2016年は次々とVR(バーチャルリアリティ)端末が発売され、日本では「今年がVR元年になるのか」との議論もされている。
VRといえばゲームなどエンターテインメントを思い浮かべる人が多いだろうが、他の分野でも導入が始まっている。
たとえば、不動産業界ではバーチャルで物件の内見ができるバーチャルモデルルーム。3DVRゴーグルを使うと実際に室内を歩いているような臨場感を感じられるという。メーカーの製造現場では作業性を検証するのに利用されており、コマツでは5面に投影されたVR環境で建機を操縦し、作業を体感できるシステムが導入されている。
世界的には、2016年は企業によるVR導入実験の年とも言われており、とくに営業マーケティングでの利用が試みられている。米国では、最近、ジョニーウォーカーなどで知られる英大手酒造メーカー、ディアジオが飲酒運転防止にVRを活用するということで注目を集めた。酒造業界では初めての試みだ。
同社は5月、国連訓練調査研究所(UNITAR)と「都市での道路安全イニシアチブ」で協力することで2年の契約を交わしている。交通事故は世界的に死因9位で、とくに15~29歳の若者の死因ではトップであり、国連の「持続可能な開発のためのアジェンダ2030」でも2020年までに交通事故による死傷者を半減させること目標として掲げている。
ディアジオでは、長年、飲酒運転削減活動を行っており、同イニシアチブでも、とくに飲酒運転の削減に注力するという。今回のVRプログラム開発は、その一環であり、同社の北米部門で行われている。
実は、安全運転教育にはトヨタが一足先にVRを取り入れている。同社は2015年、デトロイトモーターショーでOculus VRのヘッドセット、Oculus Riftを使った運転シミュレーターを公開した。
これは、トヨタが全米で展開している10代の若者とその親や学校を対象にした安全運転教育プログラム「TeenDrive365」の一環で、運転中に注意散漫になったときの状況をVRを使って再現するというものだ。
運転席に座ってハンドルを握り、車外の騒音やラジオの音の中、メールを受信したり、助手席や後部席に座る友人に話しかけられながら、注意をそらすことなく安全に運転できるかを体験するものだ。
米国では車なしでは通学もままならないため、高校に入ると運転免許を取得するのが通例だ。高校を卒業するまでに半数が交通事故に巻き込まれるといい、交通事故は10代の死因一位であり、若者向け安全運転教育は欠かせない。
体験者が運転席に座るトヨタのVRとは異なり、ディアジオのVRでは体験者は車の助手席に座り、酔っぱらった運転者の運転を味わう。運転席でなく助手席なのは、運転者が酔っているとわかっていながら運転を許してしまう人たちがいることから、飲酒運転の予防は助手席から始まることを啓蒙したいからだという。
実際に交通事故に巻き込まれた人たちから話を聞き、その体験談もプログラムに取り入れる。
できるだけ多くの人に体験してもらえるよう、Facebook360、YouTube, VRヘッドセットなど複数のプラットフォームに対応させるという。
60カ国以上に同プログラムへの参加を促しており、アフリカ、アジア、中南米で交通事故死の多い国を中心に15か国で、今秋から展開を始める。
ディアジオでは今後も、運転だけでなく、飲酒を巡る他の問題防止にもVRを利用していく予定だという。
VRアクティブユーザは、2018年には世界的に1億7000人以上に達するとの予測もあり、今後、各業界でのVR活用が期待される。
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