エアロネクスト、極寒のモンゴル首都でドローン血液輸送--海外での飛行実証、初成功

 エアロネクストは11月13日、モンゴル首都のウランバートル市において、ドローンで血液を輸送する実証実験を行った。

 同社が海外でドローン輸配送を手がけるのは初めての事例で、人口が密集する首都、かつ標高約1300mの立地、極寒の気象条件での飛行は、世界的にも難易度の高い事例だったという。

成功直後の関係者一同。モンゴル国立輸血センターにて
成功直後の関係者一同。モンゴル国立輸血センターにて

 実施時刻は、現地時間午前11時。天候は晴天で、雨や雪の影響はなく、地上の風もおだやかだったが、「外気温マイナス15度」というチャレンジングな環境だった。

 機体が冷えないように、飛行直前に運搬用車両から運び出され、フライトコントローラーやバッテリーの保温対策も行っていた。

今回飛行した物流専用ドローン「AirTruck」
今回飛行した物流専用ドローン「AirTruck」

 デモフライトには、地元テレビ局などが多数訪れ、日本製の物流専用ドローン「AirTruck」がウランバートル市街地上空を飛行する様子を、熱心に取材していた。民間企業の発表会にこれほどの報道陣が集まるのは稀だという。

地元メディアが殺到
地元メディアが殺到

 というのも、ウランバートル市内は交通渋滞が深刻で、普段なら車で20分のところでも、渋滞にはまると3時間かかることも少なくない。このため、血液輸送などの緊急事態でも、正確な輸送時間を予測できない、救急車や同乗する看護師の稼動効率が下がる、といった課題を抱えていた。

 空から一直線に届けられる配送効率のよいドローンは、地元でも非常に注目度が高く、「課題解決になる」と大変好意的に捉えられたようだ。

普段の血液輸送で使用されている救急車(奥)と、今回輸送を担ったドローン(手前)
普段の血液輸送で使用されている救急車(奥)と、今回輸送を担ったドローン(手前)

モンゴル首都ウランバートルで9.5km飛行--地元は歓迎ムード

 当日の飛行ルートは、モンゴル国立輸血センターからモンゴル国立医科大学付属モンゴル日本病院まで、往復約9.5km(片道4.75km)。ウランバートル市街地上空を、高度約120mでドローンが自動で飛行した。

 日本でいうところの「レベル4(有人地帯における補助者なし目視外飛行)」に該当すると指摘されそうだが、無人航空機に関する法制度が明文化されていないモンゴルでは、飛行自体は違法行為に該当しない。だからといって、自由に飛ばしていいわけではないのは当然だ。

モンゴル首都ウランバートル市街地上空を飛行する物流専用ドローン「AirTruck」(写真中央)
モンゴル首都ウランバートル市街地上空を飛行する物流専用ドローン「AirTruck」(写真中央)

 エアロネクストの運航チームは、これまでに実証と実装を含めて日本全国38箇所で、飛行してきた経験にもとづき、事前に飛行ルート設定やロケハンを行ったうえで、モンゴル国民間航空庁(MongolianCivilAviationAuthority:MCAA)の許可を得て、飛行を実施したという。

モンゴル国立輸血センターを飛びたつ「AirTruck」
モンゴル国立輸血センターを飛びたつ「AirTruck」

 正式な許可を得たドローンが輸配送用途で飛行するのは、同国内でも初めての事例だそうで、MCAAにとっても、初めてのチャレンジングな取り組みとなったが、その推進を後押しした1人が、モンゴル国立輸血センターのセンター長をつとめるERDENEBAYAR Namijil(エルデネバヤルナムジル)氏だ。

 実は、2年前に自らドローンを開発して空路を開拓しようとしたほど、「ドローンによる輸送」を熱望してきた人物で、本飛行の実現に向けて、医療機関として惜しみない協力をしたという。

地元メディアのインタビューを受けるERDENEBAYAR Namijil(エルデネバヤル ナムジル)氏
地元メディアのインタビューを受けるERDENEBAYAR Namijil(エルデネバヤル ナムジル)氏

 また地上には、安全運航管理のため10人の補助員を配置した。ここでは、本プロジェクトの現地リーダー的な存在であるNewcom Groupが、系列の警備会社の従業員を補助員としてアサインするなど、MCAAをはじめとする地元関係者との調整に続いて、現場オペレーションでもしっかりと協働したという。

発表会で挨拶するNewcom Group CEOのB.Baatarmunkh(バータルムンフ)氏
発表会で挨拶するNewcom Group CEOのB.Baatarmunkh(バータルムンフ)氏

 上空でのモバイル通信利用では、モンゴル通信大手のMobicomCorporationが協力した。Mobicomは、もともとNewcom Groupがファウンダーとなって立ち上げた企業で、現在はKDDIも出資している。

標高、極寒、人口密集--3つの障壁を飛び越えて

 使用機体は、エアロネクストとACSLが共同開発した「AirTruck」。機体の中心部に荷物を上から搭載し、到着後は自動で荷物をリリースすることができる、物流専用ドローンだ。

 エアロネクストが独自に開発した「4DGRAVITY」による機体構造設計技術により、荷物の揺れを抑えた安定飛行ができるという。

 日本での公表値は、最大積載重量は5kg、その場合の最大飛行時間は35分で、その範囲内でこれまで2年近く稼働してきた。

「AirTruck」に看護師が荷物を搭載するところ
「AirTruck」に看護師が荷物を搭載するところ

 しかし、標高1300mのウランバートルは、気温だけではなく、気圧も日本より低いため、バッテリーの減りも日本での稼働時より早くなる。

 そのため今回は、輸送先の病院に到着時、荷物をリリースした後に、一度機体を着陸させて、バッテリーを交換してから、復路の飛行を開始した。

運航管理の現場
運航管理の現場

 当日、運んだのは実際の血液と医療液。荷物の重さは、重さは約2.3kgだった。

 エアロネクストとともに「新スマート物流SkyHub」を推進するセイノーホールディングスが、医薬品ラストワンマイルを担うメンバーを現地に派遣して、梱包や温度管理を担当した。

 気温がさらに下がる上空で、どのように温度が変化するのかなどを確認するため、モンゴル国立輸血センターに指示を仰ぎながら、異なる温度管理が必要なものを同じ箱に詰めて輸送したという。

搭載した血液と医療液
搭載した血液と医療液

 エアロネクスト 代表取締役 CEOの田路圭輔氏は、「標高、極寒、人口密集という、世界的に見ても難易度の高いフライトをやり切ってくれた、技術・運航チームに心から敬意を表する」と述べたうえで、今後についてこのように語った。

エアロネクスト運航責任者の青木孝人氏(左)、代表取締役 CEOの田路圭輔氏(中央)、技術責任者の内藤玄造氏(右)。飛行成功直後の様子
エアロネクスト運航責任者の青木孝人氏(左)、代表取締役 CEOの田路圭輔氏(中央)、技術責任者の内藤玄造氏(右)。飛行成功直後の様子

 「日本は、規制が厳しすぎて、事業化のめどを立てることが非常に難しい。日本でだけ取り組んでいても、ドローン産業は立ち上がらないと思っている。ドローンは、すごく可能性があるテクノロジーなので、規制をこれから整えていくモンゴルで、医療機関の皆さん、インフラ大手のNewcom Groupさん、MCAAさんはもちろん、通信大手のMobicomさん、コンビニチェーンのCUさん、フードデリバリのTok Tokさんなど、さまざまな地元の事業者と、一緒に新しい産業を創っていきたい」(田路氏)

地元メディアのインタビューを受ける田路氏
地元メディアのインタビューを受ける田路氏

 また、中国深センを本拠地として国際協力機構(JICA)経由でモンゴルを“新規開拓”して、本事業をゼロイチで推進してきた、エアロネクスト CEO室グローバルビジネス担当マネージャーの川ノ上和文氏は、ドローンに限らず幅広い分野の日本のスタートアップがモンゴルに進出していく近い将来を視野に、このように話した。

 「日本が技術を教える、という考え方だけでは、もう時代遅れ。日本の技術力は確かに高く、仕事への向き合い方を含め外国から信頼もされている。それらをどんどん外国、特に新興国に持って行って、現地の環境に応じてどのように使えるのかを教えてもらって、実際に一緒にやっていく。その過程で技術を磨いていければ、“リープフロッグ”を起こせる可能性が高まる」(川ノ上氏)

川ノ上氏(左)と、本実証をともに推進した事業家のRAVJAAS Soderdene(ラブジャーソドエルデネ)氏(右)
川ノ上氏(左)と、本実証をともに推進した事業家のRAVJAAS Soderdene(ラブジャーソドエルデネ)氏(右)

 なお、本実証は、エアロネクストが採択されたJICAの2022年度中小企業・SDGsビジネス支援事業「モンゴル国ドローン活用した医療品配送網構築に係るニーズ確認調査」プロジェクトを進めるなかで、日本とモンゴルの両国の組織、事業者が10者で立ち上げた「モンゴル新スマート物流推進ワーキンググループ」の初めての取り組みになるとのこと。

 参加機関は、JICA、Newcom Group、モンゴル国立医科大学付属モンゴル日本病院、Tok Tok、エアロネクスト、ACSL、セイノーホールディングス、KDDIスマートドローンの10者。今回の発表会には、KDDIスマートドローン代表取締役の博野雅文氏も出席し、同社が開発・提供する運航管理システムの本事業における活用について意欲を示した。

輸送先のモンゴル国立医科大学付属モンゴル日本病院へ、ドローンが飛んでいく様子


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