マーケティング業界イベント「ad:tech Tokyo 2013」では9月18日、全米広告主協会(ANA)の前理事長にしてマーケティングストラテジストであるBecky Saeger氏が基調講演に登壇した。
CMO経験者自身の口から、今日の「CMO」、これまでとは異なる「CMO 2.0」に関する見解について語られた。セッションの最後にはSaeger氏に加えて、MarketShareのCOOであるIvan Markman氏、日本コカ・コーラのマーケティング&ニュービジネス IMC 副社長の鈴木祥子氏、博報堂エンゲージメントプロデュース局長の川名 周氏の3名のゲストが登壇した。
「1960年代にはCMOという役職はなかった」とSaeger氏は語る。今では、大企業だけではなく、中堅にもCMOという役職を設ける企業も増え、CMOという存在の認知は上がってきている。Saeger氏は「CMO 1.0では、CMOはマーケティングのメッセージを作ることに限られることがあり、エージェンシーの採用などに優れていた。だが、分析科学を嫌い、テクノロジーを熟知しておらず、データサイエンティストではなかった」と語る。
CMOという役職の平均勤続期間は2年にも満たず、CEOなど他の役職の人々と衝突することも多く、恵まれた条件だったとは言えなかったCMOの役割に対して、「テクノロジーがすべてを変えた」とSaeger氏は述べた。
「CMO 2.0では、CMOが戦略においてリーダーシップを発揮することになる」とSaeger氏は語る。テクノロジーは新たなマーケティングの時代を開き、新たな好機とそれに伴う責任が生じているとし、分析にフォーカスして、データドリブンに物事を進めていくのがCMO 2.0の役割だとした。
元P&GのグローバルマーケティングオフィサーであるJim Stengel氏が新たなCMOについて語っている映像「The New CMO」で語られていることを紹介し、CMO 2.0の役割について述べた。「CMO 2.0は、マーケティングの役割を再定義することが求められる。効果的な組織を編成し、科学的なアプローチを採用。マーケティングにおいてアートとサイエンスを組み合わせ、競争力を獲得していくこと」(Saeger氏)とした。
Saeger氏は「毎3秒ごとに私たちは、米国議会図書館に蔵書されている書物と同量のデータを生み出している。情報をうまく厳選する優れたテクニックが必要になる」という作家のNate Silver氏のコメントを引用して、ビッグデータの重要性についても述べた。米大統領選挙にも大きな影響を与えるビッグデータの存在を知り、効率的、戦略的に活用できる人である必要がある、とSaeger氏は語る。
また、CMO 2.0では、マーケティングをビジネスゴールの達成やROIに結びつけるなど、「CMO 2.0では責任が生じる」(Saeger氏)とした。「テクノロジーの登場により、ついにCMOの時代が到来した。CMOはCEOなどの役職の人びとと新たな関係を構築し、ストーリーを語ることが重要になる。組織を横断して分析をリードし、カスタマーエクスペリエンスを定義するなど、CMOの役割は拡張し、戦略においてより重要な責任を持つようになる」と語った。
このようにCMO 2.0の役割について話した後、Saeger氏はマーケティングを変革していくための7つの鍵となるポイントを紹介した。
1つ目は、「マーケティング組織の変革」。まず社内に関しては、分析やデジタルメディア、コンテンツにたけた内部の専門家をどう見つけるかが重要。社外については、社外の専門家や代理店、社外パートナーとの関係については、リードするエージェンシーを持たず、アドテクファームや分析ファーム、プラットフォーム、パブリッシャーなどの外部パートナーと直接働くことが重要だと指摘した。
そしてフォードでは、マーケティングディレクターがIT、マーケティング、ファイナンスのチームを横断して機能させ、10億ドル以上の広告予算の最適化を実施した例が紹介された。また、ペプシのデジタルソーシャルエンゲージメントディレクターの紹介、ケロッグではデジタル戦略とメディアのリーダーが存在しており、その人物が外部パートナーを直接マネージメントしていることが語られた。
2つ目は、「戦略とマーケティングの融合」。Saeger氏は「社内の役割を統合し、チームを横断して機能させること」について指摘し、リソースの最適配分を行い、情報提供や共有をして、マーケティングやメディアプランについてのブリーフィングを実施することの重要さについて説いた。
3つ目は「ビッグデータ、分析のポテンシャルを活かすこと」。マルチチャンネルでのマーケティングを最適化し、リアルタイムに改良を重ね、マーケティングへの投資におけるリターンに責任を負うことが重要だとした。
フォードでは、予測分析を実施し、広告への投資を最適化している。国内の割合をシフトさせることで、全体の広告予算を変更することなく、数千万の新たな利益をもたらしているという。また、エレクトロニックアーツの事例では、アトリビューション、最適化、割り当てのフレームワークによって、新作ゲーム「バトルフィールド3」の売上は23%上昇した。
4つ目は「CEOなどの役職の人たちと提携し、透明性のある分析を行うこと」とし、5つ目は「テクノロジーを新たな顧客体験のために活用すること」、さらに6つ目は「ブランドと深い消費者インサイトを結びつけること」と説明した。「適切なコンテンツと、エモーショナルなつながりが鍵になる」とし、ダヴのバイラル映像「Dove Real Beauty Sketches」が、顧客自身のすばらしいインサイトを反映している例として紹介された。
最後の7つ目は、「常に実験し革新すること」。E-tradeの研究部門であるFidelity Labsではイノベーションや新しいアイデアを実験しており、投資家に対して、テクノロジーがどのような影響を与えるのかを調べているという。Fidelity Labsは投資家がどのようにGoogle Glassを使うかを想定したビデオを制作しており、常に革新的なことにチャレンジしている例として挙げた。
講演の最後には、MarketShareのCOOであるIvan Markman氏、日本コカ・コーラのマーケティング&ニュービジネス IMC 副社長である鈴木祥子氏が登壇。博報堂エンゲージメントプロデュース局長の川名 周氏がモデレーターを務め、日米のCMOの現状について語った。
Markman氏は「CMO 2.0はどうやってデータを取り出すか、マーケターはどこで顧客とエンゲージしているのかなど、さまざまな情報について取り出そうとしている」と語った。競合他社の状況、商品の質、どうやって自分のビジネスを成長させるのかなど、課題は共通している。「複雑なものをわかりやすいものにし、データをマーケティングの意思決定に活かしていけるか、俊敏なマーケティング施策を実施できるかが重要」と説いた。
対して、鈴木氏は「ソーシャルリスニングなどソーシャルメディアでのエンゲージメントなどは実施しているが、ビッグデータは活用しきれていない。全国に自販機が98万台、コカ・コーラパークというオウンドメディアがあり、これらをリアルタイムの購買促進に活用するところまではできていない」と取り組みの現状についてコメントした。
「CMO同士の交流は?」という川名氏の質問に対し、Saeger氏はCMOのコミュニティが育ってきていると述べた。また、Markman氏は、2年ほど前からAdobeのCMOがナレッジを共有し、データに対する重要性について説いていたことを紹介し、「おかげで現在では効果がこれだけ出るから、予算をこれだけほしいと自信をもっていえるようになった」と、この2年の変化とCMO同士がつながることの重要さについて指摘した。
最後に、CMOと代理店との関係について会場から質問を受け、Markman氏は「パートナーシップは進化している。マーケティングのプロにとって、テクノロジーの普及とともにタッチポイントと当事者が増えた。複数の市場で協力し、代理店がうまくテクノロジーを活用して、CMOを助けることが必要」と回答した。Saeger氏は、「代理店にもCMOにも課題がある。代理店はCMOが何を求めているのかを理解し、クリエイティブや分析などのアイデアを出すことで、不可欠な役割を果たす」と述べた。
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