Adobe Systemsは9月18日、19日の2日間の日程で開催されたマーケティングイベント「ad:tech tokyo 2013」の2日目に基調講演を行い、米Adobeで製品戦略を担当するビル・ムンゴバン氏が登壇した。インターネットにおけるマーケティングの変化について語るとともに、同社が提供するマーケティングソリューション「Adobe Marketing Cloud」の先進的な機能を大々的にアピール。変革しつつあるネット上の“デジタルマーケティング”に最適なソリューションだとして、日本のマーケティング担当者にその必要性を訴えた。
Adobeは今年2013年、同社製品のPhotoshopやIllustratorなど多数の製品のパッケージ版を廃止し、Adobe Creative Cloudというサブスクリプション形式のダウンロード型サービスに移行した。“クラウド”をキーワードにさまざまなソリューションを1つのプラットフォームへ統合する事業展開を加速させていく中で、ウェブのあらゆるエクスペリエンスを統合的に管理しマーケティングに活用するツールとしてAdobe Marketing Cloudを位置づけている。
これに先駆け、同社はウェブアクセス解析のソリューションをもつOMNITUREを2009年に買収。コンテンツ管理システムを提供するDAY CQを2010年に、オーディエンスデータ管理プラットフォームのDEMDEXとビデオ広告のAUDITUDEも2011年にそれぞれ買収した。また、2012年以降もEFFICIENT FRONTIER、NEOLANE、SATELLITEと、数々の企業の買収を続け、これらの技術を「Adobe Marketing Cloud」に統合することで、マーケティングに必要な各種機能を共通のインターフェースで実現していくという戦略を取っている。
これによる同社の最終目標は、「最高のユーザーエクスペリエンスを作ること」(同氏)。顧客のオンライン上での振る舞いを記録し分析できるようにすることで、その顧客が実際に店舗などを訪れた際に顧客が必要としているものを事前に察知して提供していく、というようなことを可能にしたいという。オンラインにおいても、顧客が見たいもの、経験したいことを予測して、適切なコンテンツを適切な場所で表示するといったことが究極の目的だ。
Adobeから日本のマーケターに対しては、3つのメッセージが投げかけられた。1つは「常にテストせよ」。ボスの意見に左右されるのではなく、常に最適な解を目指して客観的な視点でテストを行い、そのテスト結果にもとづいてマーケティング活動を実践することが重要だとした。
2つ目は「デジタルに変われ」。すでにスマートフォンやタブレットを活用する時代になっているのはIT業界にとっては既知の通りだが、顧客もそれはすでに認識しており、あらゆる分野でのデジタル化は必然の流れ。同社では紙媒体のデジタル化を支援する「Adobe Digital Publishing Suiteファミリー」を提供しているが、オークション大手のサザビーズで富裕層向けに発行していた紙媒体のカタログを廃止しデジタル化したところ、顧客満足度が向上しただけではなく、年間数百万ドルを節約できたという実例を挙げた。
3つ目は「マーケターであれ」。マーケティング担当者は、アナリティクスの世界やクリエイティブの世界のどちらかに関わりすぎて、その両方を協調させることを忘れてしまいがちだといい、「左脳(デジタルマーケティング)も右脳(クリエイティブ)もどちらも重要で、どちらも欠けてはいけない」と語った。両方がどう相互作用するかを常に考え、この2つをうまく回すことがマーケティングを成功させることにつながるとアドバイスした。
次に同氏は、現在の広告業界のトレンドを3つ挙げた。1番目の「ソーシャル」については、広告枠を購入するオンラインニュース媒体などのペイドメディア、自社媒体となるオウンドメディア、口コミに使われるSNSなどのアーンドメディアの3種類に大きく分けられるが、それぞれを別個に管理する時代は終わったとし、ソーシャルマーケターはこれらを一体的に考えなければならないとした。
2番目は「サーチ」。Googleでは「エンハンスト キャンペーン」、Yahoo!では「ユニファイドキャンペーン」と称したキャンペーンが実施されており、PC、スマートフォン、タブレットなどの複数のデバイス、いわゆる“マルチスクリーン”に対応したシームレスな広告配信が可能になっている。これにより、モバイルに向けた戦略を考え直さなければいけない点がマーケティング業界にとって大きな変化であるとした。また、米Googleではウェブ検索結果の右側に表示するPLA(商品リスト広告)が有償化され、リスティング広告予算の3割を占めるまでになっている。現在は米国のみだが、日本もまもなく同様になるだろうと予測した。
3番目は「ディスプレイ」。従来型のバナー広告などがこれに当たるが、このディスプレイ広告についてもすでに変化が始まっているという。たとえばバナー広告を出稿する際に、インプレッションに対してどれくらいに値付けするかをリアルタイムで操作(ビッド)するといった仕組みも導入されつつあるという。
Adobeは、こういったさまざまなタイプの広告を最適化する技術を「Adobe Marketing Cloud」で提供する。ユーザーがウェブサイトに何分間滞在したのか、それまでにどういった行動をサイト上で行っていたか、以前訪問したことがあるかなど、多くの情報をよりスマートに分析・管理して、正確にトラフィックを測ることができるとした。
たとえば、ウェブサイトでの行動データ、パートナーサイトのデータ、その他AddThisやDatalogixといったサードパーティのサービスのデータなど、すべてを1つの共通化されたデータベースに統合できるのが同社のソリューションの特長。1人の人間について言えば、居住地や使用端末、OS、訪問の日時と頻度、ブックマークやソーシャルグラフの情報、直前の購入履歴など無数の識別情報をプロフィールとしてもっているが、こういった識別情報を組み合わせ、企業がターゲットとしたいユーザー層を絞り込んで分析や広告管理することが可能になっている。
企業は顧客がPC、タブレット、スマートフォンなど複数のデバイスを使っていても同一人物のものだとして、1つのIDで関連づけて扱うことができ、企業が望んでいるコンバージョン、行動記録を取ることができる。一方、顧客に対してはどのデバイスでも同じエクスペリエンスを提供し、同じ広告を何度も表示したり、全く無関係な広告を出して混乱させることもない。
この「Adobe Marketing Cloud」の活用例として、Adobeが実際に行ったキャンペーンの内容も紹介した。同社のCreative Cloudへの移行を促すため、フォトグラファー、学生、クリエイティブディレクター、ビデオプロデューサーという4セグメントに分けてターゲティングし、それぞれの属性に基づいてカスタム化したコピーテキスト、ランディングページを作成した。フォトグラファーにはLightroomを勧め、学生には安価である点を強調するなど、各セグメントで異なる内容にするだけでなく、それぞれに複数パターンのコンテンツを用意したという。
これと同時にコンテストも実施。Facebookのキャンペーンページは、大きなヘッダイメージの中に小さめの申し込みボタンを置くパターンと、小さいヘッダイメージの下に大きな申し込みボタンを置くパターンの2種類を用意したところ、参加者の数としては前者が多く、後者は直接参加した数は少なかったものの「もっと内容を知りたい」と考え「Learn more」リンクを押す例が多かったという。
最終的にこのキャンペーンは300万を超えるアクセスがあり、このプロセスを経たユーザーの方が、そうではないユーザーより製品購入率が13%高く、しかも広告コストは28%削減できたという。2パターンのいずれかではなく、2パターンを組み合わせることでより効果的に集客できたと胸を張った。
このように、広告を最適化し、的確な分析のもとにマーケティング活動を行えるとして、“デジタルマーケティング”時代に合った「Adobe Creative Cloud」の活用を提案。最後に再び「常にテストせよ」、「デジタルに変われ」、「マーケターであれ」の3点を来場者に訴え、講演を締めくくった。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?