日本のトランクルーム市場は米国の約3%の約500億円規模ですが、年率10%を誇る成長市場に当たります。天王洲アイルに拠点を構える寺田倉庫は、1950年創業の由緒ある倉庫会社。若手アーティスト支援のため「TERRADA ART AWARD」を開催したり、日本ブランドの希少な画材を取り揃えた画材ラボ「PIGMENT(ピグモン)」を運営したりするなど、話題になるさまざまな仕掛けを繰り広げる企画会社としての顔をご存じの方も多いでしょう。
寺田倉庫は、荷物をお預かりするだけの競合他社とは一線を画し、箱から取り出したモノを1点ずつ撮影して管理するクラウドサービス「minikura」を始め、現在年100億円を越える売上にまで成長しました。minikuraのサービス開始のきっかけを、寺田倉庫のminikuraチームリーダーである柴田氏は次のように説明してくれました。
「もともとワインや絵画、メディアなど保管・保存技術が必要なモノを預かるノウハウを培い、天王洲に加え、城南地区(目黒~大田~品川区付近)で富裕層向けにワインセラーや美術品保管などを中心に展開していました。ターゲットを広げるために“誰でも、どこでも、いつでも自分の倉庫が持てる”をコンセプトとした、ウェブ完結のminikuraを2012年より始動しました」(柴田氏)。
minikuraは、1箱200円/月で預けられる「minikura HAKO」と、1点ずつ撮影されウェブで確認できる「minikura MONO」(1箱250円/月)からなります。都心のマンションに暮らす私の友人も利用するような、都市生活者のニーズをうまく満たしたサービスです。「MONO」にはヤフオク!に簡単に出品できたり、衣類ならクリーニングオプションを付加できたり、従来のトランクルームにはない利便性と楽しさが詰まっており、2015年11月時点で20万人の顧客を持つまでに成長しました。しかし当初はマーケティングがうまくいかなかったようです。
「忘れもしないのが2013年の夏のコミケです。会場の外でチラシを配ってminikuraをPRしていたのですが、『minikuraって何?』『寺田倉庫、知らない』といった声を頂戴しました。実は、同年1月より雑誌、交通、ウェブなどの広告を積極的に展開していました。ウェブ広告に至っては、業界最大規模のバナーで通常月の6~7倍のサイト集客を実現しましたが、それでもサイト訪問者は増えてもコンバージョンしないという状況。良いサービスという自負はあったのですが、手応えを感じられなかったのでサイト分析を中心にPDCAサイクルを細かく回すようにもしました」(柴田氏)。
注目すべきはその後の事業転換です。「その時期に、発想を変えてコラボレーション企業にminikuraを広めていただけるようAPI提供開始に至りました。第1弾は、2013年秋の、アニメや漫画のグッズを取り扱うアニメイト社と連携した『アニメイトコレクション』。minikura自身が直接宣伝するよりも、私たちは保管業としてプラットフォーム側に徹し、各事業会社にご利用いただくことを目指しました」(柴田氏)。
こういった発想ができるのはデジタル時代の経済を理解しているからだと私は考えます。事実、同社は自分たちのことを「IT物流」と称するほどITテクノロジへ傾倒しています。デジタル時代にIT物流屋の同社が実現しつつあるAPIプラットフォーム戦略の模式図をご紹介します。
寺田倉庫が築き上げたノウハウがそれぞれAPIとなり、各事業会社の注文・クレジット決済・預入れ&取出しといった重要因子として駆動していることが分かると思います。
次に、APIデータ分析によって分かったことをご紹介します。
「minikura APIを活用したサービス『ART STAND』は、自分の作品を預ける作家ユーザーとその作品を閲覧・レンタル・購入できるユーザーで成立するARTのシェアリングサービスです。実際に商品管理APIによって集約されたデータを見ると、受賞歴のある作家の作品がレンタルされやすいと言う訳ではなく、よくレンタルされやすい作品は学生の作品だったりするんです」(柴田氏)。
さらに、具体的にお聞きすると、下記のような“データドリブン”が浮かび上がりました。
「フィギュアコレクター向けの、バンダイコレクター事業部との提携サービス『魂ガレージ』においては、minikuraだけでは絶対アプローチできないようなユーザー属性や趣向属性を入手することに挑戦しようとしています。それにより、今後はユーザーのモノを購入した後の行動も予測できるようになるので、プロダクトを作る際のマーケティングデータにつながると思います。
実は、本提携サービスは絶対うまくいくという自信があってローンチさせたものです。なぜなら、先方の購買層とminikuraのユーザー層が一致しており、また、minikuraでは多くのフィギュアなどのホビーアイテムの保管実績があったからです。実際のプロモーションにおいてもほぼ広告費ゼロで、継続的に会員獲得ができていました」(柴田氏)。
ローンチからサービス改善までと、さまざまな段階でデータが意思決定を支えていることが分かります。次の事例においては、事業成長に欠かせない重要課題の設定に役立てっていることがうかがい知れました。
「物欲刺激SNSのSumallyがminikura APIを活用したサービス『Sumally Pocket』は、上述の2社に比べると特色が出ず、言い換えると既存のminikura利用者と近しいユーザー属性であることがわかりました。それを前提に、さらなるサービス普及を目指すためには、ユーザーが都心近郊のみに留まっていることが次に超えるべき課題としてあがっています。よって、Sumallyの担当者とは、都心近郊のユーザーのみのメリットを創出するだけでなく、日本全国のユーザーにもご利用いただけるよう、共通の課題として今まさに戦略を練っています」(今成氏)。
さらに、サービス開発も担うお2人にはAPI連携の利点をうかがいました。
「ART STAND、Sumally Pocketともに、共同でサービスを1から企画しました。『新しいAPIを開発する=新しいオペレーションを確立する』ところから連携するため、片方のサービスが改善されるともう片方のサービスも同時に改善するような二人三脚の状態になります。また、共通の数値目標を持つため、開発過程での意見交換も闊達です。よって、私たちにとって最も効果的なPDCAサイクルの回し方は、自社サービスではなく共同サービスの成否を、寺田倉庫社員だけではない外部の頭脳を活用して、チェックすることになります」(今成氏)。
APIはすべての会社が構築・提供できるものではありません。また、寺田倉庫の高いデジタルマーケティング力を説明する上で、APIだけが材料ではないことを、既述の効果分析・課題設定でご理解いただけたかと思います。
インタビューの最後に、新しい消費行動に創発されたサービスだからこそ必要な、時代の変化をスピーディにキャッチアップする方法やマインドについてうかがいました。
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