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組織の透明力

賞賛と炎上を分けるもの - (page 4)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)2013年07月16日 12時09分
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2日後

 かくして社内各部門は、自らの責任を回避するための暗闘を続け、生活者への応対は後回しになった。結局、社長決済を経て、2日後にプレスリリースが発信される。それは、企業にとって都合の良いことだけを表明する内容となっていた。

 「チョコレートやココアは、近代的な設備と衛生管理の行き届いた工場で生産されており、虫の卵や幼虫が入ることはありません。ほとんどの場合、工場を出てからご家庭で消費される間に侵入するケースが多いようです。なおチョコレートにつく虫にはノシメマダラメイガ・スジマダラメイガ・コクヌストモドキなどがありますが、いずれも病原菌や毒素といったものはないので、万一虫が混入しているのに気付かず誤って食べても、人体に直接害はありません」。

 このリリースは、内容もあいまいで生活者の求めていた情報開示とは異なった。なにより誠意が感じられない表現となっており、対応の遅さと相まって絵に書いたような二次炎上を引き起こす。結果的に、同社の製品品質に対する疑念に加え、説明責任に対する意識欠如を指摘され、同社の好感度は大きく毀損することとなった。

 このシミュレーションはチロルチョコの実例をベースにしたもので、現実に起きたことではない。しかし、特に各部門がサイロのように硬直した大企業において、いかにも起こりやすい一幕ではないだろうか。ソーシャルメディアによって誘起される問題がひとつの部門で完結することは少ない。組織が大きくなるほど、本質的な問題点が浮き彫りにされてゆく。

組織の透明力とは

 旧態然とした組織が、臨機応変な対応を実現できない理由をまとめてみよう。

  • 中央統制システムのため、想定外の事態が発生しても上司の指示なしには動けない
  • 縦割り組織のため、情報共有や人材交流が乏しく、緊急時に協業しあう信頼関係もない
  • 成果主義のため、部門や個人の評価にならない行動には消極的で、責任を追わない
  • 経営陣のメンツや保身が優先されるため、生活者が満足する説明責任を果たせない

 中央から社員をコントロールするために構築されたシステムは、部門間の協業や社員の自主性を奪ってしまう。いつのまにか社員の関心は顧客から上司に変わり、社員の仕事の多くは社内稟議や報告書作成になってゆく。そして組織全体が顧客に鈍感になるのだ。

 透明な時代にあるべき組織像は、その対極に位置するものだ。顧客は、あらゆる接点において、迅速で誠実な対応ができる企業像を求めている。そのためには、顧客と接点を持つ現場社員が自律的に行動できるシステムを構築することが大切だ。

 言うならば、社内のカルチャー改革だ。それを実現するには「価値観の共有」「オープンでフラットな組織」「社内交流を促進するコラボレーション・プラットフォーム」、この三つの改革が必要となる。そして、その根底に流れているのは「透明の力」による内発的な動機づけだ。

 「透明の力」とは何か。それは上司からの統制ではなく、社員の自律的な行動を促す力を表現したものだ。人間は、誰かに指示されるまでもなく、共感や評価を得たいと強く願う生き物だ。社内を透明にし、情報を可視化させ、コミュニケーションの活性化を図る。すると社員は仲間との一体感を感じ、その共感や評価を得るために、自発的に企業やチームがプラスになるよう動き出す。

 例えば、企業は経費を抑えるために、何重にも管理者を配置し、稟議システムによって「統制」してきた。しかし、経費をすべて「透明」にしたらどうなるだろう。社員であれば、誰が何にいくら使用したかを閲覧できるようにする。統制も特別なシステムも不要だ。それだけで無駄な経費は激減するだろう。説明責任が生じ、共感や評価を得られない経費が姿を消すからだ。なぜ、それができないのか。経営層、管理層の既得権益があるからだ。ここにメスを入れられるのは、最も痛みを伴う経営者だけだ。それを理解した上で、経営者が信念を持って「透明の力」を導入するとき、組織は劇的に変わってゆくのだ。

 今、企業は「統制の力」を卒業し、「透明の力」によって社員をエンパワーメントすることを求められている。「ガミガミと言って行動させる」のではなく「自発的に会社のために行動する場を創る」こと。時代が求めているのは、このコペルニクス的な発想の転換だ。単なる性善説だけでは十分ではない。「透明化することで自律的な行動を促すこと」がポイントなのだ。実際に「透明の力」を活用する企業は増えてきている。シリコンバレーのベンチャーなどは、ほとんど例外なくそうだろう。

 すでに統制型マネジメントが浸透している大企業にとって、この経営改革は困難を極めるに違いない。その一方で、新しい文化を持つ企業が雨後の筍のように生まれ、大企業の得意分野を日々侵食している。「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」(Chris Anderson)が提起したように、大企業もベンチャーも、創造力や共感力という同じ土俵で勝負せざるを得ない時代が到来するだろう。古びた経営スタイルは、もう臨界点に達しているのだ。

 拙著にて、ソーシャルメディアが誘起したビジネスのパラダイムシフトを「ソーシャルシフト」という言葉であらわした。この記事では、ソーシャルシフトにおいて、新しい組織の原動力となる「透明の力」の生かし方を連載していきたい。共有すべき価値観や情報とは何か。過度な同調圧力や部分最適化をいかに防ぐか。公開すべき情報と非公開にすべき情報をどう考えるべきか。透明な時代に管理職の業務やリーダーシップはいかにあるべきか。

 余談になるが、僕は「踊る大捜査線」、特に青島刑事や和久さんのいる湾岸署の面々を心から愛している。彼らのように、熱い思いを持ちながら、組織の壁に日々悩んでいる人たちの力になりたい。それがこの連載記事を書く動機にもなった。ソーシャルメディア時代、事件はまさに現場で起きている。現場力をいかに高めるか、企業の明日はそこにあるのだ。

 「伝統的な労働力体制の下にあっては、働く人々がシステムに仕えたが、知識労働力体制の下では、システムこそが働く人々に仕えなければならない」 (Peter Drucker)

 以下は、本記事執筆に当たっての筆者によるエピローグムービーです。

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斉藤 徹
ループス・コミュニケーションズ
1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM株式会社入社、1991年2月株式会社フレックスファームを創業。2004年同社全株式を株式会社KSKに売却。2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。ソーシャルメディアの第一人者として、ソーシャルメディアのビジネス活用、透明な時代のビジネス改革を企業に提言している。講演回数は年間100回を超える。「BEソーシャル ~ 社員と顧客に愛される5つのシフト」「ソーシャルシフト ~これからの企業にとって一番大切なこと」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディアダイナミクス」など著作は多数。

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