これまで「LINE@」や「LINEビジネスコネクト」「LINE Ads Platform」など、さまざまな法人向けビジネスソリューションを世の中に送り出してきたLINE。同社の法人ビジネスを牽引してきた田端信太郎氏が、2月末で退職したことも話題になったが、同社は今後どのような考えのもと企業と生活者のコミュニケーションを生み出していこうとしているのか。
LINEの法人ビジネスのこれからと広告ビジネスの未来について、同社で広告事業戦略を担う執行役員の葉村真樹氏と田端氏に話を聞いた。なお、田端氏は現在「ZOZO TOWN」を運営するスタートトゥデイのコミュニケーションデザイン室長を務めるが、インタビューはLINE退職前の2月末に実施した。
――2月末で田端さんがLINEを離れて、今後のLINE法人ビジネスの体制はどのように変わるのでしょうか。
田端氏 : 全体的な戦略やロードマップは大きく変わらず葉村さんが中心となって推進し、広告主、広告代理店、パートナー企業などをサポートする統括を古賀さん(執行役員コーポレートビジネス担当の古賀美奈子氏)が担当します。また、私が担ってきたセミナーでの講演活動やJIAA(日本インタラクティブ広告協会)での活動も葉村さんが引き継いでいく形になります。
――まもなく年度締めとなりますが、この1年を振り返りLINEの法人ビジネスはどのような成果や課題を得られたのでしょう。
葉村氏 : この1年を振り返ると、やはり「LINE Ads Platform」の大きな成長がトピックスに挙げられると思います。年間ビジネス規模は前年度の2倍程度に成長しています。また、従来から展開している公式アカウントの売上高についても、インターネット広告全体の成長スピードを上回るスピード感をもって成長しています。
加えて、LINEビジネスコネクトを中心にした新たなコミュニケーションモデルの事例が次々に生み出されたのも大きなポイントではないかと思います。先進的な事例が生まれ、業界ごとのケースモデルが揃っていくことで、さまざまな企業がチャレンジしていく環境が構築されていくメルクマール(道標)になる1年だったのではないでしょうか。
田端氏 : 代表例としてはクレジットカード「ダイナースクラブ」が飲食店のキャンセル席を押さえて会員にLINEで通知して予約を受け付ける「ごひいき予約」や、JR東日本がチャットボットを使って会員の利用する路線の運行情報を通知するサービスなどがありますね。また企業という点からは離れますが、長野県が設置したLINEによる「いじめサポート」などもありました。こうした事例から、今後は広告やマーケティングという枠組みを超えたコミュニケーションの広がりを見せていくのではないでしょうか。
――LINEにおける法人向けサービスは、ここ数年で多岐に渡ってきたように感じます。改めてそれぞれの現状について教えていただけますか。
田端氏 : 利用法人規模という点では、LINE@は国内の認証済みアカウントで30万、一般アカウントを含めると約200万。ここが最も裾野の広い法人向けサービスと言えるでしょう。次にLINE Ads Platformは1月末時点で4000アカウント。LINEビジネスコネクトなどを利用できるLINE公式アカウントが300強程度となっています。大手企業から中小企業、街の独立店舗まで幅広くカバーしています。最近では、コンビニチェーンのローソンが本部としてLINE公式アカウントを展開しながら、同時に全店舗で個別にLINE@を導入していくといった事例も生まれていますね。
――LINE Ads Platformに関しては、先日LINEのインフィード広告を通じて法人向けLINEアカウントの“友だち”追加を促進できるメニュー「LINE Ads Platform CPF」を発表しました。ユーザーの利用シーンや顧客企業のニーズに合わせてのリリースなのでしょうか。
葉村氏 : LINEのビジネスソリューションを他社と比較したときに、“LINEらしさ”は重要な価値だと思うのです。LINEユーザーにとっては企業も友だちのひとりという位置づけであり、それが軸となってLINE Ads Platformがあったり、公式アカウントがあったりする。そうしたフルファネルの中で企業はコミュニケーションやサービスを展開することができる。それがLINEの強みではないかと思うのです。CPFは、LINE@や公式アカウントを使いながら広告も効果的に展開していくという一気通貫モデルだと考えています。
これまで、企業のアカウントが友だちを獲得する方法として、公式スタンプの配布が主な手段だったのですが、それでは(スタンプ配布のための)予算が許容できる企業が限られてしまうという課題がありました。また、スタンプ配布にインセンティブ目的のユーザーが集まってしまうことにより、その後のブロック率(ユーザーがアカウントからのメッセージをブロックする割合)がどうしても高くなってしまうという課題がありました。純粋に企業アカウントに興味関心のあるユーザーを集めたいという入口を設けるために、CPFをリリースしたのです。
さらに、これまではLINEの中にあり公式アカウントのメニューにきて自分自身で探す以外に、ユーザーに企業アカウントの存在を知ってもらう機会がないという課題がありました。積極的に“企業アカウントをフォローしたい”というユーザーにしか入口がなかったのです。これが、広告を通じて企業アカウントを知らせることで、ユーザーにとっても多くの気付きの機会を提供することにつながるのではないかと考えています。
田端氏 : たとえば、ラグジュアリーブランドを展開する企業などによっては、公式スタンプを展開することで企業アカウントへの集客が実現したとしても、ブランドイメージの希薄化を招いてしまうのではないかという懸念がありました。とはいえ、集客は積極的に展開したいわけです。LINEとしても、Cost per Friend(友だち獲得単価)をKPIにして、かつそのための集客段階でブランドのターゲットに対して的確にターゲティングができればKPFの効率や集客効率、集まった友だちのライフタイムバリュー(LTV)をもっと高められるのではないかという話はずっとしていました。
――導入後の反響はいかがでしょうか。
葉村氏 : すでにリリース前からベータテストを展開していますが、LTVの高いユーザーの集客やブロック率の軽減につながっていると感じます。広告段階でターゲティングをすることで、ある程度レリバンシー(興味関心との関連性)の高いと思われるユーザーにアプローチしているので、インセンティブのない分だけCPFは高くなると思いますが、中長期的にユーザーによるブロック率の低さやLTVの高さを考えたときに、充分な効果だといえる価値は生み出せると考えています。
――スタンプというインセンティブに依存しない集客となると、より企業アカウントが発信するコンテンツが重要になるのではないかと思います。企業アカウントが発信するコンテンツについて、どのようなトレンドがあるのでしょうか。
葉村氏 : ブランドや業種業態によって異なると思いますが、定期的な購買が見込めるコスメなどのビジネスではお得な情報を定期的に発信する。あるいはデジタル製品であれば、新機能の紹介や活用法に関するティップスの配信などですね。このほかブランドであれば、そのブランドにまつわるストーリーを発信するといったこともあります。それぞれの企業アカウントと友だちになりたいユーザーが求めている情報やサービスを、各社が発信していく形になるのではないでしょうか。この点については企業が個別具体的に知恵を絞っていくべき点だと思いますし、顧客視点に立って考えていくべきだと思います。
加えて、クリエイティブも重要なポイントになると思います。2017年、LINEは動画広告プラットフォームのFIVEを子会社化しましたが、彼らは動画コンテンツ事業だけでなくクリエイティブにも力を入れており、エンジニアだけでなくクリエイターも多い会社です。LINEとしても、今後はクリエイティブ領域の支援を強化していきたいと考えています。
――企業とユーザーがエンゲージメントを生み出すために、企業アカウントは今後どのようなメッセージを発信する必要があると考えますか。
田端氏 : 企業が発信する情報を、(1)プロモーショナルな情報、(2)サービスそのものの提供になる情報、(3)ユーザー個人にパーソナライズされた情報に分類すると、これからは個人に最適化されたサービスそのものの提供になる情報が求められていくのではないかと思います。たとえば、JR東日本による人身事故などの運行情報はプロモーショナルではありませんが、自分がいつも使っている路線の情報がLINEで届けば、その利便性がエンゲージメントにつながるわけです。ユーザーにとって価値があれば、ブロックすることはないわけです。
葉村氏 : 企業やブランドにとってユーザーのマインドシェアを高める効果があれば、どんなメッセージでも可能性はあるのではないでしょうか。たとえば、先ほど紹介したダイナースクラブ。ユーザーが複数のクレジットカードを所持している中で、「ごひいき予約」でその日に予約できる飲食店の空席情報が届けば「じゃあ、ダイナースを使ってみようかな」とマインドシェアが上がるわけです。何がマインドシェアの向上につながるかは企業やブランドにとってそれぞれの在り方があると思います。クリエイティブやストーリーで印象に残ることがマインドシェアにつながることもあります。LINEでの情報発信をプロモーションとして捉えるのではなく、どうすればマインドシェアになるかを考える必要があるといえるでしょう。
田端氏 : 興味深い取り組みをしているのは、NHKですね。大河ドラマ「西郷どん」で、放送直前に番組告知のLINEがくるのですが、放送を観てその回の印象に残ったシーンを思い返しながら次の番組を観ていると、NHKからまたLINEがくるんです。そこには、「今回の放送、どうでしたか?」というメッセージとともに、その印象的なシーンで中心人物を演じた俳優さんの撮影後のインタビューが載っていました。
放送を観ているので、インタビューの内容がより深く理解できるし、インタビューによって放送の内容もより深く振り返ることができる。ウェブサイトに訪問すれば観られるコンテンツですが、それを放送直後にプッシュで知らせてくれる点が、上手だなと思いましたね。放送局による“アフターサポート”と言えるでしょう。
葉村氏 : ユーザーからすると、モノやサービスを買ったり使ったりしたことを「これでよかった」と思いたいわけです。そのためには、ユーザーのアクションがあったその後に、どのようなコミュニケーションをすれば「買ってよかった」「使ってよかった」と思ってもらえるかという視点を持つ必要があるのではないでしょうか。そのような立ち位置で企業向けアカウントを活用していただきたいと思います。
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