アップルの「修理請負人」E・キュー氏--その人物像と期待される役割 - (page 2)

Greg Sandoval (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2012年11月07日 07時30分

 当時、iTunesの楽曲ライセンスの更新をめぐるWarnerとAppleの交渉は行き詰まっていた。Warnerの幹部らは、重要な交渉事項で折れてくれるようにCue氏を説得する理想的な機会が来たと考えた。情報筋が米CNETに語ったところによると、Cue氏が登壇する1時間前、Warnerの幹部らは同氏に会って、ある提案を行った。彼らはその提案が拒否されるはずはないと確信していた。Warnerはほかの大手レコード会社と同様に、iTunesでの価格設定を柔軟に行えるようにすることと、Appleが開発したもの以外のデジタル音楽プレーヤーにもiTunesを開放することを求めていた。当時のiTunesではすべての楽曲が99セントで発売され、再生はiPodでしか行えなかった。

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提供:Apple

 Warnerの幹部らが、すべての楽曲が同じように制作されているわけではなく、価格はその点を反映すべきだと話す間、Cue氏は静かに耳を傾けていた。幹部らは、Appleの条件を受け入れることはできず、契約は間もなく期限を迎えるため時間がないと言って、Cue氏に迫った。しかしWarnerの幹部らが話し終えるやいなや、Cue氏は静かに、しかしきっぱりと、Appleはあなた方の要求に屈するつもりはないと言った。合意に至らずに契約が失効するなら、AppleはWarnerの楽曲をiTunesから引き上げるまでだ。Cue氏は立ち上がり、講演に向かった。

 WarnerはiTunesの契約を更新し、Appleの音楽ストアでの楽曲の価格は、その後3年間変わらなかった。

 Cue氏はiTunesの仕事を手放すことによって今の役職に着いたのではない。しかしAppleは現在、はるかに競争の激しい環境にいる。Amazonの「Kindle」タブレットや、Googleの「Android」搭載スマートフォンがiPadやiPhoneに挑戦している。両社とも、エンターテインメントコンテンツの品ぞろえの点では差を縮めつつある。10月29日にGoogleは初めて、Androidが大手映画会社すべての映画と、大手レコード会社すべての楽曲を提供することを発表した。

さらに困難な道へ

 競争の激化は、重要なエンターテインメントカテゴリにおけるAppleの影響力を低下させているように見える。音楽業界の消息筋によれば、iTunesでの楽曲販売は横ばいだという。Appleの犠牲の陰で、会員制オンデマンド音楽サービスの「Spotify」や、人気のウェブラジオサービスの「Pandora」といったライバルは、多くのリスナーを獲得している。

 映画会社やテレビネットワークの幹部らによれば、iTunesでの映画やテレビ番組の販売やレンタルは、そうした企業に大きな売り上げをもたらしてはいないという。電子書籍のカテゴリでは、Jobs氏とCue氏が大手出版社と共謀して電子書籍価格を固定し、部分的にAppleのiPadの利益となるようにしたとして、米司法長官が提訴し、Appleの戦略は失敗した。Appleは不正行為を否定している。

 そして伝説と化しているAppleのテレビ事業参入が実現するならば、Cue氏は余分に働いて、テレビ番組や映画をそのデバイスで見られるようにするための交渉に取り組むのは間違いない。

 こうしたことを背景にして、交渉および製品の再生に優れた手腕を持つCue氏は、Apple社内でこれまで以上に重要な役割を担うことになる。音楽、スポーツ、テレビ、映画業界の企業幹部10人にインタビューしたところ、Cue氏はエンターテインメント企業のビジネスの研究にかなりの時間を費やしていて、それが企業の取引相手に良い印象を与えているという。Cue氏は、交渉テーブルの反対側にいる友好的な幹部がビジネス目標を達成して上司から良い評価を得られるように、できる限り助けようとしてきた。Cue氏は贈り物をし、折り返しの電話をすぐにかけた。Cue氏は、大手レコード会社やハリウッドの大手映画会社の現在および過去の幹部の多くと友人になった。

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