先頃、サムスンはスマートフォンの新しいラインアップを発表したほか、「Galaxy Ring」についても予告映像を公開し、ヘルスケア関連の次なる大きなブレークスルーに焦点を向けつつある。同社は、高精度の血圧モニタリングや、指先に針を刺さずにユーザーが自分で血糖値を測定できる方法など、画期的な機能を自社のウェアラブルデバイスに追加できるよう多額の資金を投じている。
「常時血圧測定と血糖値測定ができるようになれば、状況は全く違ってくる」。サムスンのモバイルデジタルヘルス部門を統括するHon Pak氏は、最近のインタビューの中でこう述べている。「これらの実現は誰もが目指しているところだろう。われわれは、その目標に向けてかなりの投資をしている」
ヘルストラッキングは、スマホでも、スマートウォッチやスマートリングなどのウェアラブルデバイスでも重要な機能になってきた。「Galaxy Watch」では、すでに血圧を測れるが(日本国内では未対応)、初期設定の段階で腕帯(カフ)タイプの血圧計を使って校正を行わねばならず、その後も定期的な再校正が必要だ。Appleもサムスンも、血糖値センサーを自社のウェアラブル製品に実装するには至っていないが、その競争はすでに始まっている。
こうした技術の開発には時間がかかるものだ。サムスンはこの目標に何年間も取り組んでおり、2020年にはマサチューセッツ工科大学(MIT)と共同で、血糖値の非侵襲モニタリング手法の開発に関する研究結果を発表した。一方、報道によるとAppleは、非侵襲の継続的な血糖値モニタリングについて、遅くとも2010年から研究しているという。
サムスンの現在の研究内容は明らかにされていないが、2020年の研究報告によると、off-axis型ラマン分光システム(off-axis Raman spectroscopy system)の応用に向けて進捗があったという。レーザーセンサーを用いて分子の振動を観測し、皮膚を通してグルコースの有無と濃度を測定する技術である。
サムスンとAppleにとって最大の障害となっているのは、精度だ。ラマン分光などの手法は、血流から血糖値を直接測定する手法ほど精度が高くない。したがって、精度を保証できない限り、Galaxy RingにせよGalaxy Watchにせよ、また「Apple Watch」にせよ、血糖値モニターを搭載するには至らないだろう。
「何らかの方法で血糖値を測定できる各種の技術プラットフォームを小型化するなど、考えられる可能性をいろいろと試みているところだ」。Pak氏はこう説明し、非侵襲の血糖値モニタリングが5年以内に製品化されることを期待している、と付け加えた。
研究は有望そうだが、今のところ、米国のメインストリーム市場で利用できる完全に非侵襲の血糖値モニタリングデバイスは登場していない。一部の血糖値モニターメーカーからは、持続グルコースモニタリング(CGM)システムも提供されているが、1回は皮下にセンサーを刺さなければならず、7~14日ごとに交換も必要になる。非侵襲の手法があれば、米国内に3800万人以上いる糖尿病患者が、痛みを伴うことなく、どこででも継続的に血糖値を測定できるようになるのだ。
サムスンは、血圧モニタリングの機能についても改良を続けている。腕帯タイプの血圧計を使った再校正が必要になるまでの期間を延ばすためだ。一方Bloombergによれば、Appleは2024年にApple Watchに血圧モニタリングの機能を追加する予定だという。
「Appleにしても他社にしても、われわれは当初考えられた血圧の定義を変えようとしているのだと思う。つまり、どのくらいの心血管リスクを抱えているか、という見方だ」と、Pak氏はインタビューで答えている。
「Samsung Health」アプリのユーザーを増やし、より有用な知見を提供できるように、サムスンは2024年末までにGalaxy Ringの発売を予定しているほか、イヤホンや、さらには複合現実(MR)ヘッドセットに各種のセンサーを導入することも研究している。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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