こうしてローンチされたTilit Chef Goodsでは、彼らのオリジナル製品であるシェフコート、エプロン、シェフパンツ、ワークシャツ、キャップなどが販売されている。シェフの激務に耐えられるよう実用性を重視し、キャンバス地やワックスコットンなどの耐久性のある素材でつくられているほか、現代風の洗練されたデザインを採用しているのが特徴だ。
同サイトの人気商品のシェフ用の半袖の服、「シェフコート」は約95ドル(1万1400円)。これはニューヨークに住む最先端の人々のファッションにマクラリー氏がインスパイアされてデザインしたものだという。
85ドル(約1万円)のエプロンは、トマトソースがかかっても落ちやすい撥水性の素材でコーティング。同じく85ドルのシェフパンツは伸縮性が高くて、動きやすくズボンの前面に道具を入れやすいポケットがついているなど、それぞれ現場で働く上での機能性の高さを誇っている。
このような機能性とデザインの特徴を持つTilit Chef Goodsだが、最初に販売したシェフコートのデザインはマクラリー氏らスタッフのみで決めたものではなく、実際に料理にあたるシェフや一般の利用者から話を聞き、「古典的なシェフコートを再発明する」ことから始めたのだという。
これは「#ChefCoatProject」と銘打たれた、米国やカナダのプロシェフから、新しいシェフのデザインをクラウドソーシングする企画だった。プロジェクトではまず、フィット感やスタイル、ポケット、素材や色、価格などを料理長や料理人らが自分のレストラン、あるいは自身で注文したいと思うかどうか調査したそうだ。
その結果、何百もの返事をシェフたちから受け取ると、一般の参加者の意見にもとづいて3つのユニークなデザインにまとめあげ、ソーシャルメディアやウェブサイト上で投票を募って、最終案を決定した。
そしてこのときもっとも多くの投票をあつめ、製品化されたのが上の写真の「Men’s limited edition chef coat」だったのだ。なおプロジェクトの参加者にはTシャツやTilit Chef Goodsで使えるギフトカードがプレゼントされた。
このプロジェクトは顧客の視点を入れて製品開発できるという利点がある。それに加えて顧客となるシェフ間でのTilit Chef Goodsの製品への認知度アップにもつながっている。顧客を製品開発に巻きこみながら顧客視点の確保、製品へのエンゲージを高めるということは多くのECサイト運営に参考にできる点が多い。
Tilit Chef Goodsの出発点は、シェフ用の服に普段着のようなデザインを持ち込もう、と創業者のマクラリー氏が考えたところにあった。
マクラリー氏はシェフや参加者の話を聞くまでは従来のようなシェフコートとはまったく別のデザインになると思っていたそうだが、利用者の声や要望を聞くうち、彼らが古典的なシェフコートを踏襲した上で、もっとフィット感が向上するようなものを望んでいることに気づいたという。
同サイトで現在販売されている製品の多くが洗練されたデザインでありながらも、既存のシェフ用の制服の昔ながらのイメージを壊さないレベルに落ち着いているのは、おそらくこの時の利用者の声を尊重しているためだろう。つまり彼らは、「シェフのためのシェフによって作られた」製品を販売し、支持を得ることができているのだ。
自分の持っていた不満から着想を得て、それを解消するためのサービスをつくることも大事だが、顧客となるシェフの意見を聞き製品開発に生かすなど、顧客の視点を忘れないこともまた、利用者を引きつける大きな要素だろう。Tilit Chef Goodsの次なる製品の開発にも期待がもてそうだ。
尼口 友厚
ネットコンシェルジェ
CEO
明治大学経営学部卒。米国留学からの帰国後、デザイナー/エンジニアとしての活動を経て、2002年に国内有数のウェブコンサ ルティング会社「キノトロープ」に入社。 2003年、同社関連会社としてネットコンシェルジェを設立。eコマースとブランディングを専門領域とし、100億規模の巨大ECサイトからスタートアッ プまで150を超えるクライアントを抱える。
2015年にベンチャーキャピタル2社より資金を調達し、キュレーションコマースプラットフォーム「#Cart」を開始。趣味はブラックミュージック鑑賞。著書に「なぜあなたのECサイトは価格で勝負するのか?」(日経BP)。
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