一方、Macintoshのソフトウェアチームは、バグを見つけて修正するために、新年を迎えても全員が徹夜で作業していた。期日が迫るにつれてチームはいらだちを募らせ、コードの完成期日に間に合わないかもしれないと感じるようになっていた。
Bruce Horn氏とともにFinderを完成させるために作業していたCapps氏は、次のように語った。「Steveは、コードがどうにもならなくなる2週間前、PRキャンペーンでニューヨークにいた。われわれはある土曜日の午前9時にSteveと打ち合わせをした。発表の数週間前だ。遅れていたSteveを待つ間、私はクパチーノにいた人々に、われわれは間違った理由で互いの命を縮めようとしているのだと説得していた。皆すっかり疲れ切っていた。最初に購入した人たちにはソフトウェアのディスクを宅配便で送るようにすれば、工場での複製と梱包に間に合うようにディスクを完成させようとして、互いに命を縮めるような思いをしなくても良いかもしれない、というのが私の計算だった。しかし、Steveの驚くほど説得力のある声がスピーカーフォンから聞こえてきて、われわれは仕事に戻った。ディスクは間に合った。Steveは後になって私に、グループへの負担を減らしていたら、1カ月間、勢いを失っていただろうと語った。彼は正しかった」
すべてはJobs氏の「出荷するのが真のアーティスト」という信念のままだった。
ソフトウェアを完成させるための作業は最後の数時間まで続いたため、テストする時間はあまり残っていなかった。「1月18日の午前6時には発送しなければならなかったのに、午前2時になってもソフトウェアはどれ1つとしてうまく動作しなかった」と言うのは、MacWriteの開発を指揮していたRandy Wigginton氏だ。「想像しうる最悪のシナリオだった。MacPaintとMacWriteには、クラッシュを引き起こすバグがあったし、Finderではディスクのコピーができなかった。ROMにもあらゆる種類のバグがあった。しかし、午前6時までに何とか終えることができた」(Wigginto氏)
ぎりぎりになってから生じた別の非常事態としては、Jobs氏がMacintoshを披露するのに向け、プログラムを書く作業があった。披露は、フリントセンターで開催されるAppleの年次株主総会で予定されていた。「3日連続寝ずに作業した後で、披露が滞りなく進むよう徹夜をした。『炎のランナー』が聞こえてくると、今でも身の毛がよだつ思いがする」とCapps氏は言う。Macintoshの最初の公開デモでは、スクリーンが明るくなって、1981年の同名映画のテーマ曲である「炎のランナー」が流れた。
1月22日、スーパーボウルの後半が始まろうとしていたとき、試合を見ていた1億人近くの前で「1984」のコマーシャルが放映された。このコマーシャルはあやうくお蔵入りになるところだった。1983年12月に、Jobs氏とマーケティング責任者のMike Murray氏が取締役会で試写したところ、75万ドル以上の制作費を投じたコマーシャルの放映に、取締役会は全会一致で反対し、CM枠の売却を求めた。広告代理店のChiat-Dayは、30秒の枠2つは売り払うことができたが、80万ドルする60秒の枠は売却しなかった。このコマーシャルの放映後、より年齢の高い世代の人たちで構成されていたAppleの社外取締役陣は、Macintoshが持つ変革の力を信じるようになった。少なくとも、この広告のメッセージが持つ力は理解するようになった。
当時27歳でMacintoshのマーケティング部門を率い、後にMicrosoftの幹部を10年間務めたMurray氏は、「『1984』のテレビコマーシャルの真の目標は2つあった」と語る。「Macintoshという単語を米国人の語彙に加えること、そしてニュースになることだ。PRではなく、ニュースだ。われわれはその両方で予想以上の成功を収めた。後者の目標について言えば、このコマーシャルは、テレビでコマーシャルとして放映されたのは1回だけだが、ABC、NBC、CBSの全国放送のニュースで全編が放映された。これはニュースだった。さらにThe New York Times、Wall Street Journal、Fortune、Business Week、Forbes、Time、Newsweekでトップ記事になった」(Murray氏)
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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