第1回:なぜ“異例づくめの研究会”は開催されたのか - (page 2)

■「垂直統合」か「水平分業」か

 一方、国内市場ではIP化の進展に伴い、FMC(固定・移動電話の融合)、NGN(オールIPベースの次世代通信網)といった、電話機発明以来の通信のパラダイムシフトが起ころうとしている。固定か移動かといったネットワークの物理層に関係なく、いつどこにいても同じ通信サービス・コンテンツを享受できる時代が始まろうとしている。

 今まで携帯電話キャリアは、たとえばドコモの契約者にドコモの端末を売り、ドコモのネット接続サービス「iモード」にアクセスさせるという「キャリア専用仕様」で契約者をがっちりと囲い込んできた。こうした1社がコントロールする「垂直統合」モデルが、携帯電話の普及に大きな功績を果たしたことは間違いない。さらに、一極集中したiモードなどのキャリアポータルは、手軽さを武器に、パソコンユーザーを上回るネット利用人口を獲得するに至り、コンテンツ課金モデルの成立と相まって、活発な市場を急速に形成していった。

 しかし、サービスニーズ多様化に伴って、今後はワイヤレスの分野も携帯電話・PHSだけでなく、車載通信端末や情報家電に付属した通信機能など、さまざまな無線通信モジュールの普及が期待されている。

 このように、固定網のみならず、さまざまなネットワーク間や機器間での相互接続が求められる時代には、一社による垂直統合だけでは、多様なニーズを吸収し切れなくなってくる。

 今後は、各レイヤーで強みを持つ事業者がそれぞれ広くサービスを提供し、消費者がそれらを自由に選ぶ「水平分業」モデルへのニーズがより高まると見られている。

 一方の携帯キャリアが押し進める垂直統合モデルは、こうした水平分業モデルへの進展を阻害している。今や日本の携帯電話は、グローバルスタンダードはおろか「一社独自仕様」の塊になってしまった。利用者は、好みのブラウザや最初に表示されるポータルサイト、音楽配信サービスすら自由に選べないのが現状だ。

 キャリア依存体質から抜け出せない国内メーカーも、世界市場へ討って出る体質に転換できないでいる。その間にも、海外メーカーは既に5社以上もが国内市場へ参入した。海外から撤退した国内メーカーは、今後国内でも海外メーカーとの競争に巻き込まれようとしている。

 こうした現状に業を煮やした総務省が1月22日から開催しているのが、国の政策的な意図を各所に感じる「モバイルビジネス研究会」だ。

■異例づくめの研究会

 総務省は普段から放送や通信にまつわるさまざまな研究会を開催しているが、このモバイルビジネス研究会では当初からいくつかの点で異例な点が目に付く。

画像の説明 モバイルビジネス研究会では毎回、厳しい議論が展開されている。

 その1つが、研究会の第1回に菅総務大臣みずからが出席したことだ。

 挨拶の席上で菅大臣は「お金がなくても携帯電話が購入できるというビジネスモデルが、日本の携帯ビジネスが海外で通用しない原因の1つになっているのではないか」と、携帯電話の販売奨励金制度について問題を提起。大臣じきじきの参加には、総務省の担当官ですら「意外だった」と漏らす。さらに第2回と第3回にも、大臣執務官で衆議院議員の谷口和史氏が参加している。

 通例、いち省庁の研究会に閣僚・準閣僚級が参加するようなケースはほとんどない。携帯電話ビジネスにまつわる諸問題が、総務省のみならず、政府レベルでも大きな関心事になっていることを示唆していると読み取って間違いないだろう。

 さらに異例なのは、研究会では初の事例として、関連業界各者への「匿名ヒヤリング」を実施している点だ。

 ヒヤリング対象は、ベンダー(端末メーカー)、通信事業者、販売代理店など。通常、業界関係者はあくまで公開の席で「オブザーバー」としての立場で発言するだけだ。しかし、「実は名前を出して言いにくいことが相当あるのではないか」と、研究会を担当する総務省の担当官はこの異例な措置について説明する。匿名調査の必要があること自体、固定通信網と比べても、携帯電話がいかに閉鎖的な産業であるかを物語っている。

 研究会は議論を経て9月中旬までに報告書をまとめる予定だが、「しかし、これはあくまで予定。満足の行く解答が得られなければ研究会の延長もありうる」と、事務局の担当官は決然とした調子で語る。

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