ANAホールディングスは11月8日、沖縄県久米島町において、「レベル4飛行」でのドローン配送サービスの実証実験の報道公開を行った。
レベル4飛行とは、有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行のことで、本実証は、日本郵便が3月に初めて実施して以来、2件目の事例となる。なお、「一等無人航空機操縦士」資格を保有する自社操縦士によるレベル4運航としては、初めての事例だという。
本実証の目的は、2022年12月の航空法改正で解禁された「レベル4飛行」の有用性の検証だ。
従来は、第三者上空をドローンが飛行することは認められていなかったため、立ち入り管理をして無人地帯を確保したり、経路を迂回したりする必要があった。
このため、バッテリー消費や運航時間の問題のほかにも、道路横断時に補助者を配置するための人件費といった運航側の課題や、荷物のお届け時間が定まらないなど配送サービスとしての品質にも課題があった。
本実証の配送先となったのは、沖縄県島尻郡久米島町に位置する真謝(まじゃ)地区。Aコープ久米島店へは小高い山を越えて行くため、車がなければ日常の買い物が難しいエリアだ。Aコープが提供する移動販売車の対象エリアでもないため、地域住民の買い物は、周遊バスの利用、ご近所付き合いの中での助け合い、タクシー利用などに頼っており、高齢者の免許返納も進むなか、買い物弱者の社会課題は無視できないという。
レベル4飛行の承認を得た本実証では、Aコープ久米島店から、道路や住宅地の上空を横断しながら、真謝地区まで2.3kmの距離を、ドローンが効率よく飛行。島民が電話注文した、きびなごの南蛮漬けや、いも天ぷらなど、1個あたり重量100g程度、価格帯100〜400円のお惣菜を、1回あたり2〜3個ずつ、約5分で届けた。
離陸地点のAコープ久米島は、道路沿いにあり、ドローンは離陸後すぐに道路を横断した。従来のレベル3では、ドローンは道路横断時に上空でホバリングし、また道路に配置された補助者が操縦者と無線などで連絡を取り合いながら、無人地帯を確保できたタイミングでようやく道路を横断飛行できるという非効率が生じていたが、レベル4承認を得た今回は、一時停止することなくスムーズに飛んでいった。もちろん、補助者の配置や、注意を喚起する看板の設置も行なわなかった。
レベル4飛行を実施するには、機体が「第一種機体認証」を取得していること、操縦者が「一等無人航空機操縦士」資格を保有すること、運航ルールを遵守することという、3つの要件を満たし、レベル4飛行の承認を得ることが必要になる。
本実証では、ANAホールディングス 未来創造室 モビリティ事業創造部 ドローン事業グループの青柳優介氏が「一等無人航空機操縦士」資格を取得し、自らオペレーションを担当した。自社の操縦者が資格を保有しレベル4運航を行ったのは、初めての事例だという。
使用機体は、ACSL製の「PF2-CAT3」。3月にレベル4飛行に必要となる「第一種型式認証」を取得した、国内唯一(11月現在)の機体で、前述の日本郵便が使用したものと同じ仕様の機体だ。
GNSSアンテナやIMUなどのセンサーを2つ搭載して機器の故障リスクに備え、万が一にも飛行を維持できなくなった際の落下リスクを軽減するためのパラシュートを標準搭載するなど、より高いレベルの安全確保が図られた機体だ。
運航ルールの遵守においては、航空会社としてANAが培ってきた、安全管理、運航管理、整備、教育などのさまざまな知見を活かし、また必要に応じて航空部門のスペシャリストにも意見を求めながら、飛行マニュアル、規定、チェックリストなどをしっかりと作り込んだという。
なお今回は、仲里間切蔵元跡を配送先とし、個宅への“ラストワンマイル”は、地域で働く方がボランティアとして担った。当日は、午前3件、午後2件の注文があったが、ドローンが飛ぶというタイミングで、随時対応したという。ドローンが着陸後に荷物を自動で切り離して再び離陸地点へと戻っていくと、置き配された荷物を取り上げ、その足で注文者の自宅まで50mほど歩いて届けた。
ドローンが荷物を置き配するところ
ANAのドローンプロジェクトは、2023年4月から「未来創造室モビリティ事業創造部」として、正式に事業化した。同時に未来創造室の室長に就任した、ANAホールディングス 執行役員 未来創造室 室長の津田佳明氏は、「われわれの主戦場である空で産業革命が起きている、空の事業者として見過ごせない」と、同社でドローンプロジェクトが立ち上がった頃から推進してきた人物で、コロナ禍中は経営企画で腕をふるったのち、この正式な事業化のタイミングで“古巣”ともいえる未来創造室に戻ったようだ。
津田氏は、「本実証は、町の方たちが暖かく迎えてくれたことが大きい。今回のレベル4飛行の実現で、ようやく収益事業化のスタートラインに立てた」と話す。
レベル3までは無人地帯を確保する必要があるために、1フライトあたりの必要人員が多く、事業としての採算性は厳しかったが、本実証を経て、省人化やコスト削減といったレベル4の有用性を、改めて確認できたという。
また、ANA未就航地である久米島に、“飛び込み営業”して本実証を推進してきた青柳氏は、「レベル4飛行の監視業務は、まさに飛行機と一緒だ」と話す。
レベル3では補助者の目という助けを得ながら運航できたが、レベル4では完全に遠隔で、カメラ映像や機体情報を頼りに、安全運航をやり遂げねばならない。計画通りに飛行しているのかなどを1人でも抜けもれなく確認できるよう、マニュアル化やチェックリスト化を図り、またその安全運航を組織として担保できるよう、体制を作り上げた。これからもさらに、リスクが高まった際の判断基準の作り込みなど、磨きをかけていく予定だ。
今後、ANAドローン事業グループは、内製で開発中という運航管理システムや、安全性向上を目指し続ける航空会社ならではの知見に裏打ちされた飛行マニュアルなどを、パッケージ化した商品を企画し、事業計画の策定も急ぐ。
将来的には、これまでレベル3での長距離ドローン物流の実証で用いてきた固定翼機を組み合わせた、沖縄エリアにおける広域なドローン配送サービスの提供や、自治体や地元事業者との協働を通じた地域における経済効果の波及、全国に33拠点を構えて地方創生を推進するANAあきんどとの連携なども視野に入れる。
本実証では、運航管理システムの一部機能が、カスタマー向けウェブアプリとしてリリースされていた。QRコードを読み込むだけで、ドローンの位置情報を確認することができ、大変便利だと感じた。
ドローンの位置情報確認
一方で、浮き彫りになった課題もある。本実証で、実際に商品を注文した島民の方に話を聞くと、「足が悪くて、歩いて荷物を取りに行くことが難しい高齢者もいる。やっぱり自宅まで届けてもらいたい」「騒音が気になった」「お米やお酒も運んでもらいたい」という声があった。
「PF2-CAT3」のペイロードは1kgで、運べるものが限られてくる。機体メーカーであるACSLに聞くと、すでに5kgの荷物を運べる機体の開発を進めているという。
本実証では、久米島町役場が、地元調整や、地域関係者の取りまとめ、地域の物流サービス維持のための行動計画の検討などの役割を担った。当日の説明会には、久米島町町長の桃原秀雄氏と、沖縄県商工労働部産業振興統括監の知念百代氏が同席した。
桃原氏は、「毎年、約100人の少子化が進む久米島では、高齢化が進み、移動困難な高齢者の増加や、働き手不足も各産業で進んでいる。ドローンがいますぐにこうした課題を解決するわけではないが、レベル4飛行によって低コスト、高効率のドローン配送が実現すれば、久米島が目指す『全ての世代がいきいきと暮らせるまちづくり』にも役立つのではないかと思っている」と語った。
また、知念氏は「離島には、緊急時の物資輸送、交通の不便、人手不足など、さまざまな課題があるが、本実証のような最先端の取り組みが久米島で行われるということは、山間部での物流や、全国規模での人手不足など、全国的な社会課題に解決の道を開くという意味でも、大変有意義な取り組みだと思う」と話した。
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