マイクロアド、海外事業の黒字化達成--渡辺社長が明かす好調な要因 - (page 2)

日本本社との強固な連携で中国市場のニーズに対応

――マイクロアドの海外拠点の中で、最大の売上規模を持つのが中国です。同拠点は自社プロダクト「MicroAd BLADE」を軸としたトレーディングデスク事業を展開しています。同拠点を率いるのが森さん。中国における好調の要因をどのように分析していますか。

森氏:直近四半期の売上で昨対比130~150%。また2015年は半期で2014年の売上を超えました。要因は、地場の金融系企業、また大手日系企業のインバウンドの需要を取り込んだ大型案件を受注できたこと。顧客企業の数は増え、単価も上がってきています。

 顧客から評価されているのは、日系企業ならではの納品レベルの高さです。ある金融系企業も新しいサービスの提供を開始する際のデジタルマーケティングのパートナーとして、地場の企業よりも日系企業の方が信用できるからという理由で選んでいただきました。


マイクロアドの中国拠点を率いる森氏

――組織面ではいかがでしょうか。

森氏:採用した人材がすぐに辞めてしまい育たない、というのが中国の外資企業にありがちな悩みです。2~3回の転職を繰り返すことで、給与が10倍になる人もいるのです。当社は一般的な外資系のような人事、評価制度にすることで優秀な従業員の離職を防いでいます。求めるパフォーマンスが高い従業員は、給与や報酬も高くなります。たとえば、優秀な従業員の中には、ボーナスの金額が日本の3倍くらいの者もいます。

――十河さんが東南アジアで展開している戦略と近いですね。

森氏:はい。十河とは地域を超えて連携し、お互いの成功事例を参考にし合っています。

――マイクロアド以外の中国の日系のデジタルマーケティング企業の状況は。

森氏:アドウェイズがいます。彼らは特にスマートフォン広告に強みを持っており、当社はそれも含むデジタルマーケティング全般を扱うトレーディングデスクのようにすみ分けされています。密に連携しており、彼らが当社のDSPを販売してくれることもあります。

――ずばり、日系企業の中国事業における成功の鍵は。

森氏:プロダクト、日本本社との連携、採用力の3つだと思います。

 日本本社との連携について。日系企業の海外事業においては、現地法人の社長など事業責任者が優秀で、何か投資をしたいと思っても、日本本社の社長にすぐに連絡して決裁を取ることができない。そうしたことを繰り返すうち、海外拠点と日本本社との間の溝が深まって、気持ちが切れてしまうということはありがちです。当社の渡辺は現地のことを分かってくれている安心感があります。


東南アジアで展開している戦略も取り入れている

――今後の中国事業の展望は。

森氏:地場、日系の大手企業の大型案件をさらに受注し、収益の柱を増やしていきたい。そのために日系企業においては、中国から日本へのインバウンドの需要を取り込みたいです。

 日系企業にとって中国におけるインバウンドマーケティングは重要です。なぜなら、中国人は旅行で日本を訪れる前に商品やブランドを認知しないと信用して買ってくれないからです。逆に知ると買ってくれます。

 すでに大手クライアントとインバウンドの取り組みを始めているほか、地方自治体からの問い合わせもいただいています。インバウンドの広告予算は概ね日本にあるため、中国と日本と連携して、今後もインバウンド事業に注力していきたいと考えています。

 個人的には、中国で拠点を増やしたいとも考えています。候補地としては、大手自動車メーカーのマーケティング拠点が集まる広州、スマートフォン向けのゲーム企業が集まる深セン、その次に内陸部に先行するべく成都などです。

新たな海外ビジネスに挑戦する基盤が確立

――アジアに進出している日系IT企業を取材すると「アジアは市場がまだまだ小さいから、事業の優先順位を低くせざるを得ない」という声が聞かれます。これについてどのように感じますか。

渡辺氏:今からアジア市場に入ってくるのではもう遅いです。重要な市場は立ち上がる前に押さえておかないといけません。立ち上がった時にはもう勝負は決まっていますので。これは日系企業全般に言えますが、これから攻めようとする市場に、トップ自ら出向かない企業が多い。視察して、ただ帰るだけ。

 また、組織の意思決定層が何重にもあり動きが遅い。日本的な正確な市場予測に基づいた稟議でないと意思決定ができないというシステムでは、市場が爆発したときに顕在化するであろう潜在的なニーズに応えられるだけの体制を、それまでに作ることができないのです。

 こうした日本的なシステムは日本でしか通用しません。アジアの地場企業や、アジアに進出している多国籍企業とパートナーシップを結ぶ際にもそうですが、そのような遅い動き、決裁者が誰なのか分からないようなシステムは嫌われます。

――海外事業の黒字化が、今後のビジョンにどのように影響しますか。

渡辺氏:2015年は日系企業のインバウンド、アウトバウンド需要に応えられる事業を強化していますが、海外事業が黒字化したことで、当社がそれを担える存在であることを社会に理解してもらいやすくなるのではないでしょうか。

 たとえば、今年の年初に私が、「台湾の人たちを無料のLCCで日本に連れてくることができるビジネスモデルの構築に取り組む」と言っても、誰にも理解されなかったでしょうが、アジアを面で押さえ、黒字化したことによって、よりイメージを湧かせてもらいやすくなったかと。「海外」というものが、マイクロアドの1つのパーツとして認識されるようになるのだと思います。

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