では、マーケティングで成功を収めている企業は、この“エンゲージメント3原則”をどのように実践しているのか。渋谷氏は、海外の企業事例を紹介しながらそのポイントを整理した。
まず、「最適なメッセージ」という点で紹介したのは、米国Durham Denimが実践するマーケティングだ。
同社は、ウェブサイトを構成する要素のうち、ユーザーの属性などに合わせてパーソナライズできる枠や天候など外部要因に合わせてターゲティングを変えられる枠だけでなく、本来であれば素材を固定しているはずのメインビジュアルやキーメッセージまでもをユーザーひとり一人に合わせてパーソナライズしているという。さらにはクリエイティブの展開を変えながら効果を比較検証し、メンテナンスを行っているとした。
パーソナライズ枠はユーザーのブラウジング履歴に基づき、また外部要因の枠ではユーザーの現在位置に応じて天気や季節に応じたレコメンドをしているとのこと。加えて、ユーザーの商品検索の結果にも、ユーザーの行動履歴を反映させるなど、徹底したパーソナライズを行っている。
渋谷氏は「最適なタイミング」について、顧客のアクションから経過した時間の長さに応じて購買の可能性が急激に低下するというデータを引き合いに出し解説した。一般的なバッチ処理でユーザーに送信されるフォローメールなどのアプローチは、ユーザーがウェブの閲覧や検索、カートの放棄といったアクションから相当な時間を経過してから行われるが、そのタイミングではユーザーの購入意欲は著しく低下してしまい、効果を期待できない。ユーザーのアクションに対するフォローは、早ければ早いほど効果的なのだ。
「一般的なITシステムでは、ユーザーへのフォローが行われるのはアクションの翌日になる。しかしそれでは、ユーザーの購入意欲は失われ、別の店舗で購入してしまっているかもしれない。翌日のフォローでは可能性は限りなくゼロになってしまう」(渋谷氏)。
では、フォローアップが早ければどのような効果が生まれるのか。渋谷氏は、「アクションのあとすぐにフォローができれば、購入意欲は6割程度という高い状態でユーザーに接触することができる。翌日のフォローで失われてしまう売上を想像すれば、速やかなフォローはすぐに売上アップに結び付くのではないか」と語り、フォローアップのスピードアップがビジネスの拡大に直結する可能性を秘めていることを示した。
また渋谷氏は、ライフイベントに合わせた購買チャンスを企業が把握して適切なアプローチをすることも重要な点に挙げた。例えば誕生日や結婚記念日のプレゼントを購入したいという顧客に対して、遅すぎず、早すぎないタイミングでユーザーが興味のある商品をレコメンドすることが、購買に直結する可能性があるのだ。
渋谷氏は、こうした購入タイミングを「Golden Selling Window(GSW)」という言葉で説明。GSWの間に送信したメッセージに対する収益の貢献は、一般的なメッセージ送信の場合と比べて非常に大きい。GSWの時期とそうではない時期で収益チャンスの差は、最大で40倍にもなるのだという。「重要なのは、クロスセルなどという味気のない言葉ではなく、顧客にライフイベントを最高の体験にして欲しいということをゴールにして、“おもてなし”のコミュニケーションを創出することだ」(渋谷氏)。
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