「Second Life」創業メンバー、元Facebook/Googleのコリー氏がスマートニュースCTOに--背景や狙いは

 ニュースアプリ「SmartNews」を運営するスマートニュースは10月30日、コリー・オンドレイカ氏がCTOに就任したことを発表した。同氏は2000年代前半に「Second Life」を立ち上げたLinden Labの創業者の1人であり、その後はFacebook(現Meta)やGoogleで、プロダクトおよび技術開発の責任者として活躍した人物だ。

 日米の2つの市場で展開するスマートニュースとしては、プロダクトのグローバルな成長の鍵を握る強力な人材となるわけだが、なぜ今、日本企業のスマートニュースに参画したのか。入社しておよそ3カ月、東京・渋谷のオフィスで業務にあたっている同氏にインタビューする機会を得た。

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  1. 日本発のプロダクトにもかかわらず米国の課題に挑んでいる「SmartNews」
  2. 日本と米国の市場から学び、コンテンツの最適化を目指す
  3. メタバースなどの新たなプラットフォームにも展開?

日本発のプロダクトにもかかわらず米国の課題に挑んでいる「SmartNews」

――コリーさんの経歴について、改めて教えてください。

 私はテクノロジーに関わる仕事をこれまで30年間手がけてきました。複数の企業を渡り歩くなかで共通項があるとすれば、それぞれにおいてテクノロジーの変革期に立ち会えたことだと思います。

 例えばLinden Labでは、創業CTOとして「Second Life」の技術的な意思決定や開発だけでなく、人材採用やプロダクト戦略などにも関わりました。当時の新しい技術要素はブロードバンドネットワークで、あらゆる情報をブロードバンドを通じて得られる、そういったテクノロジーの変革なしではSecond Lifeは存在し得なかったと言えます。

 Facebookでは、IPO前の大きな変革に関わりました。Facebookはデスクトップ版のウェブサイトから始まり、その後モバイルに対応していったわけですが、Facebookにとってはそれは大きな進化だったんです。最初はエンジニアリングディレクターとして入社しましたが、次第にモバイルやエンジニアリングのバイスプレジデントの役割を担うようになりました。デザインチームとマーケティングチームを運営しながら、モバイルのアプリや基盤の構築にも携わり、Facebookのモバイル変革を支えました。

 Googleでは、LLM(大規模言語モデル)や生成AIが誕生しつつあるタイミングで関わることができました。プロダクトマネジメントのバイスプレジデントとしてユーザー体験にフォーカスし、Googleのプロダクトをより一貫性のある、よりプレミアムなものとして一体的に機能するように、デザインフレームワーク「Material You」のチームを立ち上げました。また、CEOの技術アドバイザーの役割を果たしつつ、「Google I/O」という大規模カンファレンスの運営にも携わってきました。

 そして、スマートニュースに入社しました。ここではテクノロジーとプロダクトに関わる部分を担当することになっていますが、今の時代、良質なニュースが多くの人たちにとって非常に重要なものとなっています。そんなときにスマートニュースに加わることができて光栄です。

Cory Ondrejka(コリー・オンドレイカ):2000年からLinden Labの創業CTOとして「Second Life」を共同で開発。Meta(旧Facebook)やGoogleを経て、2023年9月にスマートニュースに入社。CTO(最高技術責任者)としてプロダクトと技術チームを率いる
Cory Ondrejka(コリー・オンドレイカ):2000年からLinden Labの創業CTOとして「Second Life」を共同で開発。Meta(旧Facebook)やGoogleを経て、2023年9月にスマートニュースに入社。CTO(最高技術責任者)としてプロダクトと技術チームを率いる

――アプリの「SmartNews」についてはどのような印象をもっていましたか。

 以前から、個人的に米国版アプリを使っていました。プロダクトとしては入社後からしっかり見るようになりましたが、私はSmartNewsがその体験やミッションを通じて、良質な情報をいかに人々に届けることができるのか、という点に注目しています。

 たとえば米国版アプリには「News From All Sides」と呼ばれる機能があります。2019年から提供し始めたもので、政治関連の記事においてリベラル寄り・中道・保守寄りの3タイプをスライダー操作で切り替えながら一覧表示できるものです。米国ではニュース記事が政治的あるいは宗教的な信条に基づいて作られているものが多々あり、それぞれの主義主張をわかりやすく届けられるようにしています。こういった革新的なアプローチで良質な情報がより多くの人たちに読まれ、理解されるような取り組みには、入社する以前から関心がありました。



米国版アプリには、画面下部のスライダーを動かすことでリベラル寄り・中道・保守寄りの記事を切り替え表示できる機能がある
米国版アプリには、画面下部のスライダーを動かすことでリベラル寄り・中道・保守寄りの記事を切り替え表示できる機能がある

――スマートニュースに入社するきっかけは何だったのでしょう。

 スマートニュースの創業者である鈴木健さん、浜本階生さんと話をしたことがきっかけです。それで彼らのビジョンを深く理解でき、エコシステムの構築やパブリッシャーの健全性に取り組んでいる会社であることに興味を覚えました。パブリッシャーと協業し、プロダクトを通じて良質でベストなコンテンツを届けようとしており、常にユーザーのことを考えている会社であることもわかりました。

 米国ではいろいろなバイアスが蔓延しており、大きく2つの党派で分断されています。SmartNewsは米国におけるニュースアグリケーターの1つですが、日本発のプロダクトであるにも関わらず、米国が直面しているそうした課題をNews From All Sidesなどの機能で解決しようとしている。そこが興味深かったですし、それに対して一緒に取り組んでいけるのはとても楽しいだろうとも思いました。

日本と米国の市場から学び、コンテンツの最適化を目指す

――長くテクノロジーやプロダクトに関わってきたなかで、重視しているのはどんなことですか。

 技術変革の瞬間が最もエキサイティングなタイミングです。技術が劇的に変化すると、デザインやプロダクトの領域においてもオポチュニティが予想外の方向にまでどんどん広がっていくものです。プロダクト開発に携われる醍醐味の1つはそういったところにもあります。

 たとえばAI分野ではこの3、4年で特にLLM(大規模言語モデル)が台頭してきました。次に現れる文字を予測して、人間のようなインタラクションを実現し、テキストコンテンツを深く理解できるようになっている。コンテンツの本質を探り、何がユーザーの役に立つかを理解して、正しいコンテンツを適切なタイミングでいかにして届けるか、という観点では、LLMはわれわれにとって新しい道具となるエキサイティングなものです。

 ただし、ニュースパブリッシャーのコンテンツに対してAIを活用するには許諾を得る必要があります。AIを使ってわれわれが何をしようとしているのか理解していただくため、すでに議論を始めたところです。われわれはこれまでもパブリッシャーとの関係構築を重視してきましたから、スムーズに対話ができていると思います。

――コリーさんが入社したことで、今後SmartNewsはどう進化していくのでしょう。

 実際にプロダクトとしてリリースすることでその回答に代えたいと思っていますが、SmartNewsは日本と米国の両方の市場をカバーしているユニークな立ち位置にあります。その2つの市場から学び、技術をそれぞれの市場に投入して効率的なシステムを作り上げ、両方の市場に活かしていくことができると思っています。

 2つの市場には違いもあります。テキストメインのコンテンツではありますが、漢字混じりの日本語とアルファベットメインの英語とでは、同じニュースであっても情報量が違いますし、タイトルの見え方も、そこから受ける印象も異なります。そういった差があることをしっかり理解しなければなりません。それによって初めて日本と米国それぞれに最適化したコンテンツを生み出せるものと思います。

――SmartNewsのなかで、日本版にあって米国版にない機能、もしくはその逆の機能で面白いと思うものはありますか。

 日本版についてはクーポン機能ですね。節約したいという気持ちはどちらの国の人も共通ですが、日本の方がよりクーポンを使いたがる傾向があるようです。もしこれを米国で展開していくときには仕組みをよく考える必要があります。

 米国版には先ほどお話ししたNews From All Sidesがあります。同じものを日本版に投入する予定はありませんが、複数の観点がある話題をどう見せるか、というのは常に議論しています。まだリリースするものとして決まった事柄はありませんが、両方の市場から常に学び続けることが、日本と米国など複数のマーケットで運営するにあたっては非常に重要だと感じています。

メタバースなどの新たなプラットフォームにも展開?

――企業がグローバル展開していくときに重要なポイントはどういった点だと考えていますか。

 複数市場にサービス展開するグローバル企業において重要なのは、今申し上げたようにあらゆるところから学び続けることです。しかし複数のタイムゾーン、複数の国、複数の文化が社内に存在すると、考えに隔たりが生まれがちです。ここで鍵となるのは、その国・地域のアドバンテージを活用すること、そして知らないことに対して好奇心をもち、謙虚であることです。

 私は最初米国のオフィスにいて、その後日本に来ました。来日前は日本語を全くしゃべれませんでしたし、読むこともできなかった。孤立していたように思えるかもしれませんが、スマートニュースのカルチャーは居心地が良かったですし、私にとっては新しい学びの場として自分が何を知っていて何を知らないのか、好奇心をもち、謙虚になるチャンスでもありました。

 グローバル企業として成功を目指す場合においても、会社として常に学び、常に好奇心をもつことが大切です。自分の考えが誤りかもしれないことを認識し、複数のマーケットから学ぶことにより新たなインサイトが生まれる。それをもとにビジネスを実行できれば、素晴らしい企業ができるのではないでしょうか。

――近年は多様性も重視されています。

 多様性もさまざまな意見、さまざまなインサイトをもたらすものです。これまで知らなかったこと、理解しえなかったことに触れることができます。ニュースというのは世の中で今何が起きているのかを理解するためのものですが、ユーザーの「知りたい」という気持ちをいかに応えていくかは、そうしたインサイトが力になるはずです。

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――ある意味現代のメタバースの先駆けでもあったSecond Lifeを立ち上げた1人として、今のメタバースはどう見ていますか。また、それを踏まえてスマートニュースのようなニュースプラットフォームは将来どうなっていくのでしょうか。

 当時はメタバースではなくバーチャルワールドと呼んでいましたが、メタバースはブランド化されたアイデアになりましたね。「Meta Horizon Worlds」をはじめ、たくさんのプラットフォームが存在しています。「Roblox」や「Fortnite」といったゲームは成功したメタバースプラットフォームと言えるでしょう。

 私自身はFacebookによるOculusの買収にも関わったのですが、今はヘッドセットの「Meta Quest」とAIを組み合わせる動きも出てきています。ゲームが好きで、バーチャルワールドを長年愛してきた身として、こういった技術には非常にワクワクしますし、人々をつなげるプラットフォームはこれからも改善、進化していくだろうと思います。

 ニュースや良質な情報は、人が相互にコミュニケーションをとるうえで大切なものです。現在われわれのプロダクトは多くの人々が時間を費やすスマートフォンのプラットフォームで展開しているわけですが、重要度の高いプラットフォームが他に生まれれば、そこに対応していくこともやぶさかではないと考えています。

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