「Vision Pro」を超えるARの未来はもうすぐやって来る?--AWEで目撃した兆し

Scott Stein (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2024年07月26日 07時30分

 筆者は先頃、カリフォルニア州ロングビーチへ飛び、拡張現実(AR)と仮想現実(VR)のカンファレンス「Augmented World Expo」(AWE)に参加してきた。ただし、自分の複合現実(MR)対応VRデバイス、つまりAppleの「Vision Pro」とMetaの「Meta Quest 3」はニュージャージーの自宅に置いてきた。代わりに持っていったのは2つのスマートグラス、Metaの「Ray-Ban Meta」とXREALの「XREAL Air 2 Pro」だ。写真撮影と電話にはRay-Ban Metaを、機内で映画を見るときにはXREAL Air 2 Proを使った。そして、かさばるVRゴーグルがなくて困ったことは一度もなかった。

AvegantのプロトタイプとRay-Ban Metaスマートグラス
Avegantのプロトタイプ(左)とRay-Ban Metaスマートグラス
提供:Theo Liggiains/CNET

 VRヘッドセットは、超主流のデバイスといえるほどまでの人気を博してはいないが、若い世代で、あるいはフィットネスやゲーミングの目的での人気は少しずつ伸びている。ただ、ヘッドセットは依然としていくつか問題が残っている。大きくて重いうえに、大抵は外界が遮断されてしまうのだ。Vision ProやQuest 3など最近のVRヘッドセットは、外界のカメラ映像をVRに融合して、現実に重なるような複合現実を作り出し始めている。そのため、ゴーグルの外の世界とつながる感覚が強くなりつつあるが、わりと大きく、装着時にぎこちなく感じることに変わりはない。

 一方、スマートグラスなら見かけも着用感も日常的に使う普通の度付きメガネに近い。MetaとXREALのスマートグラスは着脱が簡単で、折りたためば小さいケースに収まる。この2つのスマートグラスの機能や仕組みはかなり異なっており、Ray-Ban Metaは、ディスプレイがなく、ヘッドホンとカメラを備えたメガネであるのに対し、XREALの方は、スピーカー付きのウェアラブルディスプレイで、デバイスとの接続を必要とする。どちらも、Vision ProやMeta Quest 3で利用できるような完全なMRの機能は備えていないが、実用度が上がりつつあることを考えると、かさばるヘッドセット以上にARの未来に近いともいえる。

 筆者は、最近の報道から、AppleのVision Proの次世代機が2025年か2026年に登場することを期待している。今より小ぶりになって価格もこなれ、接続した「iPhone」や「Mac」に依存するものになる可能性もありそうだ。MetaがARグラスに乗り出すには、それより時間がかかりそうだが、自己完結型で大型のMeta Questヘッドセットと、機能が限られスマートフォンと接続して使うRay-Ban Metaとの間の隔たりを埋めなければならない。こうした変化はすぐに起こるわけではなく、Appleの次期「Vision」ヘッドセットが本当にメガネ型になるとも思わないが、小型デバイスの新しい波に向けて、その移行はゆっくりと始まりつつある。

 一方、レンズやディスプレイ、ハンドトラッキングについては、性能が向上しつつあるものの、まだ現実的な問題があるということをAWEでは実感した。これからのスマートグラスは、そうした処理上の負荷をどう減らすのか。バッテリーはどうするのか。スマートグラスの進化は必要だが、実際にそれをどう達成するかは、GoogleとApple次第になりそうだ。

Vision Proはインターフェースの新たな変化の始まり

 筆者が話をした開発者やスタートアップ企業の多くは、Vision Proがこれからのユーザーインターフェースを形作るものだと語った。手と目の動きを組み合わせるVision Proのトラッキングは、完璧ではないにしても、コントローラー不要の未来のインターフェースという点では最も近い存在だろう。

Vision ProとRay-Ban Metaスマートグラス
Vision ProとRay-Ban Metaスマートグラス
提供:Scott Stein/CNET

 Meta Quest 3とVision Proは、AWEの展示フロアの至るところで、周辺機器やソフトウェアのデモに使われていた。どちらもハンドトラッキングに対応しており、現実世界のカメラ映像を仮想グラフィックスと重ね合わせて、驚くほど見事に現実を複合しているからだ。

 スマートグラスではまだ、ハンドトラッキングやアイトラッキング、MRが完成の域に達していないが、今後数年の間には完成に近づいていくだろう。筆者が会った多くの企業が、そうした課題を克服しようとしている。その一方で、現時点ではVision ProがMRの未来を最も進んだ形で表しているように感じられ、Meta Quest 3は手頃な選択肢としてそれに並ぶ位置付けにあるように感じられる。そのほか、「VIVE XR Elite」やMeta Quest 3、「Magic Leap 2」といったヘッドセットは、スタートアップの新製品のアイデアを発展させる可能性も秘めている。

小型のデバイスでハンドジェスチャーをトラッキングする新しい手法

 Vision ProやMeta Quest 3のような大型のヘッドセットは、複雑なハンドトラッキングにすでに対応しているが、スマートグラスで同じような機能を踏襲しようとしても、バッテリーの持続時間が問題になる。このボトルネックを解消するアイデアもいくつか見かけた。新しいカメラを使うか、手首に装着したウェアラブルと接続するかだ。

TapXRの手首装着型デバイス
TapXRの手首装着型デバイス
提供:Scott Stein/CNET

 タッチインターフェースを開発しているDoublepointは、サムスンのスマートウォッチ上でソフトウェア層を使って、モーションコントロールとピンチおよびタップによるジェスチャーをスマートウォッチに追加している。筆者はそれを使って、スマートホーム環境で実際の照明器具をオン/オフしたり、スマートテレビのデモでカーソルを操作して、再生する曲を変更したりした。Magic Leap 2ヘッドセットを装着した人が、強化されたスマートウォッチのトラッキング機能を使ってMRの世界をナビゲートするところも見かけた。TapXRもやはりスタートアップ企業で、カメラ機能とモーションセンサーを備えた同社のリストバンドも、タップとピンチのジェスチャーに対応する。TapXRはさらに、卓上をタップしてタイピングできるシステムも開発中だ。こうしたジェスチャー多用型のウェアラブルは、すでに現実になりつつある機能の次のステップのように感じられる。Appleの最新のスマートウォッチはすでにダブルタップのジェスチャー機能を採用しており、今後はさらにジェスチャーが増えそうだ。

 Ultraleapは、既存のVRおよびARヘッドセットでハンドトラッキング技術をすでに提供している企業であり、より電力効率の高い小型のイベントカメラ技術をテストしている。イベントカメラとは、詳細な映像ではなく(画素ごとの)明るさの変化のみを感知することで動きを捉える技術で、小型のスマートグラスでも手の微細なジェスチャーを長時間にわたって感知できる。ちょうど、AppleのVision Proが電力消費の多い赤外線で実現しているのと似た機能だ。Ray-Ban Metaの改良版でデモを試してみたところ、指を動かして再生する曲を変えたり、タップで曲を選択したりできた。現在のMetaのスマートグラスは、つるにあるタッチパッドを使うが、それより簡単に使えるインターフェースを目指している。実際、動き回りながら使えるくらい十分に手軽だった。

Ray-Ban MetaでUltraleapのカメラを試す様子
Ray-Ban MetaでUltraleapのカメラを試す
提供:Scott Stein/CNET

 Appleが独自のカメラ機能を備えた「AirPods」を開発中だといううわさも、あながち的外れではないかもしれない。Ultraleapが実演していたような、電力効率の高いイベントカメラを採用するとすれば、特にその可能性は高そうだ。イベントカメラは必ずしも写真を撮れるわけではないが、トラッキングを支援することで、スマートグラスの有無にかかわらずハンドジェスチャーを使えるようになるかもしれない。

ディスプレイとレンズの完成は間近

 技術的には普通そうに見えるスマートグラスで、大きく鮮明な表示が可能というレンズとディスプレイのデモもいくつか見たが、それがどのくらいの価格になるのか、電力効率がどうなのかはまだ不明だ。レンズ部品を専門とするスタートアップのLumusは、クリアな独自のウェーブガイド(導光板)を度付きレンズと組み合わせている。デモで見た画像は大きくクリアで、使われているのは実質的に日常使いのメガネのように見えるデバイスだった。といっても、すぐそばのノートPCに固定的に接続された状態で画像を受信していたのだが。

Lumusのレンズ
Lumusのレンズ
提供:Scott Stein/CNET

 Avegantも部品メーカーで、こちらはスマートグラスの基盤となってLumusなどのレンズに3D画像を投影するディスプレイエンジンを専門としている。筆者が見たもうひとつのスマートグラスのプロトタイプは、有線での接続がなくほぼ通常のメガネのように見えた。それがウェーブガイド式レンズ上に画像を投影するのだが、その画像は、日中の日ざしが射し込む明るいホテルの一室の窓から外を見ながらでも十分に明るかった。

Avegantのディスプレイ技術を搭載したプロトタイプ
Avegantのディスプレイ技術を搭載したプロトタイプ
提供:Scott Stein/CNET

 ウェーブガイド方式とは、特殊な透明の薄板(ウェーブガイド)を使って、サイドの超小型プロジェクターから目に映像を投影する仕組みだ。MicrosoftやMagic Leapなどの企業は、それぞれ「Hololens」およびMagic Leapヘッドセットでこの技術を利用しているが、レンズとディスプレイを製造する手法は極めてコンパクト化が進んでいる。そうしたディスプレイとレンズを、大きすぎないデバイスで機能させるだけの能力を備えた高性能のプロセッサーは、まだ発展途上だ。Magic Leapが達成しているプロセッサーは有線接続で腰のあたりに身に付けるようになっており、「Hololens 2」はMeta Questヘッドセットに近い大きさのフルヘッド型のゴーグル装置に組み込まれている。

 こうしたスマートグラスは、何かに接続しなければならず、その何かとは、スマートフォンとなる可能性が最も高い。

スマートフォンとコンピューターはARグラス向けに進化する必要がある

Spacetop
Spacetop
提供:Scott Stein/CNET

 ただし、現在のスマートフォンの問題は、ほとんどのARグラスのニーズにうまく対応できないことだ。iPhoneの場合、基本的なディスプレイ出力にとどまっているが、ほかの外部モニターと同じようにUSB-Cで接続するXREAL Air 2 Proのようなスマートグラスの場合は、それで問題ない。一方、Androidスマートフォンは機種によって性能が大きく異なる。

 XREALには、独自のARベースのエコシステムがある。例えば、Androidスマートフォン上のアプリを通して動作し、ARグラスを真のARウェアラブルデバイスに変身させる「Nebula」もその1つだ。しかし、すべてのAndroidスマートフォンでうまく動作するわけではない。こうした性能のばらつきの問題に対処するため、XREALは自社のARグラス専用のスマートフォンを独自に開発した。「XREAL Beam Pro」と呼ばれるこのデバイスは、スマートフォンがこれから進むかもしれない進化の道筋を示している。

XREAL Beam Pro
XREAL Beam Pro
提供:Scott Stein/CNET

 XREAL Beam Proは199ドル(日本では税込み3万2980円)のAndroidベースのデバイスで、スマートフォンと同じようにAndroidアプリを利用でき、XREALのARグラスで表示できる。マルチタスクや3D ARモードも利用できる。Beam ProはUSB-Cポートが2つあるため、ARグラスを接続したまま充電することができる。また、2つのカメラが離れて配置されており、3D「空間」の写真や動画の撮影も可能だ。

 Qualcommはスマートフォンと接続して使用するARグラスを何年も前から提案してきたが、GoogleはまだこうしたARグラスの接続をAndroid OSの中核に据えていない。だが、それはまもなく実現するかもしれない。Qualcommで以前クロスリアリティ(XR)部門の責任者を務めていたHugo Swart氏が先頃、Googleに入社したからだ。一方、Googleはサムスン、QualcommとMRプラットフォームを共同開発しており、これを2025年に発表するとみられている。これがきっかけとなって、ヘッドセットとスマートフォンの間で「Google Play」が連携するようになる可能性もある。

 次世代のVisionハードウェアがiPhoneや「iPad」とようやく接続できるようになれば、Appleもそうした動きに追随するかもしれない。現時点では、Vision ProとAppleのほかのハードウェアの連携機能は、Vision ProをMacの拡張モニターとして使用できることだけだ。ノートPCもARグラスとの共進化がもっと進むはずである。これはスタートアップのSightful(筆者がAWEで見た別の製品の製造元)が模索していることだ。同社が手がけるSpacetopは、ディスプレイのない「Chromebook」のような製品で、常に、XREALのARグラスを接続した状態で使用する。ARグラスは、ベースとなるノートPCのディスプレイとして機能する。ベースとなるノートPCを認識して、空間内で追跡し、ディスプレイが常に中央に表示されるようになっている。

 SpacetopとXREAL Beam Proは、ARグラスをほかのコンピューターと接続して動作させる方法の初期の解決策のように感じられる。しかし、最終的には、私たちが使用するあらゆるデバイスは、ARグラスとうまく接続できるようになるだろう。ヘッドホンが、今や私たちが携帯するあらゆるデバイスと自動でペアリングするようになったのと同様だ。将来的には、それらすべてのデバイスが、カメラやスマートウォッチ、そのほかのウェアラブル機器を通して、同じようなハンドトラッキング入力をサポートするようになるはずだ。すでに報じられているように、カメラ付きのAirPodsが登場する可能性だってある。

次世代ARグラスが登場し、スマートフォンの進化を待つ

 ARグラスは依然として未来のデバイスだ。その最大の原因は、私たちの使用するスマートフォン、あるいは私たちの周りの世界が、まだARグラスを受け入れる段階に達していないことにある。公共の場所での使用に関する安全性の懸念もまだ解決されていないし、マップアプリを使用する位置情報ベースのARシステムも、他者の邪魔になることなく、特定の場所での共有体験を日常的に実現する方法をまだ完成させていない。スマートフォンのバッテリーとプロセッサーが、頻繁に過熱したり充電を必要としたりすることなく、ARグラスを動かせるだけの性能を備えているかどうかも不明である。

 現時点では、次世代のMRヘッドセットは、Vision ProやQuest 3と同じ道をたどり、家庭での使用を想定したAR機能をさらに追加したものになるだろう。そして、ARグラスには、より多くのAI機能やより優れたカメラ、オーディオやディスプレイが徐々に追加されていくことが予想される。筆者にとって理想的な次世代スマートグラスは、Ray-Ban MetaとXREALのARグラスの中間にある。意外と早く、2025年には、改良バージョンが登場するのではないかと筆者はみている。そのスマートグラスは、スマートフォンに接続する準備が整っているかもしれないが、スマートフォンが成長して進化し、スマートグラスともっとうまく連携できるようになるのを待つことになるだろう。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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