大手レコード会社とともに四半期ごとの見直しを行うという習慣をつくったのはCue氏だった、とある音楽業界の幹部は語る。今ではほとんどのベンダーが、レコード会社側とのそうした見直しを行っている。そうした場でiTunes担当の幹部らとレコード会社は、販売実績やリリーススケジュール、新しいアーティストや宣伝活動について協議する。もちろんその目的は仲良くなることだけではなかった。Cue氏は、強固な連携を保ち、Appleのサービスが競争でリードを保てるように努めていた。
Appleの主要なライバル企業における一部の幹部とは違い、Cue氏は音楽業界の幹部らを見下す態度を取らないように注意していた。Jobs氏のように、音楽業界の幹部は「テクノロジのことを何も知らない」などといった当てこすりを言わないようにしていた。代わりにCue氏は音楽業界で力を持つ人々に、「あなた方は素晴らしいコンテンツを生み出すことの専門家で、われわれは消費者がそのコンテンツを体験できるようにすることの専門家だ」と言った。
Cue氏はAppleの意図を隠そうとせず、それでさらに信用を得た。2004年にCue氏は、Appleがメディアの販売に関心があるのは、ガジェットを売るための手段として見ているからだと非常にはっきりと述べている。Cue氏は業界雑誌のMusic Weekに、「レコードビジネスよりも、iPodの利幅のほうが良い」と語っている。
音楽テクノロジ企業を顧客に持つ弁護士としての長年の経験があり、Cue氏と交渉したことがあるChris Castle氏は次のように語っている。「確かに彼は利他的なのではない。もちろん、彼には戦略がある。わたしの受けた印象では、彼はAppleの利益を非常に明確に考えているが、公平でありたいと思っているのも明らかだった。Appleは、ほかの多くの企業のように、音楽を盗もうとしたことはない。彼らはコンテンツを大事にしていた。何を持ち逃げできるか、と言う話では決してなかった。Eddyが相手ならば、公平な機会が与えられていると感じた」
音楽業界の一部の人々にとってCue氏の最大の功績は、Appleと大手レコード会社との戦争を回避するのに一役買ったことかもしれない。2007年、Universal Music Group(UMG)の当時のCEOであったDoug Morris氏はAppleに対して、UMGは今後、複数年契約にサインするつもりはないと通知した。AppleとUMGのライセンス契約は、月単位で更新されることになった。
UMGの措置が送ったメッセージは、それほど小さなものではなかった。それは、AppleがiTunesでの価格決定についてのUMGの権限を強めるとともに、iTunesのエコシステムをほかの音楽販売サービスにも開放しないかぎり、UMGはiTunesから撤退するというメッセージだ。それから間もなく、Sony MusicもiTunesから楽曲を引き上げると脅しをかけてきた。2009年にCue氏は、すべてのレコード会社への対応として、Appleはライセンスを月単位で更新すると通知した。これにより契約の当事者は、30日前までの通知によって契約を終了できるようになった。
Cue氏はその上で、こうした瀬戸際外交的な駆け引きは相互確証破壊にあたると主張した。同氏はレコード会社に対して、「われわれはみな核爆弾のような最終手段を持っていて、いつでもすべてを終わらせることができる」と言った。しかし同氏はこうした対立は誰の利益にもならないことを強調し、レコード会社に自制するように求めた。
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