第4回:どんなにいい商品でも売れない理由--“感情”の読み方

三宅隆之(インテグレート)2013年04月17日 14時02分

 前回は、以下をお伝えしました。

  • 「顕在化している需要を刈り取ることだけでなく、消費者の心を動かしている欲求を理解し、潜在的な需要を喚起すること」が必要である
  • そのために「生活者の深層心理を見つけていく“インサイト探索”が重要」ということ

 今回と次回は、そのインサイト探索の実際についてお伝えしていきたいと思います。

 インサイト探索に当たってはいくつかの「原則・ルール」がありますが、その重要なものの1つに、「その商品の特徴がいかに優れているか(=買うときの“論理”)」だけではなく、「その商品の購入を検討するときの生活者の思い(=買うときの“感情”)」にも着目する、ということが挙げられます。

 例えば「生命保険」を例に挙げると、以前は「保障金額・期間」、「カバー領域」、「契約可能年齢」など、さまざまな商品の特徴、すなわち「買う時の“論理”」にフォーカスした広告が中心でした。その中で、ある生命保険会社が数年前に、実際にあった「幼くして亡くなった子供と親のストーリー」を描くテレビCMをオンエアし、大きな反響を巻き起こしました。読者の皆さんは覚えていらっしゃいますでしょうか。

 この反響の大きさは、生命保険に加入することの本質が「妻や子供に対する自分の愛情」、つまり「“自分がいなくなった時、少しでも多くの蓄えを託してやりたい”という思い」にあることを投影する好例だったと思います。自分自身、保険を決める際には「コストパフォーマンス(掛け金と保障金額・カバー領域)」を第一にしながら、保険の掛け金を決めるに当たっては、妻や子供の顔を思い浮かべながら「あまり保険に取られると飲み代が少なくなるけど、不自由な思いをさせたくないしなあ…」と逡巡しながら決めていることを思い出します。

 その広告がオンエアされた後、現在の生命保険のテレビCMを見ると、ずいぶん生活者の「買う時の“感情”」をテーマにしたものが増えてきています。業界として、商品を購入してもらうためのマーケティングには、「買う時の“論理”」はもちろん「買う時の“感情”」が必要ということが理解された、象徴的な事例であるように思います。

 仕事柄、さまざまな業種の方から相談を受けますが、商品の特徴に代表される、買う時の“論理”を伝える前に、生活者が買う時の“感情”をクリアすること、すなわち“論理”と“感情”の両面をバランスよく充足しなければ買ってもらえない、ということに気付かずに(気付いているのに、忘れてしまって)プランニングをしている実態をよく見かけます。

 その例として、ある中年男性用・染毛料(ヘアカラーリング)商品の例を取り上げます。そのメーカーの担当者からは、次の話を受けました。

  • この商品が、今まで業界にない画期的な機能を持っている
  • この商品導入で、自社のシェアはもちろん、中年男性用・染毛料カテゴリー全体のサイズも大きくアップするはず
  • しかし、シェアは伸びたものの若干で、カテゴリーに大きな影響を与えるのに至っていない

 彼らは「なぜ思ったほど売れないのか、わからない」と悩んでいました。なぜなら、商品のコンセプトシート(どんな商品特徴があり、どんなベネフィットを提供するかを示したシート)に対する何百人単位でのアンケート調査では、今まで染毛料を使ったことのない中年男性の8割以上が「使ってみたい」と回答していたからです。

 そこで、当社では数人の中年男性へのデプスインタビューをしました。この連載で、カスタマージャーニー(購入者がその商品・サービスを買うに至るまでの道筋)を探るインタビューを当社がよく実施しているというお話を以前しましたが、このケースの場合は「購入者」と「非購入者」に分け、非購入者へのインタビューでは“購入に至らない理由”を探りました。なお、デプスインタビューとは「1対1」の個別面談式のインタビューで、生活者の深層心理を探るのに効果的な手法と言われています。

 このデプスインタビューの結果をみると「商品特徴」については、購入者と非購入者の間でほとんど差がなく、双方から「すばらしい機能の商品」という評価を得ていました。ただし、「論理(商品特徴)」以外の生活者の「感情面」では大きな違いがあったのです。

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