「Twitch」ダン・クランシーCEOに聞く--演劇専攻やGoogle在籍で得たもの、VTuberの存在感や日本市場の展望

 世界で最大規模のユーザー数を持つゲーム系ライブ動画配信サービスの「Twitch」。昨今では、ゲームプレイ以外にも、ライブ配信やコミュニティ形成という新たな側面から評価が高まり、日本市場でも規模を拡大しつつある。今回、TwitchのCEOを務めるダン・クランシー氏に、自身のキャリアからTwitch上での利用者の楽しみ方、日本市場での戦略などについて聞いた。

Twitch CEOのDan Clancy(ダン・クランシー)氏
Twitch CEOのDan Clancy(ダン・クランシー)氏
  1. 俳優になりたかった過去とソーシャルメディアでのキャリアが生きる
  2. 動画配信サービスのトップランナーが日本市場に本腰
  3. Twitch上でも注目を集めるVTuberカルチャー
  4. Twitch上での視聴者の増やし方、ライブ配信のメリットとは
  5. 日本・アジア市場戦略の強化と韓国から撤退した理由

俳優になりたかった過去とソーシャルメディアでのキャリアが生きる

――クランシーさんはGoogle、Nextdoorを経て2019年にTwitchに入社されましたが、当時のエピソードや入社した理由についてお話しください。

 私がTwitchに入社した頃は、私自身はTwitchユーザーでもゲーマーでもありませんでした。ただ、当時話をしたTwitchの社員の人柄が素晴らしく、Twitchというサービスのビジネスチャンスにも魅力を感じたので入社を決めました。それで入社してから、すぐにこの会社が自分にあっていると気付きました。理由としてはまず、NextdoorやYouTubeで経験してきたコミュニティの要素が強いと感じたことが挙げられます。そしてもうひとつ、実は私は学生時代に演劇を専攻していまして、自分が持っているビジネスや技術的な素養と、元々備えていたクリエイティビティの素養をうまく組み合わせることができる仕事だと気付いたのです。そのまま卒業していれば、現在は配信者側の立場になっていたかもしれません。

――演劇に携わっていたのですか?

 若い頃は演劇や劇場のコミュニティに参加していて、その道に進みたいと考えていました。結果的に別の道に進んだ訳ですが、大学時代までずっと演劇を楽しんでいましたし、私の兄弟も俳優をしているので、演劇にはとても親近感があります。

――Twitchでの業務に取り組むなかで、ビジネス領域での過去のキャリアが役に立っていると思うところはありますか?

 私がYouTubeに在籍していたのは、ちょうど事業規模が今のTwitchと同じサイズの頃です。そのなかでソーシャルメディアプラットフォームをどう伸ばしていくかを学びました。そこでの経験から、プラットフォームを訪れる視聴者はクリエーターを目的に来ているので、クリエーターにフォーカスすることが重要ということも理解できました。そういったYouTubeでの経験が、今に生きていると思います。

動画配信サービスのトップランナーが日本市場に本腰

――Twitchに在籍してからの約5年を振り返って、動画プラットフォーム市場の変化や、Twitchの変化をどのように感じていますか?

 この5年間は、動画配信という文化が成長した時期だったと感じています。コロナ禍を経て動画配信サービス市場は2倍以上に成長し、今では多くの人が動画配信を知っていて、実際に挑戦した人も多い状況です。InstagramやTikTok、YouTubeなど他のソーシャルメディアプラットフォームも動画配信サービスを提供するようになったので、世の中全体としてクリエイターエコノミーやコミュニティが広がっていると思いますし、動画配信という言葉がより一般的なものになってきたと思います。

――その中でTwitchはどんな立ち位置にいるのでしょうか。

 私たちのポジショニングについては、一貫して動画配信サービスのリーダーであると自負しています。そのなかで、日本だけはリーダーになれていないとも感じています。ただ最近は日本におけるTwitchの成長が著しく、2022年には51%、2023年は46%という勢いで急成長しています。実際に日本市場に投資もしていますし、その分の成長がみられています。視聴者層もストリーマーも増えていて、ようやく日本でも我々は強いポジションを築けています。

――さまざまな領域で日本市場は独特と言われることが多いのですが、クランシーさんからは日本のマーケットはどのように見えますか?

 おっしゃる通り、日本はユニークなマーケットだと感じます。そのひとつがVTuberです。日本でVTuberが始まり一気に広がりを見せて、一般の個人でもVTuberになっている人が多いですよね。それが世界的に広がって、米国でも大きなムーブメントになっています。VTuberの領域で日本は先陣を切っていると感じています。

Twitch上でも注目を集めるVTuberカルチャー

――アバターの姿でストリーミングを行うVTuberという存在は、Twitchでも注目を集めているのでしょうか。

 大きな注目を集めていますね。世界的にも広がりを見せていて、北米ではアイアンマウスやフィリアンというVTuberが有名です。私自身も、何人ものVTuberのストリーミングに登場したことがあります。VTuberの面白いところは、アバターを使う事で、その人がより自分らしく振舞えるようになるということです。カメラに映ることに自信がない人でも、アバターを通じて自分らしさを発揮できるところがとても面白いと思いますし、実際にTwitch上でも広がりを見せています。

――クランシーさん自身もストリーミング活動をされていますが、ストリーミングを行う魅力はどういったところにあると感じていますか?

Twitch内ダン・クランシー氏(アカウントは「DJClancy」)のストリームより
Twitch内ダン・クランシー氏(アカウントは「DJClancy」)のストリームより

 私が当初ストリーミングを始めた目的は、Twitchのプラットフォームを学ぶためでしたが、それ以降も続けているのは個々のストリーマーの皆様と同じ理由によるもので、シンプルに楽しいからです。(インタビュー後の)今晩もストリーミングをする予定ですが、コミュニティの皆様や他のストリーマーと交流を持つのも楽しいです。決して続ける必要はないのですが、楽しいので続けています。

――クランシーさんはピアノ演奏やカヤックの動画を配信されていますね。

 趣味をストリーミングするのはとても楽しいですね(笑)。私が特に好きなのが、他のストリーマーとコラボすることです。以前、日本を訪れた時も着物を着て日本の配信者とIRL(In Real Life) ストリーミング配信をしましたし、台湾やオーストラリアでも同様なコラボ配信をしています。

来日時、着物を着て街中を歩いたりするなど楽しんでいたという
来日時、着物を着て街中を歩いたりするなど楽しんでいたという

Twitch上での視聴者の増やし方、ライブ配信のメリットとは

――視聴者の増やし方やコミュニティの形成について悩んでいる個人のストリーマーはどうしたらいいでしょうか。Twitchでライブ配信を行うことのメリットと、何かプラットフォーム側でサポートをするようなことはあれば教えてください。

 まず、Twitchで配信するメリットについてお話しします。Twitchは様々なライブストリーミングプラットフォームの中で、唯一ライブストリーミングに特化して設計されています。私はよく、「Twitchを見るときは、しばらく椅子に座って視聴するつもりで見て欲しい」という表現を用います。どういう意味かと言いますと、たとえばTikTokでは、次々とコンテンツをスワイプしていきますよね。YouTubeだと関連するビデオが出てきます。つまり他のプラットフォームは、そういった仕組みを用意することによって長く視聴者を繋ぎとめようとしているのです。その点Twitchの場合、コミュニティがあるからユーザーが継続して動画を見てくれるのです。このコミュニティがあるということが、視聴者を同じチャンネルに繋ぎとめることができるという差別化要素になっています。

 自分のチャンネルをどう伸ばしてくかについては、私がお勧めしているのは、他のストリーマーとコラボすることです。ライブストリーミングの間に他のストリーマーとコラボすると、より多くの人が見続けるということが明らかになっているので、チャンネルに人を呼び続けるためにはコラボすることをお勧めしています。後は、他のストリーマーのチャンネルに行き、そこのコミュニティで時間を過ごすことも有効ですね。また、短いビデオクリップを作って他のライブストリーミングサービスで流していくという手法もあるので、短いクリップを簡単に作れるようにTwitchでサポートも開始しています。

日本・アジア市場戦略の強化と韓国から撤退した理由

――日本を含むアジア市場についてはどのように見ていますか。また先頃、韓国市場からの撤退もしましたが、改めてその理由もお聞かせください。

 まずアジアパシフィック全体については、非常に重要な地域だと捉えています。どこも国際的なプレゼンスがある国々ですし、日本においては、日本にいる視聴者以外に国外にもさまざまな視聴者がいる状況です。日本は世界で見てもここ数年で最も成長を遂げたマーケットであり、日本と台湾は収益化や広告の獲得も含めて大きなポテンシャルを備えています。それらを踏まえ、全体的にアジア圏はTwitchにとって非常に重要で、戦略的位置付けも高い市場となります。

 韓国について話をしますと、韓国には特有の市場があり、ストリーミングを行うためのコストが他国と比較して10倍以上かかってしまいます。理由はそこに尽きるのです。各所で撤退問題が取り沙汰されていますが、それは韓国のインターネットや課金システムの成り立ちの話に起因するものであり、弊社だけの問題ではありません。難しい決断でしたが、黒字経営が見込めなかったので撤退という苦渋の決断に至りました。

――今後について、2024年の戦略についてお話しください。

 いくつかに分けてお話します。まずは、モバイルプラットフォーム上でのユーザー体験の向上を目指します。モバイルアプリの改善については、まだまだやらなければならないことがあります。モバイル上での体験を向上させていくためには、より短いセッションをたくさん持てるようにして、クリエーターと視聴者が短いセッションを通して感情的に強い結びつきを形成できるようにしていく計画です。

 ツールに関しては、特にゲーム配信をしないストリーマーに対するエンゲージメントを高めるためのツールとして、他のストリーマーとのコラボレーションをしやすくする「Stream Together」という機能を用意しました。これを使うことで、複数人が一緒になってコンテンツ配信をすることができます。もうひとつ、ストリーマーがより簡単に短いクリップを作り、サードパーティのプラットフォームで共有できるようにするために、Twitchのストリームの切り抜きを簡単に作れるようなツールを提供します。

 もちろん収益化面も、さらに改善していかなければなりません。広告収入では改善の余地がありますし、ビッツ(※Twitch上で購入可能な仮想グッズ、投げ銭の単位)に関してもよりストリーマーの方々に提供しやすくなるようにしていきます。

 そして何より我々が重要な戦略として掲げているのが、クリエーターの皆様に対して透明性を持って接していくことと、クリエーターとの関係性やエンゲージメントを高めていくことです。クリエーターの皆様がいてこそのTwitchなので、クリエーターの皆様とは今後もオープンで透明性の高いコミュニケーションを築いていきたいと思っています。

――それらの戦略のなかで、日本向けとして重視していくものはありますか。

 コラボレーションの部分が、特に日本では重要だと思います。日本で最近Twitchが急伸している最大の要因は、コラボレーションです。Twitchはコミュニティの部分に特徴があるので、コラボレーションを伸ばしていくためのツールの拡充が日本市場にとっては重要になるでしょう。

――最後に今後のTwitchとしてのビジョン、こうありたいという未来像を教えてください。

 私が掲げる5年後10年後の将来像をお話ししますと、一番大切なことは、ユーザーが生成するコンテンツプラットフォームとして、土台をしっかり作っていくことだと思っています。集団としてのクリエイティブな才能を生かしていくことが重要であり、そのためにストリーミングをしやすい環境を作っていかなければなりません。

 利用者については、現在ストリーミングをしているユーザーは月間で約700万人ですが、それを2千万人、3千万人と伸ばしていく未来像を描いています。そのためには、コミュニティの形成をより簡単かつ短い時間でできるようにしなければなりません。ストリーミングをする配信者にとって、日常生活を送りながら、ついでに楽しみや収益のためにストリーミングをすることが当たり前になって欲しいのです。一方で視聴者も、もっと増やしていきたいですね。今はゲーマーが中心ですが、何故ストリーミングを見続けるかというと、コミュニティに帰属したいという欲求があるからです。それは人として当然の欲求なので、もっとコンテンツの幅を広げ、より幅広いストリーマーに参加してもらうことによって、ストリーミングという世界を広げていきたいと思います。

「Twitch」

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