改正航空法施行後、早1年が経過した。国土交通省航空局によると、操縦技能ライセンス交付数は11月30日の時点で、1等689件、2等4819件。ライセンス保有者の事故件数は0件だったという。
一方、第一種の型式認証、機体認証を取得した機体は、ACSL「PF2-CAT3」の1機種のみだった。レベル4飛行の実績も、3月に日本郵便が東京都奥多摩町で、11月にANAが沖縄県久米島町で、12月にKDDIやJALらが東京都檜原村で実施した実証3件にとどまった。
第二種型式認証も、12月にソニーグループの「Airpeak S1」が初めて取得したばかり。また、DJIやSkydioなどの海外勢への取材では、機体認証制度について否定姿勢は感じなかったものの、優先度はまだ高くない印象だ。
新制度による新たな挑戦に心から敬意を表する一方で、「制度整備と社会実装は、必ずしも連動しない」と、足元では実感した1年だったが、海外、ドック、衛星活用という3つのキーワードを手がかりに、ドローンの社会実装に向けた2023年の動向を振り返ってみよう。
最初に、日本勢の海外進出のニュースをいくつか紹介したい。2022年の振り返りでも、ACSLの小型空撮機「SOTEN」が米国でデモを実施し高評価を受けたことに触れたが、12月についに、輸出許可取得から1カ月を経て米国での販売を開始した。
ACSL 代表取締役CEOの鷲谷聡之氏は、夏頃に開催されたセミナー登壇時、「国外において経済安全保障のニーズに合致し、軍事ではなくB2B分野で、かつ用途特化型の機体を開発してきた。世界的にも稀有なポジションを駆使しながら、日本で培った製品を世界に広めて行きたい」と語っており、米国やインドに加え、12月には台湾市場への展開加速も発表した。
狭小空間点検ドローン「IBIS2」を開発・提供するLiberawareも、9月にマレーシアのBeyond Horizonと戦略的パートナーシップに関わるMOUを締結するなど、海外への事業拡大に関するニュースが目立つ。人口減少が続き、スタートアップの海外進出が自明となったいま、ドローン業界からのこのような動きは歓迎したい。
エンターテインメント分野でもポテンシャルが感じられる。1つはドローンショーだ。2023年は屋内外のイベントやコンサートで、もはやマストアイテムになった。日本では電波法による規制が厳しく、中国のような5000台規模のドローンショーは叶わないことが多いが、コンテンツ力と表現力がある。
「世界大会」・「アジア大会」のドローンショー(東京都内某所で筆者撮影)
12月31日まで横浜・八景島シーパラダイスで開催されている“ジャパンアニメ&キャラクター”のドローンショーフェスティバルでは、「エヴァンゲリオン」「鬼滅の刃」「ウルトラマン」のドローンショーが実施されている。機体数は1000台だが、「X」(旧Twitter)では海外でもバズっているようだ。
STARDANCE in 横浜・八景島シーパラダイス|エヴァンゲリオン(画像・映像提供:ドローンショー・ジャパン)
STARDANCE in 横浜・八景島シーパラダイス|鬼滅の刃(画像・映像提供:ドローンショー・ジャパン)
STARDANCE in 横浜・八景島シーパラダイス|空想特撮シリーズ ウルトラマン(画像・映像提供:ドローンショー・ジャパン)
もう1つは、ドローンレースだ。日本初プロフェッショナルドローンレーシングチーム「RAIDEN RACING」は、世界最高峰のドローンレース「DRONE CHAMPIONS LEAGUE」に2018年から6シーズン連続で参戦し、2023シーズンは3位入賞。ちなみに21年と22年は優勝を果たしており、グローバルで存在感を放っている。
一般的にはまだあまり知られていないようだが、ドローンレースは機体製作から整備、高い操縦テクニックが身に付くため、ドローンレーサーは点検現場でも大変重宝されるという。RAIDENを運営するドローンスポーツは、海外のインフラ設備点検を依頼された際、機体を一度バラして出入国し、現地で組み立てて点検業務を行ったこともあるそうだ。11月には、点検用ドローン「Rangle5」の提供も開始した。
エンタメ分野と点検分野の“親和性”、また少年時代から海外に挑戦できる可能性がもっと認知されれば、「ドローンレースをやりたい」と子どもが言い出したとき、ドローンを知らない親たちも安心して送り出せるのではないかと思う。
2023年の海外ネタで外せないのが、エアロネクスト子会社NEXT DELIVERYのモンゴル進出だ。
首都ウランバートルの市街地上空を、自動航行と遠隔監視で往復10km飛行して、血液を輸送する実証に成功した。KDDIスマートドローンも実証に参加し、日本から問題なく遠隔監視できることを確かめたという。
商業施設などのビル群と交通渋滞が眼下に広がる飛行風景は、日本では当分実現しそうにない。この実証は、深刻な交通渋滞のために血液を円滑に輸送できないという、切実な課題を背景に、現地医療機関からの強い要望を受けて実施されたという。
「モンゴルで着眼すべきは、制度と社会実装が同時に進められる点だ」と、現地取材で聞いた。モンゴルでは、ドローンを対象とする法整備がほとんどされていないため、「どのように活用していくか」という現場ニーズを踏まえながら、規制を整備していくことができる。事業化スピードにおいて利点はかなり大きい。
また、「モンゴルは、中央アジア、トルコへのゲートウェイになる」という話も面白い。途上国で切実な課題に寄り添いながらテクノロジーを進化させ、先進国よりも先に新たなインフラを整備していく、リープフロッグへの期待が高まる。
リープフロッグといえば、アフリカに進出した中国のイメージが強かったが、欧米やロシア、中国とも一定の距離を保つグローバルサウスとも呼ばれる国々には、まだチャンスが残されているかもしれない。そうした視点でモンゴルという国を見ると非常に興味深く、2024年以降の動きにも注目だ。
Aeronextモンゴル血液ドローン配送
ちなみに、「制度整備と社会実装が同時に」という観点で国内動向を振り返ると、全国新スマート物流協議会が政府に働きかけて実現に至った「レベル3.5」という新たな飛行レベルがそれに該当する。
「レベル3.5」の効果については、北海道上士幌町での事例で、陸路と空路の最適化による配送効率向上を報じたが、“移動車両”に船舶も含まれる場合、2023年の1年間ずっと、米「Zipline」を活用して長崎県五島列島で医薬品輸送サービスを拡大し続け、また長崎市内への長距離航行の航路も開いたそらいいなや、11月に国産eVTOL「QUKAI MEGA FUSION3.5」を用いて佐渡島から日本海を渡る物流を手がけたAIR WINGSとJR東日本らの取り組みにも寄与するだろう。
制度も社会実装も、一度形になったとて、終わりはない。希求し続けるものなのだと再確認した。「レベル3.5」の導入・効果については、物流以外にも2024年早々に取材したいところだ。
2023年は、「ドック」の新製品リリース、検証実施も目立った。「ドック」とは、「ドローンポート」「ドローンネスト」とも呼ばれ、機体を保管、充電、遠隔運用するためのハードウェアで、将来的な無人化や省人化に必須と目されている。
2023年4月には、プラントやインフラ設備に向けたロボット・ソリューションを提供するiROBOTICS(アイ・ロボティクス)が、同社運営の研究施設「ドローンフィールドKAWACHI」でドローンポート実演会を開催し、多くの来場者で賑わっていた。
出展したのは3社。WINGGATEとクリアパルスは、ラトビア製の全自動防災ドローン「AtlasPRO」と「AtlasNEST」を紹介した。バッテリー自動充電機能を有し、24時間稼働も可能だ。
SORABOTは、無人ドローンシステム「DroneNest」を出展した。DJI製品ほか、さまざまな既存の機体に対応しカスタマイズ可能という点や、屋外での長期運用実績が魅力だ。
自律飛行型ドローンSkydioのインフラ点検活用に先駆的に取り組んできたジャパン・インフラ・ウェイマーク(JIW)は、屋内で「Skydio Dock and Remote Ops」を使用した自動飛行デモを実施した。離着陸や障害物回避の安定性が高評価だった。
筆者は4月に参加したが、12月にも2回目が開催された。後日iROBOTICSが実施したアンケートによると、「2回目」という参加者も複数あり、満足度も非常に高かったそうだ。ドックへの注目の高さがうかがえる。
iROBOTICS「ドローン自動化・遠隔化デモ&ショーケース」
また、検証実施も話題を呼んだ。6月には、NTTコミュニケーションズが大林組と屋外用ドローンポート「Skydio Dock for X2」を用いて、屋外建設現場の自動巡回を行う実証実験に成功した。
NTTCom、屋外用ドローンポート「Skydio Dock for X2」活用事例
5月には、DJIの新製品「DJI Dock」が初お披露目されかなり話題になったが、10月にはKDDIスマートドローンが中電技術コンサルタントと、砂防の遠隔巡視点検を行う実証実験に成功した。
DJI Dock(「建設・測量生産性向上展2023」で筆者撮影)
9月に米国で発表されたSkydio X10も、専用ドックを開発中とのことで、ドックの活用は2024年以降も大きなトレンドになりそうだ。
こうしたドローンの遠隔運用が普及するためには通信が必須となるが、山奥の建設現場やインフラ設備などでは、モバイル通信が途絶するエリアが少なくない。
KDDIスマートドローンは、KDDIが国内初の「認定Starlinkインテグレーター」である優位性を活かして、ドローンとStarlinkを組み合わせたさまざまな活用方法を打ち出した。
Starlinkとは、スペースX社が開発した衛星ブロードバンドインターネットサービスで、数千機もの低軌道周回衛星による「高速」「低遅延」が特徴だ。
1月から3月に埼玉県秩父市でゼンリンらが実施した、土砂崩落による孤立集落へのドローンによる物資定期配送では、従来のモバイル通信ではドローン運航が困難だったため、KDDIがStarlinkをバックホール回線に活用した基地局を提供して、無事にプロジェクトを完遂できたという。
また、大林組との実証実験ではダムの建設現場において、自動充電ポート付きドローン「G6.0 & NEST」と「Starlink」を組み合わせて活用することで、現場管理業務を80%削減できることを確認したという。
前述のDJI Dockを活用した砂防の遠隔巡視点検でも、Starlinkを活用することでモバイル通信の途絶が懸念されるエリアでも問題なく遠隔運用できることを確認している。
KDDIスマートドローン、「DJI Dock」の活用事例
このようななかNTTComも、12月にNTTドコモがStarlink認定再販事業者として提供するStarlink Businessの販売を開始した。2024年以降の活用を期待したい。
また、衛星活用といえば通信だけではない。広範囲をカバーできる衛星データとドローンによるさまざまな取得データを組み合わせて活用する事例も、今後は増えてくることが予想される。
他方、2021年の振り返りでも言及したとおり、ドローンは「空」だけではない。水中ドローンや水上ドローンの商用化も目立った2023年だった。インフラ設備点検や、船舶の点検、藻場の調査や、海難救助など、さまざまな用途開発が進んでいる。2024年は空中ドローンに続き、社会実装のニュースも目立つだろう。
とはいえ、普段の生活で「ドローン」と口にすると、まだまだ認知の低さを感じることが多い。やはり身近に飛んでいなければ、享受できるメリットも、具体的なニーズも描きづらい。2024年も引き続き“社会実装の現場”に重きを置いて、有益な情報をお届けしたいと思う。
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