もしSteve Jobs氏が自分を批判する人たちの鼻を明かす機会を得たくてうずうずしていたのだとしたら、2007年のMacworldカンファレンスでの基調講演は理想的な場だったに違いない。
何カ月にもわたって憶測が飛び交った後、Jobs氏は同年次カンファレンスの基調講演の場を使って「iPhone」を発表した。それは、Appleの支持者たちが確実に歓迎する製品だった(彼らはiPhoneを「Jesus phone(キリストの電話)」と呼んだ)。
iPhoneは洗練されていて、シンプルだった。いかにもAppleらしい製品だった。1つ問題だったのは、iPhoneは高価であり、世に出回るのが基調講演の6カ月後の予定となっていたことだ。もっと重要なことに、iPhoneがJobs氏(と投資家)の期待に応えるためには、Appleは携帯電話事業における最初の製品であるiPhoneのユーザーを大量に獲得しなければならなかった。
それから5年が経過した今となっては(iPhoneは米国時間6月29日に発売から5年を迎えた)、そうした懸念は的外れなものに思える。しかし発売当時はまだ、それほど明白ではなかったのだ。
実際のところ、Appleはやり過ぎだと考える人もいた。そのような人々は、599ドルのiPhoneは割合にぜいたくな製品で、市場の大半のスマートフォンよりはるかに高価である、と指摘した。さらに、iPhoneには物理キーボードが搭載されておらず、Appleの「iTunes」がインストールされたコンピュータがないと、起動して使える状態にすることができなかった。また、特殊な形状のヘッドホンジャックを採用していたため、多くの所有者が後からアダプタを購入する必要に迫られた。さらに、高速3G無線も取り外し可能なバッテリもなかった。Appleが企業ユーザーの関心を引きたいのなら、これら2つのことは極めて重要だと見なされていた。
さらに、そのソフトウェアは完全な新製品で、まだ実績がなかった。Appleのデスクトップ向け「OS X」ソフトウェアを基盤とし、後に「iOS」となるこのソフトウェアは、ユーザーが追加アプリケーションをインストールするための手段を提供していなかった。これは、競合製品ならばその何年も前から提供していた機能である。iPhoneがMMSの送信やテキストのコピー&ペースト、マルチタスクといったいくつかの基本的な作業を実行できないことも、批判者から槍玉に挙げられた。
また、iPhoneは一部の通信キャリアでしか利用できなかった。米国ではAT&TがiPhoneを扱うほぼ唯一の通信キャリアだった。何よりも、Appleが落とし穴にはまり込むことなく、危険の潜むこの新しい領域をうまく進んでいくことができるのだろうか、という当然の懸念があった。
おそらく、そうした懐疑論を最もうまく要約したのは、iPhone発売日の2カ月前にUSA Todayのインタビューに応じたMicrosoftの最高経営責任者(CEO)のSteve Ballmer氏だ。
iPhoneが大きな市場シェアを獲得する可能性は全くない。チャンスはゼロだ。iPhoneは販売奨励金付きで500ドルの製品だ。彼らは大金を儲けるかもしれない。しかし、現在販売されている13億台の携帯電話について実際に考えてみると、私はそれらの2%か3%ではなく、60%、70%、または80%にMicrosoftのソフトウェアを搭載することを望む。Appleが獲得できるシェアは2%か3%程度かもしれない。
ほかの大半の企業であれば、これは死の宣告のように感じられるかもしれない。Appleは、「ほかの大半の企業」ではなかった。AppleはiPhone発売以降、2億1800万台以上を販売し、推定1500億ドルの売上高を記録した。
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