今回からは「顕在化している需要を刈り取ることだけでなく、消費者の心を動かしている欲求を理解し、潜在的な需要を喚起すること」の重要性とその方法について、お話したいと思います。
はじめに、(1)「顕在化している需要(顕在需要)」と、(2)「潜在的な需要(潜在需要)」は、それぞれどういうことなのかについてご説明します。
(1)「顕在需要」とは、生活者のニーズ(お金を払ってでも、それを充足したいという欲求)がすでに顕在化していて、そこに市場を開拓したブランドをはじめ、追随したブランドも複数存在している需要を指します。例えば、自動車であれば「低燃費カー」需要であり、ビール系飲料(発泡酒・第三のビール)であれば「低カロリー」需要といったところでしょう。
一方、(2)「潜在需要」とは、まだ誰も開拓できていない、世の中に表れていない需要を指します。例えば、当社インテグレートの代表である藤田が仕掛けた「キシリトールガム」や、昨年の「JINS PC(PCメガネ)」などはこの「潜在需要を開拓した事例」として挙げられると思います。「キシリトールガム」は、顕在需要の軸が「味覚」「刺激」だったガム市場において「虫歯を予防する」という、従来は眠っていた「潜在需要」を開拓。「JINS PC」は、顕在需要が「視力補正」「ファッション性」という軸だったメガネ市場において「PC使用による疲れ目防止」という「潜在需要」を開拓しています。
ではなぜ今「顕在需要」だけでなく、「潜在需要」の開拓まで手を出さなくてはいけないのでしょうか。
このテーマを持ち出すと、さまざまな方から「わざわざ潜在需要を掘り起こさなくても、今見えている顕在需要を刈り取ったほうが効率的」というご意見をいただきます。また、デジタルマーケティングの分野では、「顕在需要の刈り取り」のための手法やテクノロジーについて頻繁に語られています。
しかし、私は以下の理由から「顕在需要の刈り取り」だけでは、事業者が十分な収益を出し続けることが難しい状況にあると、考えています。
アベノミクスの影響が期待されるものの、若者の「自動車離れ」「アルコール飲料離れ」に見られるように、現在日本の生活者の消費意欲は、慢性的な停滞傾向にあります。3月8日に発表された博報堂生活総合研究所の「消費ショートレポート」でも「“消費意欲”はやや上昇するものの“欲しいものがない”という状況が根強い」という点が指摘されています。
この問題を「顕在需要」という点から捉えなおしてみると、企業としては「刈り取るべき顕在需要のパイが、以前と比べて少なくなっている」ということになります。
例えば「自動車の“低燃費カー”」という顕在需要を巡って、数多くのメーカーが争奪戦を繰り広げていますが、自動車自体の需要が減るということは、以前と比べると「取り合っている顕在需要自体のパイが減っている」ことを意味し、従来のシェア通りでは、以前と比べて自社の売上が減少することを意味しています。
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