「感動体験を届ける」エイベックスのコアバリュー--映像進出の狙い

久保田朋彦(アンプリア代表取締役)2014年09月04日 12時00分
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 『いよいよ飛躍する「ネット動画広告」』の第6回目は、エイベックス・デジタルの常務取締役、デジタルビジネス本部長の村本理恵子氏にご登場いただきます。

--音楽コンテンツの消費のされ方が、随分と変わってきたように思います。CDなどパッケージ商品の売上の減少だけではなく、iTunesのようなダウンロードサービスも過渡期になり、Spotifyのようなストリーミングサービスにユーザーの嗜好がシフトしてきているように思います。パッケージ商品の販売はゼロだと思ってビジネスモデルを再考するといったパラダイムシフトも議論されています。プラットフォームのあり方の変遷は、結果として、コンテンツ消費のあり方にも大きな影響を与えると思います。そのような状況下で、エイベックスとして、どのようなコンテンツ戦略を取ろうとしているかお聞かせください。

エイベックス・デジタルの常務取締役、デジタルビジネス本部長の村本理恵子氏 エイベックス・デジタルの常務取締役、デジタルビジネス本部長の村本理恵子氏

村本:まず、エイベックスが映像ビジネスを始めた最大の理由は、音楽ビジネスの先行きを考えた時に、従来のCDをベースにしたマーケットは縮小傾向にあると判断したためです。音楽、映像、ライブ、アニメ、アーティストグッズなど、エンターテインメントを最善の方法でお客さまに提供することに対して、従来以上に積極的に取り組んでいます。

 また、「コンテンツ」という概念について、幅広く捉えています。広い意味でのコンテンツは、1つの楽曲であり、アーティストであり、関連するグッズであり、映像と音楽をミックスさせた新しい作品であり、枠にはまった領域はないと考えています。

 加えて、エンターテインメントの世界でも、デジタル化の流れがますます進んでいます。例えば、CDの再生装置のないPCやタブレットが売れているという事実は、エンターテインメントを楽しむ媒体が、従来のパッケージから、デジタル音源にメディアそのものが変わってきていているということを意味しています。今後もこの傾向は加速していきます。このような状況で、ヒットコンテンツの作り方そのものも変わってきています。そこで、エンターテインメントを取り巻くあらゆる人、アイデア、嗜好や行動そのものを取り込んでいくために、エイベックスとして確固たるプラットフォームを持ちたいと考え、配信事業を始めました。

 コンテンツとプラットフォームは表裏一体の関係にあります。お互いの存在があって始めて、ビジネスとして展開していくことが出来るものと考えています。プラットフォームの変化を考えると、エイベックスとしては、コンテンツを作り続けられる環境が必要であり、クリエイターのためにマーケットを発展させていくことも自社の使命と考えています。

 新しいマーケットにおいては、ヒット作品の作り方や求められるコンテンツが変わってくるかもしれません。こうした新たな潮流に寄り添いながら、新しいコンテンツを作っていく、そのためのプラットフォーム戦略です。コンテンツそのものが変わっていく中で、自社でプラットフォームを持ち、市場の動向に適応し、リードしていくということです。

 この観点から、自社の提供するプラットフォームであっても、他社のコンテンツも揃えます。ユーザーが求めるコンテンツを最優先にしているので、自社に閉じこもることはありません。プラットフォームの活性化を優先しているからこそ、ヒット作品を生み出すことができ、そうしたヒット作品がさらにプラットフォームを成長させていく、こうした好循環をエイベックスとして作り出していきたいと思っています。

--dビデオをはじめとする、動画配信事業が絶好調です。サブスクリプションユーザー数も600万人に近づいてきており、WOWOWやスカパー等の会員数300万人強と比較すると、その規模は驚くばかりです。その結果、ユーザーの動画の消費行動も随分と変わってきたように思います。どうやってここまでのトレンドを作り出すことができたたのでしょうか。

村本:特定のコンテンツに対して、個別にお金を払うという発想を転換する必要があります。Bee TVは月額300円、dビデオは月額500円と、低めの価格設定をしています。この価格設定は、エンタメを楽しむ入場料と捉えているためです。この入場券さえあれば、好きな時に、ドラマ、楽曲のミュージックビデオ、カラオケなど、好きなものを何でも楽しめます。つまり、コンテンツの対価として価格設定をしているのではなく、ユーザーのエンターテインメントを楽しみたいという欲求に対しての利便性の高いサービスを提供していると考えています。

 特定のコンテンツのみを買おうとする場合、誰しも購入の判断に迷うことがあると思います。エイベックスの配信プラットフォームは、入場料を低く抑えて間口を広げることによって、これまでであれば購入の判断に迷うようなコンテンツやアーティストとの出会いを創り出せます。こうした出会いが、CDやDVDの購入、あるいはライブに行くなど、他の消費行動に結びつけばよい、という考え方です。したがって、このプラットフォームはエンターテインメントを楽しむ入口を提供しているのであって、入場以降に追加料金を取ろうとも思っていません。

--他のビジネスへの波及効果も加味しつつ、同時にユーザーの目線からコンテンツを普及していく試みと理解しました。ただ、入場料と考えても、300円や500円は非常に低価格という印象です。競合他社がなかなか追随出来ない理由かもしれません。

村本:入口を広く設けるという意味で、どの程度であれば納得感が得られるのか、ここでもユーザー目線に立った上で価格設定をしています。ただし、コンテンツを安売りするつもりはまったくありません。例えば、レンタルDVDであっても、借りて失敗するのは嫌だから借りないといったケースもあります。プラットフォームは、気楽に良質なコンテンツと出会える場を作ることが目的です。こういった意味では、主なターゲット層はコアな映像ファンというより、映像体験に新たな出会いや利便性も考慮するような、言ってみればライトなお客様ということになります。

--非常に興味深い考え方だと思います。一方で、敷居を低くして新しい出会いの場を提供するというポイントを突き詰めると、入場料は無料でもいいのではないかとも思えてきますが、いかがでしょうか。

村本:無料でご提供するという考え方もあるかもしれません。ただし、低価格であっても入場料を支払って頂けるユーザーは、コンテンツに価値を見いだしている方々です。エイベックスとしては、あくまで良質なコンテンツとの出会いを提供したい、そのためにはコンテンツのプラットフォームをビジネスとして発展させていく必要もあります。権利者の方々に当然価値に見合った報酬をお支払いしていく必要があり、クリエイターにとっても新しいマーケットを創造していく、こうした考え方をベースにエンターテインメントを巡るマーケットを作り上げていきたいと思っています。

--2014年は日本でもインターネット動画広告元年といわれています。dビデオは現在サブスクリプション課金のみですが、広告モデルなど次の一手、将来に向けた新しいビジネスモデルについてお聞かせいただけませんでしょうか。

村本:次の一手は申し上げにくいというのが正直なところですが、「もっと楽しく、もっと楽に」というシンプルな考え方を土台に、新しい動画の楽しみ方を追求しています。Bee TVがdビデオという次のステージに発展していったように、サブスクリプションモデルにこだわることはなく、他ビジネスモデルも検討しています。実際に、Pay per Viewも始めています。お客様のニーズに対して、より使い勝手の良いインフラとして提供したいと思っているので、ビジネスモデル自体についても、マーケットの動きを捉えて柔軟に考えています。

 答えは非常にシンプルになりますが、ユーザーが喜ぶなら取り組むが、そうでなければ考えないということだと思います。ただ、ユーザーにとって、新しい情報が入る、心地よいといったよりいい環境を作ることができて、ビジネスモデルを組んでいけるのであれば、今のプラットフォームの新しい形を模索し、事業化します。単に映像コンテンツの隙間に動画の広告を入れるなど、ユーザーにとってストレスになるようなものは取り入れないと思います。

--YouTubeを中心に、セミプロが作った動画コンテンツのマーケットが広がっています。これらのコンテンツは、インターネット向けに作られている、ということもあり、これまでのマスメディア向けのコンテンツとは違った特徴があるようにも思います。例えば、Vimeoのような、クリエイターを中心とした新しい動画共有サイトも生まれてきています。いずれにしても、動画マーケットは拡大傾向にあると考えています。このようなトレンドをどのようにとらえていらっしゃるかご教示ください。

村本:振り返ると、「映画」というマーケットができた時に映画監督や映画スターが生まれました。テレビにおいても同じことが言えるのではないでしょうか。エイベックスとしては、インターネットという中から新しいスターが生まれるということを意識しています。そういった新しいスターを育成し、活躍できる場を提供するということがエイベックスのひとつの使命です。例えば、Youtuberを集めてそれぞれの良さを引き出しながら、どうコラボレーションしていけるか、といったことも考え始めています。

 また、豊富なコンテンツの中から、特定のユーザー向けに楽曲や映像などをレコメンドしていくこと自体はエイベックスの強みを発揮すれば十分に取り組んでいけると思います。こうしたキュレーターとしての役割をアーティストや専門家と協力して行うのも一案です。

 コンテンツへの導線を引く上で、入場料としての月額500円は非常に分かりやすい仕組みだと思っています。これまではプロが作ったものを扱ってきていますが、今後プロになっていくようなポテンシャルのあるアーティストや、新しい発想も同じように扱うことで、さらに幅を広げていける可能性はあります。

--最後に、エイベックスの動画配信ビジネスに対する本気度を教えてください。ユーザーの音楽や動画消費のあり方は移り変わっており、新しいマーケットを創造することが必要になってくると思います。そのためにはこれまでにない取り組みが必要になります。どのような方法で取り組くんでいきますか。

村本:もちろん本気で取り組んでいます。ユーザーの消費行動そのものが、過去10年を振り返っても大きく変わってきました。独自のプラットフォームも活用して新しいマーケットを作り、そのマーケットに対してコンテンツを提供していくこと、そうした一連の事業を積み重ねていかなければ、新たな潮流に取り残されてしまいます。

 こうした中で、非常に重要なのはスピード感です。エイベックスはエンターテインメント企業として、お客様が感動したり、驚いたりしていただけるような、仕掛けやコンテンツを作り、供給していきます。この際、サービスなのかコンテンツなのかはどちらでも構いません。コンテンツの消費体験としてより良い方法をお客様の目線に立って考え、作り上げていくということだと思います。そして、社内の体制も引き続き整えていきます。BeeTVを立ち上げた時と同じように、頭の中を一度真っ白にして、ゼロベースでアイデアを検討しています。今あるものをベストだと思い込まずに、これまで積み重ねてきたものを全く別の方向に使っていくこともあるかもしれません。お客様が求めているもの、つまりマーケットの必然を追っています。

 エイベックスは、音楽、ライブ、動画、アニメ、そのプラットフォームにも強みを持っています。こうしたコンテンツのシナジーを最大限に活かす上では、例えば音楽については、リアルとデジタルを組み合わせることがあっても良いと思います。また、事業を立ち上げ、進めていく上でエイベックスに足りないものがあれば、当然パートナー企業と力を合わせて取り組んでいきます。

 いずれにしても、エイベックスのコアバリューは常に感動体験を届けるということです。これさえ成立するのであれば、お客様にとって求められているもの、あるいは潜在的に求められているが未だ具体化していないものは躊躇なく扱っていきます。マーケットの仕組みを変えたり、新しいマーケットやコンテンツを作るということを常に考えながらも、私たちの根底にある音楽を聴いて元気になったり、感動したり、勇気づけられたりするなど、感動体験を求めるニーズに変わりはありません。「人がやらない、だからエイベックスがやる」。このスローガンはエイベックスのDNAになっています。これまでと同じように、新しい領域においてもチャレンジを続けていきます。

久保田朋彦
◇ライタープロフィール
久保田朋彦(くぼたともひこ):アンプリア 代表取締役、GCAサヴィアン マーケティングオフィサー
日米のメディアおよびデジタルメディア分野のM&Aアドバイザリーを専門に担当。直近では、日本テレビ放送網によるHulu日本事業の買収、博報堂による海外企業との戦略的資本業務提携、NTTドコモによるマガシークの買収、グリーによるFunzio買収、DeNAによるngmocoの買収、電通によるInnovationInteractiveの買収、SixApart Inc.の日本法人の売却、電通によるインド子会社の完全子会社化といった案件を、米国チームとともに成功に導くなど、日本企業と米国のテクノロジベースのデジタルメディア企業との橋渡しを実現。
その他、メディアおよびテクノロジー業界でのカンファレンスにも多数スピーカーとして参加。AMPLIA創業前は、GCAサヴィアン、ソニー、UBS等にて、M&Aアドバイザリー業務、経営企画業務等に従事。
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