Facebookは、9月18日、19日の2日間の日程で開催されたマーケティングイベント「ad:tech tokyo 2013」の2日目に基調講演を行い、同社が運営するFacebookにおける広告の効果測定の考え方、マーケティングにおける活用手法等について解説した。講演では2013年5月にFacebook Japan代表取締役に就任した岩下充志氏と、米Facebookでメジャメント&インサイト部門のリーダーを務めるブラッド・スモールウッド氏が登壇。また、実際にFacebookをマーケティングに活用している日本コカ・コーラの豊浦 洋祐氏による事例解説も行われた。
岩下氏はまず、Facebookの現在の状況を説明。全世界で毎日1回以上アクセスするアクティブユーザーが11億5000万人。そのうちモバイル端末からアクセスしているユーザーは8億人となっているという。およそ1年前まではモバイル向けの広告商品が存在していなかった状態だったにもかかわらず、2013年第2四半期は広告売上の4割以上がすでにモバイルによるものとなっており、急激にモバイル広告が成長していることを明らかにした。
この中でも日本のFacebookでは、アクティブユーザー1400万人のうち約92%の1300万人がモバイルから毎日アクセスしており、世界で最もモバイルの利用率が高いという状況。米リサーチ会社Nielsenの調査でも、Facebookは日本で今最もスマートフォンにリーチできるメディアであると評され、滞在時間についてもYahoo!、Googleを超える208分という結果が出ているという。
そして、インターネット広告の市場規模はここ3年で64%増加し、さらに2015年には13兆円規模に拡大すると予測されている。Facebook広告の出稿や、Facebookのマーケティング利用は企業にとってますます効果的な手段になっていくと考えられるが、それでも現在の全広告費の中にネット広告が占める割合は15%ほどしかないと指摘。ネット広告の伸びがユーザーの増加に追いついていないとし、この理由としては、企業の予算取りに関する古い“習慣”が残っていること、企業内でメディア別に担当が分かれていて融通の利きにくい“組織構造”になっていること、的確な“効果測定”が行いにくくなっていることの3点を挙げた。
ここで米Facebookメジャメント&インサイトグループのリーダーであるブラッド・スモールウッド氏が登壇。岩下氏の質問に答える形で、Facebookをマーケティングに活用する際のノウハウなどについて実例を交えて紹介した。
Facebookが広告において最も重要視している点は3つ。1つは「リーチ」であり、広告の意図する内容をターゲットに確実にリーチできたか、あるいはより多くのターゲットにリーチできたかを見ること。2つ目は「レゾナンス」で、ブランドイメージを伝えられたか、もしくはターゲットのブランドに関する認識を変えられたか、という点。そして3つ目は「リアクション」で、その後ターゲットが実際に購買行動やサービス利用など具体的な行動を起こしたかどうか、という点だ。
従来のテレビ、ラジオ、印刷媒体の広告はもちろん、ネット広告でもROI(投資収益率)が重視されるが、ROIを高めるためには以上の3つの要素を検証する必要があり、そのためには効果測定の実施が求められるとした。
ブランドイメージを伝えるためのマーケティングにおいても、同様にリーチは重要となるものの、従来型の広告ではメディアやクリエイティブをメインに展開してきたこともあり、個人に対して配信するネット広告ではそれとは異なる“相手の知識”をもとにした、露出頻度などに配慮する展開を考えなければならないと指摘した。
その点、ネット広告は従来型の広告とは異なり、ユーザー1人1人に対してカスタマイズした広告を表示できる点が一番の特長だと同氏は語る。たとえばECサイトにおいては、特定のユーザーのプロフィールに合ったメッセージを表示したり、商品をカートに入れているか否かを把握したりするなど、ユーザーのアクションによって異なるページ内容にすることもできる。これによってROIをさらに高めることが可能になるとしている。
ただ、ブランドマーケティングにおいては効果測定がしにくいという点もある。インターネット広告ではCTR(クリック率)を指標として用いることもあるが、ブランドマーケティングでは必ずしも最適な指標ではないと見ている。従来のテレビ・印刷媒体の広告を見ることと、ネット広告のクリックには大きな違いがあり、そこから生まれるバリューも異なる。「クリックだけではROIは予測できない」としており、Nielsenの調査でも、CTRの高いキャンペーンとROIの高いキャンペーンには相関関係がなく、むしろ反比例しているケースもあったという。
その他、ある商品を購入した顧客の99%が広告をクリックしておらず、残りのわずか1%の顧客のみがクリックしていた、という例も挙げた。ブランドマーケティングでは、この広告をクリックした1%よりも、クリックしていない99%をターゲットとするべきであり、マーケティングにどういった手法、指標を用いるべきかは難しい判断となる。
したがってFacebookとしては、CTRは指標とせず、どういうキャンペーンであれば成功し高いROIを出せるかを知り、逆になぜキャンペーンでうまくいかなかったかの原因を探って、それによりさらに確度の高いキャンペーンを打ち出すことが大切だとしている。
Facebookでは、ROIに囚われない新たな仕組みを用意し、実際にアメリカの7000万世帯を対象としたキャンペーンを実施した。アメリカ全土の食品売上の実に60%に匹敵する規模で、Facebookで広告を出し、どの商品がどのように売上を伸ばしていくかという効果測定そした結果、70%の商品で3倍以上の売上に、49%は5倍の売上を達成する効果を確認したという。しかしこの効果測定では、売上そのものよりも、何の商品でうまくいったのか、広告のクリエイティブのどこが良かったのか、またはどれくらいの頻度で広告を出すのがベストなのか、といった点を観察できたことがポイントだという。これをもとに次のマーケティングにさらに有効な形で活かすことが可能になるからだ。
こういった食品や日用品のようなカテゴリー以外でも、CTRではなくリーチがROIにつなげられる指標になりうるとしており、テレビ広告でも、ネット広告でも、顧客やユーザーに対して適切な頻度でリーチできるかどうかが成功の鍵になるとのこと。マーケティングキャンペーンの結果を細かく検証し、どれくらいの頻度でリーチさせるのが最適な“スイートスポット”になるかを探る活動も重要になる。
日本においては、他の国よりもモバイルユーザーの率が高いことから、モバイル広告で大きなチャンスがあるとFacebookは見ている。モバイルの活用が進んでいる日本市場を通じて世界におけるモバイルの進化を占うことができるとし、この日本市場をキャッチアップすることで他の国の市場でもFacebookが先行できると信じている、と同氏は語った。
講演の最後に、壇上へ日本コカ・コーラのデジタルマーケティングの責任者である豊浦 洋祐氏を招き、Facebookにおける同社の活動について詳しく解説した。同氏によれば、現在日本コカ・コーラのFacebookページは50万人弱のファンを抱えており、ファンの数、エンゲージメント(ファンからの反応)率、リアクション率を随時チェック。ファンの数をどれだけ増やせるか、投稿に対してリアクションをどのように高めるかなどを試行錯誤している。
ファンの数を増やすことと、リアクション率を上げることがビジネスにどうインパクトを与えているのかについても検証している。ファンになった後にコカ・コーラを飲む量が増えたかどうか調査したところ、エンゲージしていない(いいね!をしていない)ユーザーでも36%がよりたくさん飲むようになり、よりエンゲージメントの高い(8回以上いいね!をしている)ユーザーの47%が飲む量が増えたという。したがって、ファンを増やすことと、エンゲージメント率を高めることは意味があることだと考えているようだ。
同社ではリーチにも注目している。同社の製品の1つである「爽健美茶」で、新しい味にするか、今までの味のままにするかを決める投票を募るキャンペーンを行った際には、リーチを稼ぐためにFacebook上に専用のファンページを立ち上げ、Facebookの広告も効果的に使ったところ、通常のブランドサイトでは不可能な高いリーチを達成できたという。
また、現在はターゲットを絞り込んで広告配信できるFacebook広告のカスタムオーディエンス機能にも関心をもっており、同社会員サイトとFacebookユーザーとの重複を調べることにより、会員でありながらFacebookのファンページにいいね!していないユーザーに広告を表示したり、休眠状態のユーザーをアクティブユーザーにするための広告訴求などに使えるだろうと述べた。
なお、2020年の東京オリンピック開催が決まったが、これに向けて日本コカ・コーラとしても積極的に活動していく方針だ。コカ・コーラのファンページでオリンピックについての話題をポストすると、いいね!やコメントなどが瞬く間に集まったことから、スポーツのような世間の関心事についてのトピックと、ソーシャルメディアの相性の良さを実感。こういった関心事についてリアルタイムにアクションを起こしてブランドイメージを消費者目線で伝えていくのが、ソーシャルメディアでマーケティングを成功させる重要なポイントになると語った。
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