新スマート物流「SkyHub」を全国展開するNEXT DELIVERYは、12月8日付で新設されたばかりの「レベル3.5」の飛行承認を取得し、12月11日に北海道上士幌町(かみしほろちょう)で日本初のレベル3.5飛行によるドローン配送を実施した。
ポイントは、「実証ではなく実装」という点だ。
北海道上士幌町は2021年8月に、NEXT DELIVERYの親会社でドローンスタートアップのエアロネクスト、物流大手のセイノーホールディングス、電通と4者で、ドローンを含む「持続的な未来のまちづくり」に関する包括連携協定を締結。新スマート物流となるSkyHubを導入して、地域の物流課題の解決を図ってきた。このたび、“異例のスピード”で規制改革された「レベル3.5」の立役者でもある。
今後は、レベル3.5の導入によって、ようやく事業化できたドローン配送と、従来のトラックによる陸送を組み合わせることで、「地域物流の最適化」を図り、誰もが暮らしやすい町づくりをより一層推進するという。
上士幌町がSkyHubを導入し、ドローン配送の商用化を目指してから、約2年。この日は、待ちに待ったドローン配送事業化の日だ。
中心部の市街地と、周囲には農家や酪農家の“ポツンと一軒家”が点在する、二重構造の上士幌町では、「市街地では陸送、周辺地域には空送」と、早くから計画されていた。
しかし、ドローン配送の事業化には、なかなか目処が立たなかったという。立ちはだかっていたのは、人件費をはじめとするコストの問題だ。
「レベル3」と呼ばれる、無人地帯における目視外自動飛行でドローン配送には、道路上空をドローンが横断する場合は補助者を配置する、進入経路にあたる全ての道路に立看板を毎日設置し撤去するなど、厳格な立入管理措置を講ずることが求められた。
「市街地から農家さん1軒への配送のために、5km、7kmとトラックを走らせるのは、コスト面でも非常に負担で非効率。物流2024年問題も迫っている。そこをドローンに置き換えよう」という発想だったのだが、「法律を遵守する限り、ドローンを飛ばせば飛ばすほど赤字」という状況が続いていたのだ。
この状況を打破したのが、上士幌町長の竹中貢氏が会長をつとめる「全国新スマート物流推進協議会」だ。
2023年5月、竹中氏らが全国新スマート物流推進協議会として、デジタル大臣の河野太郎氏を正式に訪問し、ドローン配送の課題について話した。続けて6月25日、河野大臣が新潟県阿賀町でのドローン医薬品配送の実証実験を視察した際には、同協議会の理事でエアロネクスト代表取締役CEO、NEXT DELIVERY代表取締役の田路圭輔氏が、ドローン配送事業化の課題について具体的に意見交換を行ったという。
本誌CNET Japanでも報じたが、全国新スマート物流推進協議会は、7月にシンポジウムを開催しており、その場には河野氏がリアルで駆けつけ、「国交省とも、再度規制改革が必要だという話をしている」と話していた。
動きが活発化したのは、その後だ。10月の第1回デジタル行財政改革会議では、内閣総理大臣を務める岸田文雄氏から、ドローンの事業化を加速するよう指示があった。11月の第2回のデジタル行財政改革会議では、国土交通大臣の斉藤鉄夫氏が「無人地帯での目視が飛行における事業化を促進するため、年内に新たにレベル3.5飛行の制度を新設する」と発言し、それを受けて岸田氏が「レベル3.5飛行制度を年内に新設し、ドローン配送の事業化を年内に」と明言した。
飛行当日、上士幌町を訪れた、国土交通省 航空局安全部 無人航空機安全課 課長補佐(統括)を務める勝間裕章氏は、新設されたレベル3.5について、このように説明した。
「一定の要件が満たされれば、従来の立入管理措置、すなわち補助者・看板の配置や一時停止を撤廃する。さらに、道路や鉄道の上空は移動車両がいても飛行可能にする。こういった飛行形態のレベル3.5を新設し、併せて許可承認の短期化を可能な限り目指している」(勝間氏)
なお、同協議会には、SkyHub初の導入自治体である山梨県小菅村や、自治体で初めて自動運転バスを公道で定常運行した茨城県境町などをはじめとする、全国の自治体が参加している。地方自治体と民間企業が連携したことで国が動き、事業の実態に即した制度改革が異例のスピードで実現した好事例といえる。
竹中氏は、「2023年5月に河野大臣にお話させていただいて、こんなに早くに制度を改正して年内に動き始めるということは、全く想像していなかった。大きな課題の一つがいろんな面で大きく前進する、節目の日になると思う」と話した。
当日は、2つのルートで「レベル3.5」飛行によるドローン配送事業がスタートした。
1つは、市街地の端に位置する「かみしほろシェアオフィス」から、平日でも行列ができる人気店ハンバーグレストラン「トバチ」をつなぐ、ドローンフードデリバリーだ。片道8.5km、往復約17kmを飛行して、シェアオフィス利用者が注文したハンバーグランチを2つ、温かいままお届けした。
従来ならこの距離を飛ばす場合、着陸地点の補助者と地上の監視員で10人以上配置し、看板も毎日1〜2時間かけて手配しなくてはならなかったが、レベル3.5導入によって、飛行指示と監視は遠隔地にいるリモートパイロットが行い、荷物の積み込みはトバチのスタッフが行うことで、現地に余剰な補助者を手配することなく、スムーズにドローン配送を実施できた。
もう1つは、「かみしほろシェアオフィス」から、市街地周辺に点在する個人宅への、新聞配送サービスだ。北海道らしい広い庭先に、ドローンは新聞を置き配して、往復9.8kmを自動で飛行した。
いずれも、この日からドローン配送サービスをスタートするという。岸田氏からの「ドローン配送事業を年内にスタートすること」というミッションを無事にクリアできた格好だ。
今後もNEXT DELIVERYは、上士幌町におけるレベル3.5飛行を推進することで、空送と陸送の最適化を図り、担える物量の最大化を目指す。また、小菅村や境町をはじめ、全国にあるSkyHub社会実装地域でのレベル3.5導入も推進し、各地域の物流課題に即したソリューションとしての新スマート物流構築を進める構えだ。
田路氏も、「トラックとドローンの組み合わせで物流課題を解決していこうというサービスを全国に展開し、実証ではなく実装した地域も9自治体に増えた。これがあるからこそレベル3.5が意味を持つと思う。まさに今日をきっかけに、ドローン配送がようやく事業化のフェーズに入った」と、“再スタート”に意気込みを示した。
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