前回、米国では2013年後半から「ITバブル2.0」を警告する声が聞かれるようになったことをお伝えした。
すると毎回、バブルの存在を否定する人たちが続出するのがバブルの特徴でもある。それも「今回は違う」と言って。先のITバブルの際には、「テクノロジの進歩によって経済の構造が変わった。これら企業、経済は伸び続ける」というエコノミストまでいた。先の不動産バブルに至っては、当時の連銀議長すらその存在を否定した。
今回も、特にIT業界人らから「今回は違う。可能性のある企業が伸び、経済全体が伸びているだけ」という声が聞かれる。彼らの多くがITバブル1.0を経験していない世代のため、当時のベンチャーキャピタルを含む業界人が同じことを言っていたことすら知らない。
彼らは「当時とは違う。ソーシャルメディアが市場を変革した」「当時の猿真似のドットコムやポータルなどではなく、今のIT企業の製品は独創的で変革的だ」という。The FancyやPiccsyはPinterestの真似ではなく、AnsaやFranklyはSnapchatの真似ではないというのだろうか?
今では、ネットで商品を購入して自宅に発送してもらうというのはあたり前のことだが、当時、ネットでペット商品を販売し、家庭に届けるというのは変革的、いや破壊的なことだった。実際に、流通チャネルが破壊された業界もある。ソーシャルメディアよりも、インターネットやEコマース誕生の方が、ずっと破壊的だったのだ。
「GoogleやAppleは生き残っている。ITバブル1.0でつぶれたのはドットコム企業だけであり、株価が下落しても、ほとんどのIT企業は生き残った」という反論もあるが、まず、比較対象としてAppleを持ってくること自体、当時のことをまったく知らないという証明である。また当時、検索サイト・ポータルといえばYahoo!、Excite、Infoseek、LYCOSであり、1998年9月に創業したGoogleは、まだ世に知られる存在ではなかった。
ITバブル1.0崩壊後、株価が暴落したのは、利益や売上のなかったドットコム企業だけではない。ドットコム企業にハードやソフトを供給していた周辺企業も、バブルのおかげで大いに潤っていたが、たとえば、株価暴落前の2000年3月に79ドルの高値をつけたCiscoの株はそれから14年、40ドルを超えたことはない(天井で買ったわけではない筆者も、同社の株を10年以上、塩漬け所有していた)。
「株価収益率(PE)が500を超えているLinkedInやAmazonの株は割高だ」という意見に対し、「将来性のある企業の評価にPEを使うのは間違っている。PEGを使うべきだ」と株価高騰を正当化しようとする証券業界人もいるが、株式時価総額の対GDP比が「いかなる時でも通用する、単独で株式市場の割高・割安を判断する最良の指標」というW・バフェット氏に言わせれば、今の米株価は著しく割高なのである。
現在、米株式が高騰しているのは、IT企業の成長性よりも、米連銀をはじめとする先進国各国の金融緩和政策による長引く低金利が原因だ。世界的に金余り状態で、行き場のない資金が少しでも高いリターンを得ようと、あらゆる市場でうごめいており、筆者のような雑魚投資家の周りにも資金が溢れている。米国では、数年前からヘッジファンドが一戸建て住宅を購入して賃貸経営に乗り出しているくらいだ。それもわずか4%ほどの利回り狙いで。
米株式市場では、信用買いも史上最高額に達しており、機関投資家や富裕層が低利で借金して株を買えることも株価高騰につながっているのである。前回とは異なり、金融危機後の大不況による痛手から立ち直っていない一般庶民は株式市場に参加できていない。
ITバブル1.0のときには子供だった億万長者を目指す若い業界人らの言うことが正しいか、これまでいくつものバブル崩壊を生き残ってきた──というより、それで儲けてきた億万長者の著名投資家の言うことが正しいか、1年以内には答えが見えてくるだろう。
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