消費者の購買に関わる行動や影響は、オンラインとオフラインの垣根がどんどんなくなっている中、メーカーや卸売り、小売りといった流通市場は、消費者のニーズを的確に捉え、消費体験を価値あることにするために、デジタルデータをどのように活用していけばいいのか――。
このテーマについて、キリンの経営企画部 新市場創造室 主査である浅野高弘氏、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のエンタテインメント事業本部 販促企画Unit Leaderである中西健次氏、アドビ システムズのマーケティング本部 マーケティングインテリジェンス部 デジタルマーケティングスペシャリストである井上慎也氏の3者で議論した。
第2回では、顧客や消費者が求めていることをどのように把握するかについて示したが、今回はそうしたニーズを反映した商品やサービスを、どのように訴求するかについての続きからから取り上げる。
井上(アドビ):そう、繰り返しで大変ですね。ただ、IT/ソフトウェアといった業界において製品はすごい速さで作られています。そして、外資系企業では特に多いのかもしれませんが、日本法人という立場で、製品の詳細や訴求ポイントなどは発売の直前に知らされることも多いのです。日本の担当はそこから実際に展開する訴求ポイントなどを考えていくのですが、US本社やグローバル地域に向けた訴求ポイントやメッセージがそのまま日本という環境でうまく受け入れられるかどうかわかりません。
こうした状況もあって、実際に日本向けのマーケティング活動に取り組んでから最適化をしていく方法をとります。昔は発売までにそうした戦略をなるべくがっちり固めて、それに沿って取り組んでいれば、製品の強さもあり、ある程度の売り上げは見込めたと思いますが、本社から要求される対応スピードと年々上がっていく成果や目標を達成するには、製品を発売した後にこそ、どう最適化していくかを考えていかないとだめだと思います。
実際に取り組んでみると、おもしろいことがわかってきます。本当は色々と複雑なのですが、わかりやすくした例えを挙げてみます。アドビの製品だと、新製品が出てすぐ初期に購入する人と、少し期間が経ってから購入する人、すごく後になってから購入する人の大きく3パターンにわかれるのです。初期の人は、新機能に特に注目してくれているのですが、時間が経つにつれてパフォーマンスだったり、コスト面だったりと、それぞれの注目ポイントが変わってきます。つまり、タイミングによっても訴求ポイントを変えないといけないということがわかるわけですね。
浅野(キリン):すごく興味深いです。試行錯誤を繰り返す、いわばテスト期間があると思うのですが、その段階で重要なポイントは、どんなコンテンツやクリエイティブがコンバージョンに貢献したかという点と、どのような経路で訴求できたかという2点ですか?
井上(アドビ):人を連れてくるオンライン広告などの領域と、実際にコンバージョンしてもらうサイトの大きく二つの領域で、主にそういった点を考えて行っています。正直に言って、経路については、基本的なことは行っていますが、アトリビューション分析(コンバージョン=購入にいたった個別アクションの貢献度を分析すること)など、まだまだ完全にやりきれてはいない面もありますね。メッセージや、その見せ方などは変化も大きく出ることが多いですし、誰にでもわかり易く、その学びを社内の他の活動にもフィードバックできるメリットなどもあるので、社内の理解と評価を得るためにもお勧めではありますね。
中西(CCC):私は以前の部署でネット事業部にいたことがあるのですが、そのときには、店舗とネットとのスピード感の違いを一気に体感しました。オンラインというか、ウェブというか、1週間、2週間で環境がどんどん変わっていくじゃないですか。あと、ウェブのいいところはすぐに取り組めることと、すぐに効果がわかることですよね。
そういったネットならではのメリットをTSUTAYA店舗の販促でどう活かすかといったときに、例えば挙げられることとして、お店のポスターとか、のぼりのカラーのクリエイティブとかを決める際に、まずウェブで実験してみます。青と黄色がいいのか、赤と白がいいのかといった具合に、ウェブで試してみてクリックスルーレートの高いほうを実際に店頭のクリエイティブに利用するわけです。
パンフレットやポスターなどは1度制作したら1カ月変更せず使用したり、もちろん作り直すことになったらコストも結構かかります。クリエイティブというのは感覚で決めてしまいがちですが、それを数値化していくというところでウェブを活用するということはやり始めています。
浅野(キリン):効果がでる確率は上がりますか。
中西(CCC):上がると思います。かなりのパターンを試しますが。自社のウェブサイトで、単純にデザインだけ変えて掲載した際に、クリックスルーレートがどれだけ違うのかというのを計測します。店頭ではもちろん視認率みたいな数値は出ませんが、おそらくウェブで効果があるものは店頭でも視認率は高いのだろうと考えています。
井上(アドビ):店頭やオフラインでの数値化は難しいですよね。店頭の場合は、ある施策を実際にやってみたらある程度は効果が出るけれども、逆に言うとやらなかったらどうだったか、もっと違うことをしたらどうだったのかということがわからないですよね。結局調査をしてみようとすると、例えば北海道だけ何か別の取り組みをやるなど、すごく大規模になってしまうんですよね……。
浅野(キリン):現状ではそうですね。
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