画に変えてしまうのは面白いですね。

 そして3つ目は「パーソナライズ」です。パーソナライズはタイミングが重要なんです。たとえば、ある銀行のローンについて、その審査にかかった日数と、顧客が実際にお金を借りてくれる率を見比べると、2日間くらいであれば待ってくれるものの、それ以降はぐっと率が下がります。借りたいと思ったときが一番ホットなんだけれど、そこから熱が冷めていくので貸し出し率が下がる。他のローン会社に移ってしまうんですね。

 貸し出し率を上げるには、いかに早く回答できるかにかかっています。ローンの申し込み完了から2日以内に結果を回答できる人と、7日くらいかかる人がいるのですが、今までは一律で「1週間以内にご連絡します」という表示しかしてきませんでした。ところが、2日なのか7日なのかの判定がいつできるかというと、実はシステム上で即座に判定できる状況でした。なんならユーザーがフォームに入力している途中の情報でも判断できると。

 一般的に大きな事故で大量の怪我人が発生した時には「トリアージ」という手法が使われます。怪我の程度を見て、最初に緊急度の高い・低いを判断して優先順位を付け、それに従って治療にあたるというものです。このトリアージをローン審査にも導入してみようということになりました。

 審査が2日以内で終わる人に対しては「2日以内にご連絡します」というサンキューページを出すようにして、それ以外は「1週間以内にご連絡しますのでお待ちください」と表示する。そうすると、どちらも貸し出し率が上がったんです。いつ連絡があるかわかっていると人は待ってくれるんですよね。これがパーソナライズということだと思うんです。コンテンツをリッチにして動画を埋め込んで、パーソナライズする。これだけでビジネスが変わります。

 コストを削減することももちろん大事だし、トップライン(売上げ)を伸ばすことも大事なんですけど、結果としてユーザー体験が便利になった上でそれらを実現できるのが、DXを目指すことの本質じゃないかと思いますね。

——世の中には、自社がDXすべきなのかどうかがそもそも分からず、悩んでいる経営者も多いかと思います。

 僕は、世の中のすべての会社がDXした方がいいとは思っていないんです。やるべき会社とやらなくていい会社があると思っています。DXによって将来の自分たちの商売に大きな影響が出るところは絶対にやった方がいい。でも、そうじゃない業態って実はたくさんあるんです。

 たとえば和菓子屋さんは、和菓子がおいしければ本来的には問題ないはずですよね。材料とか、店構えとか、包装とかに気を使うべきで、そういうところにデジタルをどう使うかは考えることはあっても、トランスフォームする必要はないと思います。

 その一方で、商売としてDXをやらないとまずい業態もたくさん存在します。自動車メーカーはこの先本当に自動車を売る会社のままなんだろうかと考えると、トヨタさんはモビリティサービスの会社になるんだと言っている。これは将来十分に考えられる話ですよね。

 自分たちが何の商売をしているのかを考えたとき、デジタルによって自分たちを変えなければいけない会社と、単にデジタルを使えばいい会社の2つがあると思います。自分たちが顧客に何を提供したいかによって、そこは分かれる。何の商売をしているか、どんな体験を提供する商売をしているか。それを考えていけば、自ずとどちらに属する会社なのかが分かるんじゃないでしょうか。DXをやらなくていい会社は、本当にたくさんあると思っています。

——DXによってビジネスの発展や創出を期待できるものは多いと思いますが、逆にDXによって淘汰されるものもあると考えますか。

 価値を生み出していないのに、儲かっている業態が多すぎることが気になっているのですが、DXによってそういうものは淘汰されるのではないかと思っています。

 たとえば、商品を自分で作らず、加工もせず、仕入れて売っているだけのお店などは、もはや売れるかどうかは立地の問題だったりする。それに、ほとんどの商売でチャネル、流通をおさえているところがものすごい力を持っていますよね。でも、それが本当の価値なのでしょうか。本当は、物を作っている人たちの方が価値は高いんじゃないかと思います。

 なので、デジタル化によって本当に生まれる動きは、作り手の人たちの価値が上がることじゃないかと個人的には思っています。店主はものすごく無愛想なんだけど、キッチンしかないめちゃくちゃうまい中華料理屋とか、控えめに言って最高だなと思いますね(笑)。

 それが多様性ですよね。DXで何が起きてほしいかというと、みんなが生きやすい世の中になってくれることです。DXは無機質なものじゃない、便利になって生きやすくなるものなんです。

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