2018年、インフルエンサーマーケティング2.0--今、インフルエンサー活用で再確認すべき大切なこと

本田哲也(本田事務所代表取締役)2018年01月18日 12時00分

 インフルエンサーマーケティングが再び脚光を浴びてきた。

 「再び」と書いたのは、「第一次インフルエンサーブーム」とでも呼べる時期が、2005年から2008年頃にかけてあったからだ。僕自身、ブルーカレントを「インフルエンサーマーケティング会社」として2006年に起業し(『戦略PR』という言葉がまだない時代だ)、2007年にはインフルエンサーに関する書籍を上梓した。

 あの頃のインフルエンサーとは、すなわち「ブロガー」。SNSという名称もなく、個人の情報発信は主にブログを通じて行われた。ブロガーを招待したイベントや商品サンプリングが流行したが、いかんせんその拡散力や影響力はまだ限定的で、企業が確実な手応えや投資効果を得るにはもう一歩及ばず、そうこうしているうちに世はリーマンショックを迎えることになる。

 そこから先は、若手のマーケターの皆さんの記憶にもあるように、2010年以降のソーシャルメディア群とスマホの急速な普及を経て、再びユーチューバーやインスタグラマーなど、多様化したインフルエンサーが活躍する時代がやって来た。

 関連市場への期待は大きく、特化したエージェンシーの乱立のみならず、吉本興業や集英社などもインフルエンサーマーケティング事業を開始。いわゆるインフルエンサーコマースの領域にも注目が集まり、さながら2018年を迎えた今を「インフルエンサーマーケティング2.0」とでも呼びたい様相だ。

 マーケティングの進化潮流としては拡大を歓迎すべきだが、その立案については留意しておきたいことがある。

 P&Gなど外資系のマーケティング立案でよく使われる基本フレームに、「WHAT」と「HOW」というものがある。

 「WHAT」とは消費者に伝えるべき「中身」のことで、具体的には広告クリエイティブやコピー、コンテンツ、PRストーリーなどがこれにあたる。一方の「HOW」は、その中身を「どうやって伝えるか」。広告をどこに出稿するのか、パブリシティをどの媒体に露出させるのか、オウンドメディアにコンテンツを置くのか店舗でプロモーションイベントをするのかなどだ。

 例えば食器用洗剤だとしたら、「油汚れが落ちて手にもやさしい」という売り文句はWHAT開発であり、そのWHATをどう消費者に届けるか――その便益に喜ぶ主婦をテレビCMで見せ、店頭では実際に体験させ、PRでは手にやさしい実証データを紹介するなど——がHOWの立案ということになる。

 話をインフルエンサーマーケティングに戻そう。このWHAT/HOWのフレームで考えたとき、これまでのインフルエンサー活用は、どちらかといえば「HOW」立案の延長で考えられていたように思う。

 「広告よりインフルエンサーに耳を傾けてくれるから」「インフルエンサーのほうが拡散するらしいから」−−だからインフルエンサーを新しい「チャネル」として使う。イマドキの「届け方」として起用する。

 間違ってはいないけれど、この発想が強すぎるとインフルエンサーマーケティングを見誤る。なぜなら、インフルエンサーは広告を「出稿」する先ではないし、企業が言いたいことを乗せる「乗り物」ではないからだ。結果、インフルエンサーの協力を得られず、無理に紹介してもらっても「ステマ」となじられる羽目になる。

 僕はインフルエンサーマーケティングの真髄は、むしろWHAT開発の変化にあると思う。コントロールできないインフルエンサーによる増幅を期待するメッセージと、コントロールされた広告で消費者に届けるメッセージは違う。なぜなら、「消費者が買う理由」と、「インフルエンサーが紹介する理由」が同じとは限らないからだ。

 食器用洗剤なら、「油汚れが落ちて手にもやさしい」と理解した消費者は買うかもしれないが、インフルエンサーにとって「油汚れが落ちて手にもやさしい」ことを自身のフォロワーに伝える明確な理由はない。

 しかし、ここに例えば、「このブランドは夫婦の家事分担を推奨している」というコンテクストが加わったらどうか。

 ママインスタグラマーは自身の想いを表現するネタとして自然に紹介できるかもしれない。こうした期待値から逆算されたWHATは、すべからず拡張されたものとなる。「油汚れが落ちて手にもやさしいこのブランドは、夫婦の家事分担も推奨しています」と進化するわけだ。

 インフルエンサーマーケティングとなると、マーケターの中でもまだまだ「誰を起用するか」「フォロワーは何人か」という議論から始まりがちだ。それも大事だが、そもそもインフルエンサーが関心を持ちうる中身になっているのか、インフルエンサーが自発的に紹介する理由は組み込まれているのか−−WHATがインフルエンサーマーケティング仕様になっているのか——の議論をすべきだろう。

 10年前とは比べものにならない規模でインフルエンサーマーケティングが広がる今だからこそ、再確認しておきたい。本当にインフルエンサーを巻き込んで結果を出せるかどうかは、HOWではなくWHATにかかっている。


◇ライタープロフィール
本田哲也(ほんだてつや)
ブルーカレント・ジャパン代表取締役社長。米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー。戦略PRプランナー。
「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出された日本を代表するPR専門家。1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、ブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。戦略PR/マーケティング関連の著作、国内外での講演実績多数。2017年に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』を刊行。2015年より公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)マーケティング委員。カンヌライオンズ2015公式スピーカー。世界的なアワード『PRWeek Awards 2015』にて「PR Professional of the Year」を受賞。カンヌライオンズ2017PR部門審査員。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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