スマートウォッチはすでに、昨夜どのくらいよく眠れたか、体温の変動があったかなど、おそらくほとんどの人が必要とする以上に、健康とウェルネスのデータを提供している。だが2024年、Apple、サムスン、Googleなどのテクノロジー大手はヘルストラッキングをさらに進化させるとみられている。
新しい健康指標と、ウェルネスデータを解析する人工知能(AI)ツールを組み合わせれば、スマートウォッチはヘルスアシスタントとしてさらに高機能化する可能性を秘めている。例えばAppleは、「Apple Watch」で睡眠時無呼吸や高血圧といった症状をモニタリングする機能を開発中だと報じられており、Google傘下のFitbitも運動に関する質問に答えてくれる生成AIの導入を試行しているところだ。
AIは以前からスマートウォッチに利用されているが、生成AIの急速な進化に伴って、2024年には大幅に導入が進む見込みだ。そのくらい、テクノロジー業界では生成AIに注目が集まっている。生成AIは、「ChatGPT」の原動力となっているAIの一種であり、データを学習したうえで、指示を与えるとコンテンツを生成したり、質問への答えを返したりすることができる。2023年には検索エンジン、生産性向上ツール、スマートフォンで導入が進んでおり、次にスマートウォッチで役割が大きくなるのは少しも不思議ではない。
そこで今回は、各種の報道、リーク情報、そしてAppleやGoogle、サムスンといった企業からうかがえる一般的な製品の方向性と戦略に基づいて、2024年に予想されるスマートウォッチの変化をまとめてみた。AIと新しいウェルネス機能の導入が進むほか、デザインの向上や、指にはめる新しいヘルスウェアラブルでの新たな競争といったことが予測される。
スマートウォッチでは2024年にAIの導入が加速する見通しだ。中でも、Google傘下のFitbitはヘルストラッカー製品に生成AIを導入する計画を最も明確に主張しており、これには「Pixel Watch」も含まれている。
Fitbitは、2024年に「Fitbit Labs」という新しいプログラムを展開する予定だ。このプログラムは、生成AIを使って質問に答え、ユーザーの活動データに関して詳細な状況情報を伝える。例えば、Fitbit Labsの機能を使うと、ある日のランニングの調子がいつもと違った理由などをFitbitアプリに尋ねることができる。また同社は、生成AIを利用して、ユーザーが個人の能力に応じた現実的なフィットネス目標を定められるよう支援するという期待もかけている。Googleのグループプロダクトマネージャーを務めるAjay Surie氏は、米CNETにそう語った。
Appleはすでに、ヘルストラッキングの補助にAIを利用している。これは、「Apple Watch Series 9」と「Apple Watch Ultra 2」で健康関連の質問に答える「Siri」の機能を見ても明らかだ。だが、Bloombergの報道によると、同社はApple Watchのデータを活用してアドバイスや知見を示す、デジタルヘルスコーチにも取り組んでいるという。このヘルスコーチの発表時期は明らかにされていないが、最高経営責任者(CEO)のTim Cook氏は、2024年にはさらにAI関連の発表があることを示唆している。
「今後を見据えて、当社はこうした未来を形作る各種テクノロジーへの投資を続ける」。金融ウェブサイトのSeeking Alphaで公開された筆記録によると、Cook氏は先頃、同社の2024年第1四半期収支報告において、ヘッドセットの「Vision Pro」に言及する中でこう語った。「AIも例外ではなく、そこには膨大な時間と労力を投下し続ける。今年の後半、その分野の進捗について詳細をお伝えできることを楽しみにしている」。
サムスンは1月、「Galaxy AI」に対応する同社初のスマートフォンとして「Galaxy S24」シリーズを発表し、AIへの取り組みで注目を集めた。これまでのところ、この新しいGalaxy AIの機能は、写真編集からメモの要約、言語の翻訳などまでに及ぶようだ。
サムスンが打ち出しているAI重視の方向性が、今後の「Galaxy Watch」にとってどんな意味を持つのか、まだ正確には分からない。それでも、同社経営陣からのコメントを見ると、スマートウォッチ製品にさらにAI機能を追加しようとしていることは間違いなさそうだ。
サムスンのモバイルエクスペリエンス事業部で、エグゼクティブバイスプレジデント兼研究開発局の責任者を務めるWon-Joon Choi氏は、1月に米CNETのインタビューに応じた際、AIをいかにウェアラブルに応用するかを模索中だと語った。また、ユーザーにとってヘルスデータを扱いやすくする何らかのデジタルアシスタントの開発を考えているかという質問に対しては、これまでに検討したことがある、と同社のモバイルデジタルヘルス部門を統括するHon Pak氏が答えている。
「われわれは、人々が状況を見て理解するのを支援し、解決策に導くためのデジタルシステムのコンセプトが必要になると考えている」とPak氏は先ごろの米CNETによるインタビューで語った。「どのようなフォームファクターにするかはまだ決めていない。それは人によって違うかもしれない。音声だけでいいという人もいれば、テレビに映像を映したい人もいる」
スマートウォッチには、心拍数、体温、血中酸素といった身体の信号を測定するセンサーがすでに搭載されている。うわさや報道を信用するなら、テクノロジー企業各社は、こうしたセンサーの新しい用途を模索するために、2024年に統計情報やデータから読み取れる知見をさらに追加することになるだろう。
Bloombergは、Appleが次期Apple Watchに血圧上昇や睡眠時無呼吸を検知する機能を追加する見込みだと報じている。同報道によると、血圧の検知機能については、Appleはさらに計測の精度を向上させたバージョンにも取り組んでいるという。
サムスンも、ヘルストラッキング機能を拡充しており、まずはGalaxy Watchが睡眠時無呼吸の検出機能に関して米食品医薬品局(FDA)の認可を受けたところだ。同社は、2024年内に「Samsung Health」アプリに2つの新機能を追加することも予告している。それが、「My Vitality Score」と「Booster Card」だ。前者は、OuraやGarmin、Fitbitの製品にあるようなレディネススコアにやや似ており、運動、睡眠、安静時心拍数、心拍変動などをもとに、身体と心の状態を評価する。一方、Booster Cardは健康データの分析結果に基づいてアドバイスを提供する。
GoogleがFitbitとPixel Watchで目指す大きい長期的な製品目標の1つが、スマートウォッチからのデータに基づいて、もっと簡単にライフスタイルを変えられるようにすることだ、とGoogleのSurie氏は話す。その目標が、Fitbitの新しい指標や知見という形で、いつどのように実現するのか、そもそも実現するかどうかは定かでないものの、今後の機能に関する同社の方向性について、ある程度の状況は見えてくる。特にストレス状態のトラッキングという点でこのアプローチを同社がどう捉えているか、Surie氏は大まかに語っている。
「当社の目標として私が願っているのは、ユーザーのストレスレベルを把握して日々の生活をサポートすることだ。ワークアウトに挑むときでも、重要な会議に向かうときでも、Fitbitを見れば適切な心構えをしておけるという状態になってほしいし、そうした活動に備えるアドバイスをFitbitで示せるようにしたい」
デザインは、新しいテクノロジー製品で必ずしも最重要の特性というわけではない。だが、手首にはめるスマートウォッチは例外だ。これまでに報じられてきた内容を踏まえると、2024年に登場する新しいスマートウォッチには、スタイルに関して注目すべき変化がありそうだ。
Bloombergによると、Appleは発売10周年の節目としてApple Watchの見直しを図っており、薄型化して新しいマグネット式バンドを採用する予定だという。一方のGoogleは、「Pixel Watch 3」を2サイズで展開する、と9to5Googleが報じている。そうなれば、1サイズしかない現行モデル「Pixel Watch 2」と比べて目立ったアップグレードとなる。
スマートリングは以前から存在するが、サムスンが1月に予告した「Galaxy Ring」のほか、「CES 2024」に登場した各社のスマートリングのおかげで、2024年に入ってからスポットライトを浴びている。スマートウォッチの機能の大部分を踏襲できるというわけではないが、ヘルストラッキングに関心はありつつ、スマートウォッチよりシンプルでミニマリスト的な代替品を求めている層にとっては、魅力的な選択肢になりそうだ。
「スマートリングの目的は、スマートウォッチよりも安価という点ではなく、スマートウォッチよりずっと小型のデバイスで、睡眠トラッキングなどの用途で邪魔にならないという点にある」と、International Data Corporation(IDC)のデバイスリサーチ担当バイスプレジデントを務めるBryan Ma氏が、米CNETの同僚David Lumb記者に語っている。
つまり、スマートフォンの他にスクリーン付きのデバイスを手首に装着する気にはならないというフィットネス愛好者たちに訴求したければ、スマートウォッチメーカー各社はさらに努力が必要だろうということだ。10年ほど前に存在した初期のフィットネスバンド、例えば「Jawbone UP」や「Misfit Shine」などが思い出される。シンプルでスタイリッシュな、スクリーンのないヘルストラッカーを手首に装着するという発想で開発されたデバイスだった。
スマートウォッチも、スマートフォンと同様で、1年ごとに徐々に進歩していく傾向がある。新しいセンサーが加わり、デザインがわずかに変わって、プロセッサーが新しくなるのが通常のパターンだ。2024年にも同じことが繰り返されそうだが、Appleやサムスン、Googleがウェアラブル製品にAIをさらに深く組み入れようとしていることを考えると、これまでより大きな変化が見られるかもしれない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果