究極のウェルビーイング「WELL認証オフィス」とは--生産性を向上する快適な職場環境

 ウェルビーイング(Well-Being)という概念が、多くの企業の間で注目されている。この語の意味するところは「精神・社会的な健康」。病気でない状態の健康を表すヘルス(Health)よりも幅広い概念といえる。

パナソニック システムソリューション開発センターオフィスでWELLv2パイロット版のゴールド認証を取得
パナソニック システムソリューション開発センターオフィスでWELLv2パイロット版のゴールド認証を取得

 なぜこれが注目されるのかといえば、従業員のウェルビーイングが、企業の生産性向上につながるという認識が世界的に広まっているからだ。今では、職場にウェルビーイングの視点を取り入れ、従業員がより働きやすい環境を作る企業が増えてきた。その最先端をいくのが「WELL認証オフィス」である。

 2014年にスタートしたWELL認証は米国のDelosが開発した認証制度で、建築物や空間の環境を、ウェルビーイングの観点から評価する。WELL認証には、主軸となるWELLv2(v2)と、感染症対策の視点を取り入れたWELL Hearth-Safety Rating(HSR)の2種類の認証がある。そのうちWELL v2では、建築物・空間の環境を、10個のコンセプトに基づいた、必須24項目+加点98項目で評価。点数に応じて、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの4段階で認証を付与する。一方のHSRは、コロナ禍を機に開発されたもので、清掃、除菌の強化や、空気質の管理、医療サービス支援といった評価項目がある。

WELL認証の種類と審査コンセプト。v2の取得には実地審査が必要
WELL認証の種類と審査コンセプト。v2の取得には実地審査が必要

 米国発祥のWELL認証は、日本国内ではまだ普及の途上にあるが、その先頭を走っている企業のひとつがパナソニックだ。パナソニック創業者の松下幸之助は、著書のなかで次のような言葉を遺している。

 「いかにすぐれた才能があっても、健康を損なってしまっては十分な仕事もできず、その才能もいかされないまま終わってしまいます。では健康であるために必要なことは何かというと、栄養であるとか、休養とかいろいろあるが、特に大切なのは心の持ち方です」同社がWELL認証普及に力を入れるのは、創業者の意志を継いだ試みといえる。

 パナソニックの社内カンパニーであるエレクトリックワークス社は、Delosが2017年4月に発足させた研究施設「WELL Living Lab」の創設メンバーとして参画。2018年4月には、門真にあるパナソニック システムソリューション開発センターオフィスでWELLv2パイロット版のゴールド認証を取得した。この認証取得は、関西圏のオフィスおよび、国内電機メーカーとして初の事例となった。なお、パイロット版はWELLv2を本格始動する前のテスト規格であり、内容はv2とほとんど同じだが、微妙に異なっている部分がある。

オフィスが入居するビル。建物の竣工は1981年で、築40年以上経過している
オフィスが入居するビル。建物の竣工は1981年で、築40年以上経過している

 このオフィスでは「同じ環境下で働く人が等しく快適性を感じるわけではない」というWELLの根本思想を体現すべく、音と光で分けられた3つのゾーンを整備している。低照度の暖色系照明で照らされ、ジャズ音楽が流れるリラックスゾーン、高照度の白色系照明と静かな環境で集中して作業ができるクワイエットゾーン、時間帯によって光や照明のパターンが変化するナチュラルゾーン。座席はフリーアドレス制となっていて、ここで働く社員は、その日の気分や自身の好みに合わせて席を選ぶ。

リラックスゾーンでは、オフィスには珍しい、暖色照明が採用されている
リラックスゾーンでは、オフィスには珍しい、暖色照明が採用されている
照明の明るさと白さが際立つクワイエットゾーン
照明の明るさと白さが際立つクワイエットゾーン
ナチュラルゾーンでは会話が可能で、Web会議などに使えるパーソナルブースも用意されている
ナチュラルゾーンでは会話が可能で、Web会議などに使えるパーソナルブースも用意されている

 WELL認証のコンセプトにもなっている空気質や温熱快適性は、モニターで可視化されている。オフィス内には最大2度程度の温度勾配があり、従業員は照明環境に加え、温度で席を選ぶこともできる。

場所ごとの温度の違いが、備え付けのモニターに表示されている
場所ごとの温度の違いが、備え付けのモニターに表示されている

 WELL認証オフィスゆえの、独特なポイントもある。造花や植栽が多数設置されていることや、木造の什器が多く用いていること、広いリラックスゾーンがあること、仮眠室があることがその例だ。これらはWELL認証の審査項目になっている。

オフィス内には多数の造花や植栽が置かれている。「75%の席からグリーンが見えること」という評価項目に対応したものだ
オフィス内には多数の造花や植栽が置かれている。「75%の席からグリーンが見えること」という評価項目に対応したものだ
リラックスゾーンには大型のソファーやクッションが並ぶ。おしゃれな照明も印象的だ
リラックスゾーンには大型のソファーやクッションが並ぶ。おしゃれな照明も印象的だ
仮眠室。社員から好評で、稼働率はかなり高いという
仮眠室。社員から好評で、稼働率はかなり高いという

 パナソニックでは、WELL認証を外部の企業にも普及させるため、WELL認証取得支援サービスを行なっている。同社は認証取得に必要な実地審査を行う資格を持っており、内装設計や運用のアドバイスから、審査の実施まで、一貫してサポートできるのが強みだ。同社には、個人資格であるWELL AP(WELL Accredited Professional)を取得した社員が16名在籍し、現在10件ほどのWELL認証取得サポートプロジェクトを進行しているという。

オフィス内に掲示された、WELL APの認定証
オフィス内に掲示された、WELL APの認定証

 全世界のv2認証のプロジェクト登録数(審査中と認証済みの総数)は、3月時点で2万4311件。その過半数は米国のケースだが、2021年10月からの伸び率で見てみると、アメリカも日本も2.7倍程度の伸び率となっている。国内では、電気設備やオフィス家具といったオフィス関連業種での認証取得事例が多かったが、2022年以降は他業種にも拡大している。米国の傾向を参考にした推測では、金融・保険や銀行、商社などの業種で、認証取得が進むことが見込まれている。

WELL認証登録件数の状況。下はHSRの登録件数
WELL認証登録件数の状況。下はHSRの登録件数

 多くの企業にとって急務である生産性の向上。そのためのアプローチ手法のひとつとして、WELL認証オフィスが普及していくことは、確実といえそうだ。

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