Appleとレコード会社との果てしない交渉では、Steve Jobs氏が悪役だったのに対して、「iTunes」担当者のEddy Cue氏は善玉を演じることが多かった。しかし現在の最高経営責任者(CEO)のTim Cook氏にとっては、Cue氏の役割はおそらく「Mr. Fix-It(修理人)」だろう。
幹部の予期せぬ交代をめぐり、Appleは米国時間10月29日に、「iPad」と「iPhone」向けのソフトウェア開発を統括するScott Forstall氏が同社を離れ、同時に小売部門責任者のJohn Browett氏も退職する予定だと発表した。Appleに勤めて23年になり、2003年の「iTunes」リリース時からの責任者であるCue氏は今後、音声認識サービス「Siri」と、ユーザーを落胆させた「Maps」の責任者を兼ねることになった。
Cue氏は人当たりの良い人物だ。デューク大学バスケットボールチームの熱狂的ファンで、スポーツカーのコレクターでもある。これまでスポットライトを当てられることを慎重に避けてきた同氏にとって、職責が追加されたことは、同氏がAppleの社内と社外の両方で評価されていることを示す最新の証拠だ。
MLBのインターネット関連の権利を管理し、iTunesで野球をテーマとしたアプリを販売する企業であるMajor League Baseball Advanced Media(MLBAM)のプレジデント兼CEOのBob Bowman氏は、次のように語っている。「『Android』やほかのライバル製品のところには、Eddy Cue氏のような人はいない。Eddyは天才で、才能にあふれ、思慮深く、タフだ。今までにわれわれが何かを頼んで、彼らが『了解』などと言って済ませたことはない」
48歳のキューバ系アメリカ人であるCue氏は、AppleのウェブストアであるiTunes、そして「iPod」を生み出す際に重要な役割を果たした。さらにAppleのインターネットソフトウェアおよびサービス担当のシニアバイスプレジデントとして、重要なパートナーと良好な関係を保ち、製品の問題を解決する手助けをした。5年前、Appleと大手レコード会社が「核戦争勃発」の寸前までいった時に、両者の関係崩壊を防いだのがCue氏だったことを知る人は少ない。また、AppleのWebサービスとソフトウェアを指揮していた「MobileMe」部門が、どうしようもないほど間違った道を進んだように見えた時に、その事業を救い出して「iCloud」に変えたのはCue氏だった。
Cue氏は、エンターテインメント企業との交渉では、Jobs氏のために問題を解決して話を先に進める役割を担っていたが、それ以外では、AppleのiPod、iPhone、iPadで常にたくさんの映画や音楽、電子書籍を利用できるようにするという、極めて重要な立場にあった。念のために言えば、そうしたエンターテインメントメディアは、Appleのモバイルデバイスに対する需要を刺激するのに役に立った。このことが最終的には、Appleを時価総額5600億ドルという、世界で最も価値の高い企業の1つにした。
Apple社内に不和を生じさせがちだったForstall氏が退職を促されたのは、Cue氏の昇格と3700万ドル相当のボーナス受給から間もなくのことだったと報じられている。これはAppleの内情に詳しい人々にとっては驚くことではない。Appleのある元社員は、Cue氏は「高度な社会的知性」を備えていると語った。それは、テクノロジ業界におけるCues氏の仲間の多くにはたいてい不足しているものであり、Jobs氏ですら欠けていることがしばしばあった。Cue氏は報道担当者を通じて、この話についてはコメントしないと回答した。
だからといって、頭に白いものが混じるこの幹部がくみしやすい人物だというわけではない。契約交渉の席でJobs氏およびCue氏と対決したことがある企業幹部らは、「Eddyが悪玉になることも多々あった」と語る。
2006年4月、4大レコード会社の1つであるWarner Music Groupは、カリフォルニア州パームスプリングス近郊で社内向けイベントを開催した。このイベントに詳しい人々によれば、対象となっていたのは同社のArtists & Repertoire部門や、ほかの制作部門で働く人々だったという。このイベントの招待講演者の1人がCue氏だった。
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