2015年は、広告やメディアを「明らめ」よう--「HOW」から「WHAT」。そして「WHO」の時代へ

本田哲也(本田事務所代表取締役)2014年12月10日 15時34分

 2014年も、残すところあとわずか。みなさんの今年はどんな年だっただろうか。何か新しいチャレンジはあっただろうか。そのチャレンジは成功しただろうか。それとも、途中で「あきらめて」しまっただろうか。

 この「あきらめる」というコトバには、ほとんどの場合ネガな印象をもつだろう。何かを途中で投げ出したり、悪い状況を受け入れることを指すからだ。「今期の売上達成、あきらめるしかないか」「あのイケメンはもうあきらめなよ」などなど。

 しかし、それは違うのだ。「あきらめる」の語源を紐解くと、もともと仏教用語で「あきらめる=明らめる」と書き、「物事の道理、真理を明らかにし、こだわりを捨てること」という意味なのだという。

 そう、実はとっても前向きで積極的な意味なのだ。そして、これほどまでに見事に、現在の広告やメディアのあり方を言い表している言葉もないんじゃないだろうか。

 それが、僕とLINE田端信太郎氏の共著「広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい」の裏メッセージだったりする。

 「広告やメディアをあきらめろだなんて、何事だ!」と、すわ炎上マーケティングか、と思われた向きも多いかと思うが、真意は違う。仏教用語の語源風に言えば、「広告やメディアで人が動くことの道理、真理を明らかにし、過去の成功体験へのこだわりを捨てよう」ということになろう。

 ひとつの区切りである2015年は、ぜひそういう年にしようではないか。思えば、15年以上業界に身を置く僕から見ても、そろそろ広告マーケティング業界が大きな節目に差しかかっている感が強い。

 ブログメディアが勃興し、今につながるソーシャルな環境が生まれてからほぼ10年。動画にシフトしたアドテクはもちろん進化中だけれど、一方で「枝葉」の話も多い。コンテンツマーケティングやネイティブ広告などのキーワードを纏いながら進行していることの本質には、勘の良い人たちはとっくに気づいている。

 では、広告やメディアをどう「明らめる」のか。僕の視点は、「『HOW』から『WHAT』。そして『WHO』の時代へ」というものだ。

 まずは「脱手法」が加速する。コミュニケーションの手法や手段は多様化し、相対的なコストが飛躍的に低下した。また、アンコントローラブルな世界では、(メディアにコストをかけようがかけまいが)シェアされる価値のあるものは自走する。このような環境下で、「HOW」に検討時間やコストの大半を投下すること自体、ナンセンスになってくる。

 どこに、より時間やコストを投下すべきかといえば、それは「WHAT」である。伝達すべき中身だ。メッセージであり、コンテンツということになる。もっともっと「何を言うべきか」の開発にリソースを割くべきだ。

 「インサイト重視」はグローバルな潮流でもあり、インサイトが欠落したコミュニケーションにいくら広告やPR、デジタルを駆使したところで、何も起こらない。インサイトをおさえたうえで、メッセージを開発し、それを自由な発想でコンテンツ化する。ムービーかもしれないし、リアルイベントかもしれない。「HOW」の話はそこからだ。

 そして、これからのマーケティングコミュニケーションでは、「WHO」の要素がもっともっと強くなっていくはずだ。

 「それ、誰が言ってますか?」ということ。企業もブランドも個人も関係ない。「そのメッセージをもっともパワフルに出せる主体」がエライのだ。同じメッセージでも、「誰が言っているか」によって結果がまったく違ってくる。

 メディアや代理店や企業やタレントや一般の生活者が、ゴッチャになってフラットになり、その状態が透明化されたのが「今」なのだ。

 これらをまとめたのが、「コミュニケーションマトリックス」だ。


「コミュニケーションマトリックス」

 過去数十年の主役は、「コントローラブルに自分で言いたいことが言える手法(主に広告)」、この表で言う左下に、多くの議論とお金が費やされていた。これがどんどん、右上方向に拡張していく。アンコントローラブル領域で守り攻めるノウハウが求められ、HOWよりもWHAT、WHOの重要性が増していく。これが、広告やメディアを「明らめ」ていく方向性だと思うのだ。

 もちろん、みなさん個人一人ひとりも同様。「今年はいまひとつだったなあ」と思い当たるフシ(?)がある方は、ぜひ2015年を「明らめる年」としたいものです。今年のコラムはこれで最後です。みなさん良いお年を!

◇マーケティングの「不易流行」
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◇ライタープロフィール
本田 哲也(ほんだ てつや)
ルーカレント・ジャパン代表取締役社長。フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー。
1970年生まれ。セガの海外事業部を経て1999年、フライシュマン・ヒラード日本法人に入社。
2006年、グループ内起業でブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。
2009年に『戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。P&G、花王、ユニリーバ、アディダス、サントリー、トヨタ、資生堂など国内外の大手顧客への戦略PR実績多数。
著書に『その1人が30万人を動かす!』(東洋経済新報社)、『ソーシャルインフルエンス』(アスキーメディアワークス)など。
最新刊『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が発売2ヶ月で5万部を超えるベストセラーに。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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