「クチコミデータには注目しています。私は毎朝起きたら、Twitter検索するほどです」と柴田氏。続けて、「各個人で記事やクチコミをチェックし、特筆すべきトピックスであれば、社長が参加する定例会議の議題にもあがります。その場で、“こういうことなら、●●を改善しよう”といった次につながるアクションが生み出され、“●●をやってみたらこうでした”という報告がなされたりと、クチコミデータから社長も交えてPDCAサイクルを回しています」(柴田氏)。
なぜ、そのようにクチコミデータや最新のニュース記事に着目するのか、マインドについてもご質問しました。「minikuraはウェブのサービスというものの、リアルなモノの物流と倉庫のオペレーションで成り立っている仕組みです。提携会社を含むminikuraメンバー全員が、ウェブの技術と物流の技術、または写真撮影の技術という情報を求めて、ウェブの記事やSNSなどに網を張っている状態です」(柴田氏)。
クチコミ以外のデータの活用については、このように答えてくださいました。「データの活用としては、googleAnalytics、ウェブ広告数値、基幹データ(BIツール)、アンケートなどさまざまなデータを日々収集しています。世の中にないサービスを提供し続けているため、現在はさまざまなサービスのユーザビリティやスタッフが一使用者としての使い勝手を日々研究し、インターフェイスを修正しています。そのデータをmixして顧客像と傾向、ニーズの波、費用の当て方を分析して適切に活用することが大事だと考えております。成果が生まれないことは多々ありますが、KPIに対して忠実に変化を加えていくことで数本のヒットは生まれると考えています」(柴田氏)。
成功する企業家は、ほかの誰もが着目してないようなファクトデータを見つけるところから成功物語を始めます。同社もあらゆるデータがヒット企画のヒントになっています。
ネット広告代理店出身の今成氏の、最新広告への感性も光ります。「最近、少数のヘビーユーザーさん向けにアンケートをとる施策を行いました。minikuraはお客様に荷物を入庫してもらわないと赤字になるサービスのため、アンケート広告実施の背景には、ロイヤリティの高いお客さま、そして箱を注文するだけのお客さまについて深く知る必要性がありました。実施した結果、多くの方が『●●マンション』と記されていて、マンション居住者が7割に至ることが判明しました。ということは、都心近郊のマンション居住者にもっとアプローチすればよいのではないかと。例えば、豊洲とか二子玉川とか。それでマンション居住者のみにリーチできるウェブ広告を探したところ、ジオターゲティング広告で実施可能なものが見つかりました。それは現在試行中なのですが、もし反響が高ければピンポイントでポスティングも検討しています」(今成氏)。
データドリブンマーケティングは全てデジタルで完結する必要はないと筆者は考えますし、実際に同社が進めているやり方はまさにデータを礎にリアルとウェブを行き来しながらマーケティングを推進している好例だと思います。実はインタビュー中も、筆者は“ということは”という言葉に興奮したのですが、データドリブンなチームではこの言葉が飛び交います。
今後の展望として、プラットフォーム構想についても回答をいただきました。
「今後は、お預かりする商品一点一点にさらに“情報”を乗せていきます。具体的には、誰がどういう商品を所有し、購入や転売をどこで行うのかという購買履歴情報や、商品情報や購入者の想いなどを付加します。それにより、他社とは異なり、たった一つの物から多数の情報を得られるような場にしていければと思っています。また、minikuraを利用いただく上でのハードルをもっと下げていきますので、先ほどご説明した通り、私たちが色々な企業の夢を実現するプラットフォーマーになれればとも思っています」(柴田氏)。
本稿は、デジタル時代のメディアとは何かという問いから始まりました。このCNET Japan連載企画もNewsPicksやLINE NEWSなどで掲載いただき、メディアを通じて出会う方がほとんどですので、影響力はいまだに十分あります。
また、APIは簡単に作れますが企業や開発者から求められるものになるとは限らず、実質的にAPIはすべての会社が提供できるものではありません。やはり、そこには他社が及ばないほど強大な優位性が不可欠です。よって、API公開・提供をせずにマーケティングを進めることも一つの手です。
もし向いている企業があるとすると、優秀なエンジニアたちを抱えるIT力に富むサービス業か、アナログ企業です。前者では、直近WantedlyやSansanといった成長企業がAPIを公開しました。
意外に思われるかもしれないのが後者。なぜ向いているのかと言うと、アナログ企業(厳密に言えば、昔はアナログ企業だがデジタルシフトし、今はITサービス企業)には、リアルな時空間を駆使した、ウェブサービス企業の持ち得ないダイナミックなオペレーションがあります。その好例が寺田倉庫であり、同社のようになるには事業会社たちの有しない(物流や保管の)独自ノウハウやリソースが必要です。
したがって、デジタル時代のマーケターはどのレイヤーで勝負するのかを見定める必要があります。日進月歩のメディアプランニングで勝負するのか、APIという1つ上のレイヤーで勝負するのか。戦略とは、戦を略く(はぶく)ことですから、このような視座のもとマーケティングを考えることは大事だと思います。
廣部 嘉祥
クチコミマーケティング協議会(WOMJ)メソッド委員会所属 個人会員
コンテキスト・エディター
2007年よりデジタルエージェンシーへ入社後、ファッション、ホテル、ITサービス、製薬等各種グローバル企業のデジタルマーケティングからPRプランニングまでを担当。2012年よりメソッド委員会に所属し、2015年夏より現職。
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