解説:「3D元年」の年末商戦を控えて気になるメーカー、ユーザー、量販店の温度差

 電機メーカー各社に共通したキーワードが「2010年は3D元年」。その言葉通り、電機大手各社から3D対応製品が相次いで登場している。

 量販店店頭では、パナソニック、ソニー、シャープ、東芝の各社から発売された3Dテレビが既に展示されており、「プラズマパネル」のパナソニック、「4倍速液晶パネル」のソニー、「独自の4原色」を提案するシャープといったように、それぞれの特徴を生かした3Dの訴求が行われている。東芝は上位モデルの「LED REGZA ZG1シリーズ」や「CELL REGZA」の3D対応版の発売を10月に控えているほか、年内には裸眼3Dテレビの投入も視野に入れているという。メーカー側の3D訴求は、これらの製品が出そろった段階でさらに本格化することになりそうだ。

 そして3Dの訴求展開は、テレビで「見る」だけではなく、「録る」や「撮る」といった方向へも広がりを見せている。

 ソニーマーケティング社長の栗田伸樹氏は「ソニーは、“Lens to the Livingroom”の3D提案ができる企業。3D映画の撮影用カメラから編集機材、民生用の3Dテレビ、3Dレコーダに加えて、映画、音楽、ゲームといったコンテンツも持つ。これに加えて、パーソナルコンテンツの普及がこれからは重視されていくだろう。3Dならではのリアルな想い出を残すためのハードの開発に力を注ぐ」とする。実際同社では、コンパクトデジカメ、一眼カメラで既に3D対応を図っており、ユーザー自らが撮影するパーソナルコンテンツの3D化について、積極的な提案を行っていく姿勢を見せている。

 一方で、パナソニックも同様の姿勢を取る。同社では、2010年4月に国産メーカーとしていち早く「3D対応テレビ」および「3D対応レコーダ」を市場投入したのを皮切りに、7月には「3D対応ムービー」を発表。「見る」「録る」「撮る」の全領域で製品をラインアップした。この戦略をさらに推し進める格好で、このほど「デジタル一眼カメラ」に3D対応モデルを新たに追加。静止画像の3D撮影という提案を行った。

 同社では「パナソニックは、これまでにも“3Dリンク”を提唱してきた。VIERAによって3Dを見るだけでなく、DIGAで3Dを残し、ムービーで3D動画を撮るという提案を行ってきた。残るピースは“3D静止画を撮る”という提案。これにより、静止画も3D時代に突入することになる」と語る。

 パナソニックが9月21日発表したレンズ交換式デジタル一眼カメラ「LUMIX DMC-GH2(GH2)」は、別売の3Dレンズを装着することで3D静止画の撮影を可能としたもの。GH2に3Dレンズを装着すると自動的に認識して設定を変更。左右二眼のレンズで撮影した画像を、搭載したセンサによってひとつの3D画像として生成する。CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)によって定められた標準規格フォーマットであるMPF(マルチピクチャーフォーマット)に準拠する形で、3DフォーマットのMPO形式と、2D表示が可能なJPEG形式で同時に画像を記録。3D対応テレビで映し出した場合にはMPOによる3Dでの再生が行われ、通常のテレビでは、JPEGによる2D再生ができるようになっている。

 同社では「GH2購入者の1〜2割程度のユーザーには3Dレンズを購入していただきたいと考えている」と期待を寄せる。GH2はオープンプライスだが、市場想定価格はボディのみの「DMC-GH2」が10万円前後、14-140mm(35mm判換算で28-280mm)の望遠ズームレンズを付属した「DMC-GH2H」は15万円前後、14-42mm(35mm判換算で28-84mm)の標準ズームレンズを付属した「DMC-GH2K」は11万円前後とされる。これに3Dレンズ「H-FT012」を別途購入すると、2万6250円がプラスされる。

  • 3D撮影用のオプションレンズ「H-FT012」

  • DMC-GH2に3Dレンズを装着したところ

  • 3D対応製品を多面展開するパナソニックの「3Dリンク」

 このように各社は3D対応製品のラインアップを充実させつつあるが、現時点ではメーカー側が想定したほど、販売数は伸びていないのが実態だ。BCNの発表によると、現在3Dテレビの販売構成比は、台数比率で0.7%、金額構成比でも2.4%ほどにとどまっている。

 量販店の売り場の一等地を占めるとともに、40型以上の大画面モデルが中心であることや、視聴用の3Dレンズを設置する必要から多くの売り場面積を割く必要に迫られているが、その割には、構成比はいまひとつといった感がある。

 2011年7月24日の地上アナログ完全停波まで1年を切り、これからは買い換えを迫られた需要層が駆け込み的に店頭を訪れると想定される。しかし、そこでの売れ筋となるのは、高価かつ大画面の3Dモデルよりも、むしろ5万円前後の普及モデルだろう。

 つまり、説明に時間がかかる3Dテレビには「かまっていられない」というのが量販店側の本音といえる。一方、メーカー側では、このチャンスに3Dテレビを販売しておかないと、これから7年以上は買い換えないだろうとされる新たなテレビ購入層に対して、カメラやレコーダ、コンテンツといった観点から、多面的な3Dビジネスを展開しにくくなるというジレンマもある。

 単価アップは図りたいものの、まずは普及モデルの販売を優先したい量販店と、3Dビジネスの地盤づくりのために3Dテレビの販売を強化したいメーカーとの思惑が交錯した格好で、アナログ停波前の最大の商戦となる年末を迎えることになる。

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