クラウド、生活空間、モバイル「3つのシフト」--2012年のアップル製品を振り返る - (page 4)

MacからiPadへ、「Apple体験のモバイルへのシフト」

 今年は3種類のiPadがリリースされるという、Appleのこれまでの1年1モデルという基本的な製品サイクルの中では異例の展開となった。2012年3月にリリースされた9.7インチRetinaディスプレイとLTEに対応する第3世代iPad、そして2012年11月にリリースされた7.8インチの小型タブレットiPad mini、そしてわずか半年あまりでアップデートされた9.8インチの第4世代iPad(iPad Retinaディスプレイモデル)の3モデルだ。

インパクトがあったのは第3世代のiPad

「新しいiPad」と名付けられた第3世代iPad
「新しいiPad」と名付けられた第3世代iPad

 筆者が今年、最もインパクトを持って受け止めたのは、第3世代のiPadだ。なぜなら、これまでのiMacもしくはMacBook Pro/AirといったMac製品に変わって、iPadがAppleのフラッグシップかつ標準的な体験を提供するデバイスに変わったと感じたからだ。その理由は3つある。

 まず第3世代のiPadにはiPhoneやiPod touchでおなじみの高精細なRetinaディスプレイが搭載された点だ。このディスプレイの解像度は、薄型テレビよりも、どのMacよりも高い解像度を実現していた。iPhone 4から利用している筆者はある意味、Retinaディスプレイに慣れているのだが、9.7インチという大きなサイズがRetina化されたiPadを触った瞬間、再び驚かされることになった。

 紙の印刷、いや印刷よりも美しい表示は、2012年3月の時点において、当然のことながらMacの画面表示よりも格段に美しいかった。この画面で写真やビデオ、そしてウェブや書籍といった文字を読むと、もはやMacの画面に戻りたくなくなってしまうのではないか、とすら感じていた。

iPadに合わせてリリースされたiPad対応のiPhoto

 2つ目に、Appleが第3世代iPadの発売に合わせて、iPhotoをiPad向けにリリースしたことだ。

 これで、これまでMac向けに提供されてきたPages、Numbers、KeynoteのいわゆるiWorkアプリ3種類と、iMovie、GarageBand、iPhotoのiLifeアプリ3種類の全てがiPadで利用できるようになり、ウェブへのアクセスやアプリだけでなく、Macの魅力だったカジュアルなクリエイティブについても、iPadが叶えるようになった。

LTEの体験

 3つ目はLTEの体験だ。筆者は米国カリフォルニア州に住んでいるが、第3世代iPadで体験するLTE接続は、Macから利用する自宅やカフェなどのネット回線に比べて驚くほど高速であった点だ。一時的に、iPhoneよりもMacよりもiPadが最も快適なネット回線を実現するデバイスになっていたのだ。

 米国のネット事情はシリコンバレーといえど悪い。自宅のインターネットの速度はDSLかケーブル接続で、日本のような光ファイバーに比べると低速だ。しかし筆者が契約するVerizon WirelessのLTE接続はコンスタントに30Mbpsのスピードが出る。これは自宅のネット回線の6倍のスピードになる。

 もちろんLTEのインフラも拡大中であり、またGoogleや自治体が地域ごとに1Gbpsを超えるスピードを実現する光ファイバを敷設する取り組みもあるが、これが米国のあらゆる場所で利用できるようになるには10年単位の時間が必要だろう。

 Appleは世界中にデバイスを売っているが、米国を本国として体験を設計している姿勢を崩していないと見ている。その米国内で、ディスプレイ、アプリ、ネット接続の快適さの3つで最高の体験を第3世代iPadで実現したことは、Appleの体験の中心がMacからiPadへ移ったと認識するに十分な材料と言えるだろう。

 これまでのMacの役割がiPadに移ったことで、これまでiPadがになっていたタブレットのポジションをiPad miniに譲ることができるようになった。もちろんしばらくはユーザーを食い合う状態があるかもしれないが、世代を重ねるごとに、この体験から見たラインアップの再構成が明確になってくるのではないだろうか。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]