実はこの研究会、今から6年近く前に似通ったテーマですでに行われていたという経緯がある。
2001年4月。総務省は携帯電話のコンテンツやISP(インターネット接続事業者)部分を、携帯電話の契約と分離・オープン化すべしとして、携帯電話キャリア以外のISPやポータルサイト事業者の参入を促すよう勧告した。
この指針に応じて、当時の携帯電話3キャリアはさまざまな方法でパケット通信網のアクセス部分を開放。NTTドコモのケースを例に取ると、2002年後半から端末の接続先を、ドコモのISPとなるiモードではなく、他社のISPも接続できる仕組みを整えた。(今でも、ほとんどのドコモ端末には、iモード以外のISPを選択できるメニューがある)
しかし、ISP部分だけを分離しても、端末を販売しているのはあくまでNTTドコモ自身。購入時の初期接続先はiモードとなっているため、ユーザー自身で接続先を他のISPに変更しなくてはならない。これではいかにもハードルが高い。
あるISPの担当者は当時を振り返って述懐する。「せめて端末販売も分離して、最初から接続先を当社にした状態で、こちらのブランド名を冠した『専用ケータイ』が出せたら、まだ勝機はあったかもしれない。しかし現状では、iモード公式サイトでサービスを提供した方がよほどメリットがある」。
結局、このオープン化はドコモのケースに関してはほとんど掛け声だけに終わった。オープン化当初に参入したISPは、同じNTTグループのNTTコミュニケーションズのみ(現在は撤退)。現在この仕組みを活用しているのは、主に法人向けとしてドコモシステムズとNTTデータというNTTグループ2社のみという結果になっている。
このオープン化措置を巡り、総務省とキャリアは時に厳しく対立してきた。当時開かれた某シンポジウムで、NTTドコモ iモード企画部長(当時)の夏野剛氏は、「他社が参入してもマーケットは取れないだろう」と、総務省担当官の前で公然と言い放ったほどだ。
果たせるかな夏野氏の予言は的中し、5年後の2007年になっても、携帯電話におけるネットワークのオープン化は遅々として進んでいない。
総務省にしてみれば、モバイルビジネス研究会は、こうした過去の因縁に再び向き合うという側面もあるが、業界の問題点を把握しながら、5年近くも放置していた総務省の責任も大きいと言えよう。
モバイルビジネス研究会が今後どのように進み、どのような結論が得られるのか、その全体像はまだ見えてこない。
ただ研究会の構成員たちは、IP化の波を指して「黒船はもうそこまで来ている」と携帯電話ビジネスの変革を促す。もちろん、変革を優先するあまり利用者の混乱を招く事態は許されない。だが、仮に携帯電話のビジネスモデルが今のまま維持されるにせよ、変革が行われるにせよ、すでに契約数が1億を突破した成熟市場においては、国内市場だけでなく、海外市場に討って出る何らかの策も早急に講じなければならない。
ケータイ先進国日本──。この甘美な響きにグローバルな視野を失っていた関連事業者たちは今、先進性を発揮しつつ、世界に通用する「真のケータイ先進国日本」への転換が求められている。
フリーライター/ジャーナリスト。有限会社高円寺モバイル代表取締役。携帯電話ビジネスを専門に記事・コラムを多数手がけるほか、自身も携帯電話サービスの事業立案やアドバイザー業務を行う。著著に「携帯電話ビジネスへの挑戦者たち!」など。
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