口コミマーケティングの業界団体WOMマーケティング協議会(WOMJ)によるカンファレンスイベント「WOMマーケティングサミット2013」が、5月27日に六本木ヒルズ森タワーのアカデミーヒルズで開催された。イベントでは講演やパネルディスカッションを通じて、国内外の口コミマーケティングの事例や研究内容などが紹介された。
午前中のキーノートスピーチでは、PRコンサルティング企業エデルマン・ジャパンのデジタル領域担当者であるAlex Erasmus氏が登壇。海外企業を中心とした事例を紹介しながら、口コミマーケティングにおける“ストーリー”の重要性について語った。
ソーシャルメディアやオウンドメディア(自社メディア)の登場によって、企業の情報発信の手法は多様化している。一方で、個人がインプットできる情報量は限られており、発信される情報が増えるほど、かえって消費者に企業のメッセージが届きにくくなるという課題もある。
そこで重要になるのが、商品のコンセプトやそれらを連想させる物語によって、企業ブランドを消費者の意識に浸透させるマーケティング手法「ストーリーテリング」だ。Erasmus氏は、企業の持つストーリーを映画やコミックのストーリーに例え、CEOや商品担当者がその企業の“キャラクター”としての役割を果たすと説明する。
日用品メーカーのP&Gは、ストーリーテリングを深く理解している企業の1社だ。同社のCEOはハリウッド映画の監督を起用し、社内外に向けて自社のよりよいストーリーを語るためのトレーニングを受けている。また、玩具メーカーのLEGOは、数十年にわたって一貫したコンセプトの広告を掲載し、今なお成長を続けている。
米国ではこうした事例が多く見られるが、Erasmus氏は「日本にもストーリーテリングの重要さに気づいている企業がある」と語る。たとえば、自動車メーカーの日産は社内に放送施設「日産グローバルメディアセンター」を設け、専門のジャーナリストによる自社情報を発信。健康計測機器メーカーのタニタは、タニタ食堂を通じて健康における食事の大切さを説いている。
一方で、失敗例もある。米人気ファッションブランドのAbercrombie&Fitch(アバクロ)のCEOであるMike Jeffries氏が「太った人には着てほしくない」といった旨の発言をしたことから、同氏に非難が集中。この発言への抗議としてアバクロの服をホームレスに配る様子を映した動画などがネットに公開され、Jeffries氏本人が謝罪する事態となった。
Erasmus氏は、これらの事例を紹介した上で「企業は語る内容について統一した見解を持つ必要がある」と語る。また、発信する情報にはブランドとの関係性があるだけでなく、おもしろい、議論を呼ぶ、興味深い、役に立つ──といった要素を最低1つは含む必要があるとした。
では、企業は自社のメッセージをどのような方法で発信すべきなのか。その例として挙げられたのがトヨタ自動車だ。同社では、ハイブリッド車「プリウス」のプロモーションに情報サイト「BuzzFeed」を活用。単純なバナー広告を出すのではなく「ハイブリッドな動物ベスト20」(シマウマなど)と題する記事を掲載したことで、Facebookを中心とするソーシャルメディアで広く拡散された。「広告では製品に関して語りたいと思いがちだが、もっと人々を巻き込むべきだ」(Erasmus氏)。
情報を発信するタイミングも重要だ。2月に開催されたアメリカンフットボールリーグ「スーパーボウル」の試合中に停電が発生し、30分間にわたって試合が中断された。これを好機とみたクッキー「オレオ」の担当者は、わずか30分で広告画像を作成し「停電だって?何も問題はない」とツイートした。投稿されたのは、暗闇の中で明かりに照らされるオレオの画像で「暗くても(クッキーをミルクに浸す)ダンクはできる」というメッセージが込められている。このツイートは5月28日時点で1万6000回以上リツイートされている。
Erasmus氏は、情報発信の際には“良質なコンテンツ”と“タイミング”を意識するべきだと説明。「企業のストーリーをどのような方法で伝えていくかが重要だ」と強調した。
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