消費者の購買に関わる行動や影響は、オンラインとオフラインの垣根がどんどんなくなっている中、メーカーや卸売り、小売りといった流通市場は、消費者のニーズを的確に捉え、消費体験を価値あることにするために、デジタルデータをどのように活用していけばいいのか――。
このテーマについて、キリンの経営企画部 新市場創造室 主査である浅野高弘氏、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のエンタテインメント事業本部 販促企画Unit Leaderである中西健次氏、アドビ システムズのマーケティング本部 マーケティングインテリジェンス部 デジタルマーケティングスペシャリストである井上慎也氏の3者で議論した。
第4回では、顧客や消費者に対する製品や商品の訴求方法や、社内の誰がどうやって進めるかについて議論したが、話はオンライン(デジタル)やリアル店舗での展開にも渡った。そこで、今回はホットなキーワードにもなっている「O2O」について取り上げる。
中西(CCC):O2Oと言われ始めたのは、ここ2年ぐらいですね。
中西(CCC):TSUTAYAがクリック・アンド・モルタルに取り組み始めたのは、iモードがサービスを開始した1999年からです。「TSUTAYA online」を立ち上げ、今では当たり前になっている携帯電話を使った「オンラインクーポン」などもその頃から進めていて、今で言うO2Oに取り組んでいました。今はスマートフォンが普及してきて、その媒体が(メールから)変わってきているというだけだと思います。
フィーチャーフォンの時代におけるO2Oの引き金は、クーポンだったんです。クーポンがきっかけになり、TSUTAYA onlineの登録者は1500万人を超え、多い店舗では店舗利用者の8割を超えました。
クーポンを配信すると、来店者が集中するため、利用者を平準化するために、会員ごとのクーポン配信の分散といったことも行ったぐらいです。それだけ効果があったので、どこの企業も当然のように同じことをやり始めたわけですが、ユーザーからしてみれば、情報の氾濫が起きます。つまり、多くの企業やサービスから多くのクーポンが届いて、結果1つ1つのクーポンの価値がどんどん減っていったのです。
なので、スマートフォン時代のO2Oは媒体を見直すだけでなく、提供する情報の内容も見直す必要があります。今は、いかに情報の中身を見ていただくかということと、見たときにその価値を提供できるかというところの壁に当たっていると思います。媒体は変わるので、そこはもう変化に合わせていく必要があると思いますが、それに加えて最もユーザーに響く中身は何か、を常に考えなければいけないのです。
そこで、現在もっとも力を入れているのがアプリです。アプリはメールに比べると、できることが無限大なんです。クーポンを送れるだけではありません。TSUTAYAの公式アプリで、実は今一番使われている機能は在庫検索です。お店に行く前に、「ダイ・ハード」がお店にあるかどうかを検索して、在庫があればお店に行く、というように使われています。先にもお話したようにお店に行ったけど借りたい商品がなかったというのが、顧客にとってはもっとも不満なのです。
こうした機能は、メール全盛の時代ではできなかったことです。アプリは、いろいろなことができる以上、顧客が本当は何を欲しがっているのかを念頭に置きながら機能を作っていっています。
中西(CCC):本当に、ゼロベースから取り組んでいます。今まで地道にメール会員を獲得してきたんです。加盟店様の店舗スタッフが一生懸命頑張って、おばあちゃんに登録方法をひとつひとつ、「こうやってやるんですよ」と教えながら、ようやく1500万人になったのです。
それを、またアプリで一からやり直すということで、再びスタッフの協力を得なければならないと思っています。そこは、何かウルトラCといった裏技があるわけではなくて、本当に地道な店舗スタッフの力と、認知させるための媒体告知も必要だと考えています。実際に、プロモーションもするようになりました。
ただ、当時のメールアドレスを入力して送信して、登録されたかどうかを確認して、といった作業よりは楽になっているので、ユーザーの登録ハードルはかなり下がっていると思います。アプリをダウンロードするのは30秒ぐらいで終わってしまうので、「『TSUTAYAアプリ』で検索してくださいね」の一言でできるようになっているのが、昔に比べるとちょっと気楽かなというところはあります。
中西(CCC):TSUTAYA onlineに登録を頂くときは「クーポンが貰えます。だから登録してくださいね」という手法でしたが、基本的には今も変わりません。「アプリをダウンロードしてください。してくれた人はCDレンタル全品半額です」というキャンペーンを2013年4月に実施しました。今後こういったことを頻繁にやっていこうと思っています。
店舗にとっては、アプリの力がお客さんに来店頂くきっかけとして欠かせない時代になりつつあります。一方で、アプリのユーザーはお店の力がないと増えないので、そこは両輪ですね。お店のスタッフに頑張ってもらって、その結果アプリを通じてお客さんに来てもらえるといった形で。ですから、O2OってまさにおっしゃったようにOnline to Offlineに限らず、Offline to Onlineもあるんじゃないかと思います。
中西(CCC):そこは課題ですね。簡単にアプリを作れてしまうだけに、いろいろな事業部がどんどん取り組んでいます。結局、お客さんに伝わるのは1つか2つだと思っていますが、戦略として、10個サービスがあったら10個アプリを作る企業もあれば、1つのアプリで全部集約する企業もあるでしょう。どちらが正しいやり方なのか、多分まだ答えがない世界だと思っていますので、これから模索していきます。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」