7月のリリース以来、日本国内で社会現象を巻き起こしたスマートフォン向けゲーム「Pokemon GO」。そのリリース直前からコラボレーションを発表して話題となったのが日本マクドナルドだった。米国での先行リリース以降、世界中に大きな衝撃を与え、日本でもその公開が待ち望まれていた水面下で、日本マクドナルドはどのようにしてPokemon GOとのコラボレーションを実現できたのだろうか。
「ad:tech tokyo 2016」で行われたパネルディスカッション「新テクノロジーが生み出すマーケティングの変革~IoTの可能性」で、日本マクドナルド 上級執行役員 マーケティング本部長の足立光氏が、Pokemon GOとのコラボレーションの裏側について語った。
足立氏は米国に生まれ、日用品メーカー大手のP&Gジャパンのマーケティング部門、アパレル大手のワールドの海外事業部門などを経て、2015年にマクドナルドに。近年は“事業再建請負人”として手腕を発揮し、「グランドビッグマック」「怪盗ナゲット」「マックの裏メニュー」など話題性のある商品の企画やプロモーション立案などを手掛けてきた。
ちなみに自身もPokemon GOはリリース当時からの“ポケモントレーナー”で、会場には「Pokemon GO Plus」を身に着けて登場した。
日本マクドナルドは、Pokemon GOが日本でリリースした7月22日に単独ローンチパートナーとしてコラボレーションを開始。約2900店舗のマクドナルドが、ユーザー同士で対戦できる「ジム」やアイテムが入手できる「ポケストップ」としてゲーム内に登場した。
足立氏によると、Pokemon GOという全く新しいアプリゲームとのコラボレーションが実現した背景のひとつには“タイミングの良さ”、つまりマクドナルドが置かれていた状況があったのだという。
「ここ数年のマクドナルドは売上が減少し“どんな施策をしてもダメ”という状況。そのタイミングで私が“変革”を求められて入社した。変化や新しいことには寛容な雰囲気だった」と足立氏は振り返る。とはいえ、日本でまだリリースされていないPokemon GOを社内に紹介してもなかなか理解は得られない。そこで、Pokemon GOのことは社内で一切共有せず、秘密裏にプロジェクトを進めたのだという。
「初めてポケモン社でPokemon GO(のデモ)を見せてもらったのは、3月3日のことだった。私はIngressのユーザーでもあったので、Ingressの世界にあのポケモンが載ると聞き、Ingressではローソンなどがマーケティングに活用していたので、“これは絶対に上手くいく”と思った。加えて、“ポケモンを歩いて探して捕まえて育てて闘わせる”というポケモンの世界観を再現したストーリーを聞き、社会現象にまでなるとは思わなかったが、間違いなくヒットすると思った。すぐにコラボを実現する方向で事業計画を立て、マーケティング担当3人、ファイナンス担当2人、サラ・カサノバ社長の6名だけでプロジェクトを推進した」(足立氏)。
ちなみに足立氏によると、3月に初めてPokemon GOに触れてから、コラボレーションの実施が社内で決定したのは2カ月後の5月。それから約2カ月余りで準備を進めてPokemon GOのリリース当日にコラボを開始したという。「Nintendo DSでコラボを行った際には店舗に専用の機材を導入する必要があったが、(Pokemon GOはスマホで利用するデジタルコンテンツのため)実装にあたっては店舗側に作業が一切発生しなかった。店側で負担がないことが素早い導入に繋がった」(足立氏)。
なお、コラボレーションの開始にあたっては相応の大型投資が発生したそうなのだが、足立氏によると「1年分の投資を数週間で回収することができた」とのこと。素早い意思決定と準備が高い投資対効果を生み出したようだ。
ちなみに足立氏によると、この取り組みがPokemon GOにとって世界初の企業コラボレーションとなったのは、“たまたま”だという。「日本ではIngressがさまざまな企業とコラボをしていたし、Pokemon GOは米国でも先行してリリースされていたので、私たちよりも先にどこか企業がコラボするだろうと思っていた。しかし結果的には、どこの企業もPokemon GOに乗っかってこなかったのだ」(足立氏)。
足立氏は、マクドナルドにおける企業コラボレーションの狙いについて、「マクドナルドとしては、世の中にリーチしてベースユーザーを増やしたいという思いがある。Pokemon GOとのコラボはたまたま注目を集めたが、それ以外にも石油大手のエクソンモービルや日本自動車連盟(JAF)などともコラボを進めている。全くの異業種だが、私たちがリーチしていないユーザー層にリーチでき親和性が高いという意味ではコラボの意義は大いにあると考えている」と語る。業種業態を超えたマーケティング・エコシステムを構築することで、幅広いユーザーリーチを実現できると考えているのだ。
加えて足立氏は今後のマーケティングにおけるテクノロジの活用について、「もともとユーザーとゲームの親和性の高さはわかっていた。Pokemon GOとのコラボはその最初の施策となったが、今後はゲームなどデジタルコンテンツとのコラボレーションをどんどん推進していこうとしている。マクドナルドはポケモンだけでなく『妖怪ウォッチ』(レベルファイブ)ともお付き合いがあるので、何かコラボができるのではないか」とコメント。
加えて、マクドナルドのスマートフォンアプリが9月時点で2500万ダウンロード、1000万MAUである点を紹介した上で、「(アプリの普及によって)これだけのユーザーに直接リーチすることができる。そこで生まれるデータをもっとマーケティングに活用するために、ビッグデータの活用も視野に入れて推進していきたい」と語り、マーケティングにテクノロジを積極的に活用していく姿勢を見せた。
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