「購入者」の皆さんは、この商品を使用することで、自身も気になっていた白髪ケアができ「若々しく見えそうだ」という「期待感にあふれた感情」がわきあがり、すぐに購入を決めました。一方で、非購入者の方は、より複雑な感情を持ち、それがボトルネックとなって購入に至らなかったのです。
複雑な感情の中にはさまざまありましたが、例えば「自分と同世代の男性で、白髪染めケアをしている人がいない」というものです。自分より若い層ではカラーリングは一般的だが、自分の世代では少数派である中、白髪染めケアを始めることが「恥ずかしい」、「若い女性社員から“何、色気づいているの”と言われそう」など、機能とは全く関係ない部分のボトルネックが存在しました。
他に多かったのが「“白髪を染める”という行為自体が、年齢を受け入れられない、潔くない行為」という「感情」です。自身の中で白髪を染めることが、正しいエイジングケアではなく「往生際が悪い・カッコ悪い行為」であるという意見も、相当数存在しました。
まさにこのケースも、「商品が特徴が優れている=買いたい」ではなかったのです。
私はメーカーの方に会うたびに「自分達の商品で、生活者を幸せにしたい」というその真摯な思いに打たれることが多いのですが、売り上げがうまく上がらないことで、その本来の思いを忘れ、商品と生活者の関係を「商品を評価してくれるか・否か」だけで捉えてしまいがちな現場に何度も直面しています。
生活者からすれば、商品を使うということは「自身のライフスタイル」の一要素を構成する存在であり、そこには「自身の価値観・信条」と折り合っているかどうかを吟味するプロセスが存在します。そもそもこの「価値観・信条」との折り合いから生まれる「感情」をクリアしない限りは、どんなに「商品の特徴が優れた」商品であっても購入がされにくいのです。私はこの事例に直面して、あらためて思い知らされました。
では、「論理(商品特徴)」と「感情」のバランスをとるマーケティングとはどういうことなのでしょうか。
このメーカーでは「論理(商品特徴)」のことをきちんと説明する広告・販促活動はしていたので、それは維持すべきです。ただし、その前に「感情」の部分に対処するマーケティングがどうしても必要になります。
前述の「恥ずかしい」「潔くない」という「感情」に対処していくために、例えばですが「白髪ケアを始めた(始めたいと思っている)中年男性が増えている」という情報や「白髪の有無が、女性社員の中年男性社員の印象形成に大きく影響している」という情報を出すことが効果的になってくるかもしれません。
これも別の以前の事例ですが、プロモーションに苦戦していたある高齢者向けのケア商品で「この商品を、みんなもう使っています」ということを訴求するテレビCMを展開したところ、売り上げが急増したというケースがありました。世代を問わず、新しいものをトライアルしてもらうには「周囲がみんなやっている(恥ずかしくない)」という感情を補完することが必要というのは、「日本人共通の“インサイト”」なのかもしれません。
いずれにせよ、消費者の心を動かしている欲求を理解し、最終的に需要の創造につなげるためには、「論理」「感情」の両面を見据えての情報開発や発信がとても重要ということを日々の業務で強く実感します
次回は、今回とは違う事例を取り上げながら、インサイト探索の実際についてより深くお伝えしたいと思います。
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