組織の透明力

賞賛と炎上を分けるもの - (page 2)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)2013年07月16日 12時09分

 生活者の声は予測できない。生活者は企業にすばやく誠実な対応を求めている。彼らの反感を買えば手痛いしっぺ返しを食うが、時として真摯な態度や人間味あふれる機転が大きな歓声を持って受け入れられることもある。

 一方で、炎上も後を絶たない。もはや炎上が発生しない日はないと言っても過言ではない。直近の例では、プロ野球の統一球の問題が挙げられるだろう。今季から採用した飛ぶボール自体を否定するファンは少なく、むしろ楽しみが増えたという声も多い。問題視されているのは説明責任だ。

 なぜこの情報を隠ぺいしたのか。コミッショナーはファンや選手への影響をどう考えているのか。社会的影響力のある人や組織は、その活動や決定を説明する責任がある。透明な時代に結果オーライは通用しなくなった。プロセスの透明さが強く求められているのだ。

 また、ブラック企業というレッテルが一部の経営者を悩ませている。社員に劣悪な環境で労働を強いる企業――ネット上を検索すると、ワタミやユニクロなどの企業名が並ぶ。トップ自らブラック企業と呼ばれることに対する見解を述べたインタビュー記事も登場した。両社に共通しているのは、極めて強力なリーダーシップを持つオーナーがいること。いずれも企業成長への強い意思を持ち、それを現実化させた稀代の経営者だ。その手腕を疑う人は誰もいないだろう。しかしながら、彼らの主張は生活者に共感されていない。逆に発言の都度、ソーシャルメディア上を反感が渦巻いていくようだ。

 今や、生活者は歩く広告塔となり、生活者接点は広告が生まれる瞬間となった。顧客だけではない。社員も、退職したアルバイトも、求職した学生も、その企業にとって大切な広告塔だ。特に店舗がある地域の住民は、政治家にとっての選挙民に等しい。

 彼らは企業の好き嫌いを判断し、ソーシャルメディアや購買行動を通じて一票を投じる権利を持っているからだ。生活者の共感を得る企業、反感を買う企業、その差は天と地ほどに大きい。彼らの評価は、商品売上や社員雇用に結びつき、経済的な価値につながっていく。

 では、本質的に企業に対する賞賛と反感を分けるものはなんなのだろうか。生活者は何を見て、企業に対する評価を下しているのだろうか。

統制が通用しない時代

 あなたが貴社のソーシャルメディアアカウントの担当者になったとしよう。そこであなたは生活者の率直な意見を目にすることだろう。ある人は「すばらしい」と褒め、ある人は「あの商品には問題がある」とクレームを入れる。公式アカウントがなくとも実際は同じことだ。企業がアカウントを持とうと持つまいと、生活者は日常的にブランドの評価をしあっているからだ。

 ソーシャルメディア担当者の悩みは深い。生活者からの声と上司の指示が相反するからだ。生活者は誠実でリアルタイムな応対を求めているが、多くの上司の頭の中にあるのは、メンツ、保身、事なかれ主義。結果としての隠ぺいだ。プロ野球の統一球などその典型だろう。そして、それこそが生活者の最も嫌う態度なのだ。上司がコントロールできるのは人事権を持つ部下までで、生活者の考えや言動をコントロールすることなどできるはずがない。そんな簡単なことも分からないほど、現場感覚を失った管理者も少なくない。

 企業が一方的に情報を独占し、生活者をコントロールできる時代ははるか昔に終焉(しゅうえん)している。さらにソーシャルメディアの登場で、企業は生活者によって常に監視され、評価されるようになった。企業と生活者のパワーバランスは完全に逆転したのだ。

 生活者の賞賛と反感を分けるもの、その原点はここにある。すでに力関係が以前と変わっていることに気づかず「生活者をコントロール」しようとする姿勢。それこそ生活者に最も忌み嫌われる病根と言えるだろう。特に経営者や管理部門にその傾向は強い。彼らが持つ内向きのコントロール志向がさまざまな生活者接点から滲み出し、それが反感につながっていくのだ。パワーマネジメントで時代を築いた経営者こそ、このわなに陥りやすい。彼らを成功に導いた豪腕や理屈は、生活者の心には響かない。むしろ疑問と反感が蓄積していく。

 ソーシャルメディアで評価されたチロルチョコは、生活者をコントロールしようとせず、彼らの求めるものをしっかりと理解し、臨機応変な対応を実現できた。生活者をリスペクトし、短時間の間に最善を尽くした。彼らの機を逃さぬ、それでいて謙虚な姿勢が生活者の共感を生んだ。ピンチをチャンスに変え、賞賛の輪が広がっていったのだ。

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