またインターネットのテクノロジーにより、生活者が「顕在需要のターゲット」にアプローチする方法は飛躍的に発展しました。それがリスティングであり、リターゲティングです。以前は、その生活者が「顕在需要のターゲット」かどうかを判別すること自体が難しいことでした。さらに、ターゲットとして判別できたとしても、企業が個別・直接的にアプローチすることは難しく、テレビCMを中心とするマス広告で、その対象者を含む数多くの人に一斉に発信するしか方法がありませんでした。
それが、今や「顕在需要」に興味があって「検索」した時点、さらに広告などを「クリック」した場合は、その後のあらゆるネット環境上で、生活者は企業からのアプローチを受けることになります。またリスティングやリターゲティングの発展は、マス広告を活用する体力のない企業にも、顕在需要を獲得するレースに参加することを可能とし、結果として従来にはないほど多くのプレーヤーが、顕在需要を巡ってひしめきあう状態になっているといえます。
まとめると、既存の顕在需要は「パイ自体が減少」し「競争が激化」する「レッド・オーシャン(赤い海:競争が激化し、競争相手と血を血で洗う状態の)市場化」がますます進むと思われます。その結果、顕在需要を刈り取ることに依存したマーケティングは、どうしても先細りしていかざるを得ません。
このような状況の中、企業は成長をしていくために、どうしても、対極にある「ブルー・オーシャン(青い海:競争相手がいない、広々とした状態の)市場」といえる潜在需要を掘り起こさなければならない状況にあるというのが私の考えです。
ではどうしたら、潜在需要を掘り起こせるのでしょうか。
まずは、「需要とは何か?」を考えることから始める必要があると思います。私は需要とは「生活者の心の中に生まれた欲求・願望を商品・サービスで充足する行為」であると思っています。そしてこの「需要の構造」を考えると、潜在需要を掘り起こすためには、まず自社の商品を「買いたい」と思う前提となる「生活者の心の中に欲求・願望」をつくりあげていくことが必須となります。
もし「欲求・願望」がなければ、そこにいかにすばらしい商品を出しても、生活者にはスルーされてしまうだけだからです。ただし、多くの事業主の方は「自社の商品・サービスのすばらしさ」を伝えることには一生懸命になっても、「生活者の心の中に欲求・願望をつくる」という努力が足りていないように感じます。
では「生活者の欲求・願望をつくる」とは、どういうことなのでしょうか。
この好例として、数年前になりますが、家電分野で「家事を夜にするライフスタイル」を提案することで、「静音(音が静かな)家電」の市場を作り上げていったというマーケティングが挙げられます。当時、夫婦の共働き率が高まり、日中には家事がこなせない家庭が増えているという状況が潜在的に存在しました。普通にいけば、それまでの顕在需要の価値、たとえば洗濯機ならば「洗い上がりのよさ」、掃除機ならば吸塵力の高さなどといった代わりに、「この洗濯機・掃除機が、いかに音が静かか」という価値を伝達することに終始しがちです。
このケースの場合は、製品価値を伝える前にまず「家事を夜にできることで、生活がいかに楽・快適になるか」を提案することで、生活者に「夜に家事をしたい」という欲求を高めました。そしてその上で商品を提案することにより、市場をつくっていけたのです。
このように潜在需要の掘り起こしには、まず「生活者の心の中に欲求・願望をつくっておく」ということが大事になるのですが、この欲求・願望喚起においては、生活者の深層心理を丹念にみつけていく、いわゆる「インサイト探索」が欠かせないと感じてます。
たとえば上記の例ですと、ブログで「夜に家事をすることの後ろめたさ」を口にする主婦が登場し始め、また統計上でも「生活騒音に対する苦情件数」が増加しているなど、いくつかの兆候があったそうです。これらのヒントを丹念に見つける「インサイト探索」をいかに行うかが、欲求・願望喚起には不可欠だと感じています。
次回からは、この生活者インサイトを踏まえたプランニングとはどのようなことなのかについて、具体的なケースを踏まえてご説明したいと思います。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)