日本郵便は3月24日、国産ドローンメーカーACSLと、東京都の奥多摩町の協力を得て、日本初となるドローンの「レベル4」飛行を成功させた。
レベル4とは、第三者上空(有人地帯)を含む飛行経路で補助者なしの目視外飛行で、2022年12月5日の改正航空法施行で解禁されたばかり。日本では、政府が「2022年度内のレベル4実現」という目標を掲げ、官民一体となって進めてきたなか、初のレベル4が待望されていた。
使用機体は、3月13日に日本で初めて第一種型式認証を、3月15日に第一種機体認証を国土交通省より交付されたACSL製「PF2-CAT3」。最大約1kgの荷物を運ぶことができる。
運航管理は、2023年に入って第一種操縦者技能証明を取得した、日本最高峰のドローンパイロット4人。レベル3飛行(無人地帯における目視外飛行)でのフライト実績も豊富で、新機体運用にあたりACSLから機体を整備する技能の認定も受けた上で、機体の整備業務も行なった。
ドローンは、奥多摩郵便局屋上から離陸。周りは住宅地で、道路の往来も多いところだ。これまでも、日本郵便は2019年度から2021年度の3年間、同エリアにおいてドローンの運用方法の検証を実施してきたが、「レベル4」解禁以前は、奥多摩郵便局の裏手を流れる川の上空を通り、有人地帯を避けて迂回するルートで飛行していた。
今回は、郵便局眼前の住宅地と道路、山を越えて、奥多摩郵便局区内の住民宅まで、直線的に飛行。往復約4.5kmを高度20〜145m、最高時速36kmで約9分間飛行して、荷物を配達した。着陸後は荷物を自動で切り離して“置き配”したのち、自動で再び離陸、奥多摩郵便局屋上へと帰還した。
配達先は、奥多摩郵便局から陸路で約10分の一軒家。距離としてはさほど遠くはないが、山の中腹にあるこちらの家までは、勾配が非常に急な細く曲がりくねった坂を登るため、二輪での配達はかなり大変そうだった。
玄関前の庭に届けられた荷物を受け取った住民の方は、2020年からドローン配送の実証に協力してきたと明かし、感想やドローンへの期待をこのように語った。
「初期の頃に比べて、機体も安定して、すごく良くなっていると思う。普段は、郵便を届けてもらったときに配達員さんに渡せば持っていってくれるので、不便を感じる場面はあまりないが、冬場や、災害時などには非常に助かるだろう。また、うちよりも不便なところは、町内にも日本全国にもいっぱいある。人が運ばなくてもいいところは、ドローンで運べたらいいのではないか。置き配についても、到着のお知らせなどがあれば、気にならない」
ドローンによる置き配の様子
ドローンが離陸地点の奥多摩郵便局屋上に帰還するところ
日本郵便 常務執行役員の小池信也氏は、「日本郵便は将来を見据え、先端技術であるドローンや配送ロボットの実用化を進めて、オペレーションの改善、改革に努めている。ドローンは2016年から先進的に取り組んできた。奥多摩町で住民の方々にもご理解いただき、2019年から実証を重ねてきたことで、ドローンの運航も安定して、今回は日本初のレベル4飛行を国からも認めていただいた。実用化の一歩手前まで漕ぎ着けた」と挨拶した。
日本郵便はユニバーサルサービスとして、全国で同じサービスレベルの提供が求められるが、労働力不足が顕著になったわが国において、省人化への対策は喫緊の課題だ。また、少子高齢化が進む中山間地域での配達は、陸路で配達物がないところも経由するため、非効率が生じがちだ。
このため、日本郵便はドローンを、「人の代替ではなく、配送効率を上げる省人化ツール」として位置付けてきた。今回の飛行では、従来のレベル3と比べて、飛行距離は約2割、飛行時間は約4割も短縮でき、これは「ものすごく大きな一歩」だという。
レベル3では、無人地帯上空を選んで飛行するため迂回ルートになり、飛行は非効率に長くなりがちだった。また、谷間を飛行することも多かったため、飛行速度を上げづらい、道路に人や車両がいるときは一時停止して通過を待たなければならない、といった課題があった。
しかし、レベル4では、地上の人の有無に関わらず、直線的なルートで、ある程度のスピードを保って飛行できる。また、通行人の確認などで離陸のタイミングが左右されず、任意のタイミングで飛行開始できることも大きなメリットだったという。
2023年度は、2022年12月6日にお披露目したばかりの物流専用ドローンの型式認証およびレベル4飛行の実施を目指す。同機体は、最大搭載重量約5kg、最大航続距離約35kmと、よりパワフルなドローンで、個人宅への配達のみならず、局間輸送にまで用途の拡大を狙えるという。
一方で、郵便局は住宅地に立地する場合が多く、ドローンは必然的に「レベル4」飛行が求められるが、第一種機体認証を得た機体が市場に増えてくるまでは、価格の低下が見込めないことや、第一種操縦者技能証明の有資格者がまだまだ少ないなか、運航ルールに則って安全安心に運航管理できる現場責任者をどう育成するのかなど、実用化や普及には課題もある。また、書留郵便など手渡しの荷物の扱い、置き配した後の空箱の運用など、細かな業務レベルでの調整もこれからだ。
今後の実用化に向けた取り組みが期待されるとともに、1人のオペレーターが複数機体の運航管理を担うための技術開発にも着手する。「日本初の初レベル4」は新たなフェーズの幕開けとなった。
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