パナソニックが新設したライブオフィス「worXlab(ワークスラボ)」は、新しい働き方とwithコロナ時代における安心感を追求したオフィスだ。フロア全体に換気、気流、調湿+除菌を施した空気環境を取り入れ、光・気流・音・香り・映像によるリラックス空間と集中ゾーンを作り出す。働きやすさを「人起点」で考えたオフィスの実力を紹介する。
worXlabは、パナソニック東京汐留ビルのワンフロアを改装して設置。約800平方メートルのオフィススペースをエントランス、ミーティングスペース、執務スペース、集中スペースなどに分け、空間ソリューション事業推進室のオフィスとして使用する。パナソニックでは「TENNOZ Rim」(東京都品川区)や「広島中町ビル」(広島県広島市)などに、ライブオフィスを展開しているが、ここまで本格的な取り組みは今回が初めて。働いている姿を見てもらいながらオフィスのあり方を提案していく。
「空間ソリューションをオフィスに導入すると働き方はどう変わるのか、まず、自分たちで体感し、理解しようとオフィスを改装した。その体感している状態をお客様にも見てもらうためにライブオフィスを採用。構想段階で新型コロナの感染が拡大し、より空気にこだわって作ったのがworXlabになる」(パナソニック ライフソリューションズ社マーケティング本部空間ソリューション事業推進室長の西森靖記氏)と背景を話す。
工期は約半年程度。内装のほか、電源、電話、通信などの配線工事や什器設置などの工事をするC工事に該当し、2003年に竣工したパナソニック東京汐留ビルが持つ、元の設備との連携が大変だったとのこと。しかし「オフィスの改装を想定しているお客様の多くはC工事に当たる。そういった意味でもノウハウを貯められた」(パナソニック ライフソリューションズ社マーケティング本部空間ソリューション事業推進室マーケティング推進部部長の丸山功一氏)と知見を積み上げる。
エントランスには、オフィス環境可視化システムと顔認証入退セキュリティ「KPAS」を導入し、顔パスでの入退室を実現。顔認証と同時に体温を測り、マスクの有無もチェック。感染防止対策として求められる体温測定とマスクチェックがこれ1台で完了する。KPASに加え、カードキーでの解錠システムも設置。体温測定機と組み合わせることで、KPASと同等のシステムを導入可能だ。「オフィスの状態に合わせた形で導入するシステムを決めてもらうため」とライブオフィスならではの柔軟性を持たせる。
オフィスとして約100名の従業員が働くが、現在は新型コロナ感染拡大防止により、出社率を30%程度に抑えているとのこと。エントランスでは、「本日の出社率」がモニターに映し出されているほか、気温や湿度、二酸化炭素の濃度といった室内環境まで確認できる。二酸化炭素の濃度や密度から導き出した「密回避」、騒音などから割り出す「快適性」の2つの指標が5段階で表示され、内部の様子を入室前に確認できる。
密度や二酸化炭素濃度を把握できるのは、室内に200個以上のセンサーデバイスを実装しているため。温湿度センサーのほか、CO2センサー、位置情報ソリューション「POSITUS(ポジタス)」に加え、オフィス内で働く従業員には、ウェアラブル端末を配布。それらのセンサーを天井に設置した空間スキャナが読み取りヒトデータ、環境データを取得。心拍数や発話量、位置情報などを導き出す。
データ取得に関しては、来場者にも徹底しており、入室時に必要となる入室カードにタグビーコンを付与し、位置情報を取得する。取得したデータはクラウドの共通基盤を使って解析し、密回避のために可視化したり、空質管理のために設備を制御したりと活用。「将来的には、人のいないスペースの照明を落としたり、空席を見つけて、別のフロアの人が使用したり、柔軟性のあるオフィスが構築できるはず」(西森氏)とさらに一歩踏み込んだ活用方法も見据える。
worXlabは、「エアリーゾーニングソリューション」「密回避ソリューション」「フレキシブルゾーニングソリューション」「短時間リフレッシュソリューション」など10ものソリューションを打ち出す。それらを実現するのが、200個以上のセンサーデバイスであり、換気、気流、調湿+除菌を組み合わせた新しい空気環境への取り組みだ。
エアリーゾーニングソリューションは、新しい空気環境への取り組みを最大限に生かしたスペースづくりをしている。上部に配置されたスリットから柔らかな気流が流れ出し、同時にアロマを使って空間に香りが満ちる。フィルターで清浄化された空気が天井のスリットから吹き出し、床方向に面で均一に気流を送る「ダウンフロー」により、エアロゾルを抑えつける仕組み。その場に座ると、新鮮な空気を即座に感じることができ、外にいるような清々しさを覚える。香りとあわさることで、気持ちもリフレッシュでき、眠気も吹き飛ぶ快適さだ。
丸山氏は「使用してみると、空気の透明感を感じられる。座ったときに『あれ』と思うほど、淀みがなくスッキリしていることがわかる。自宅よりもオフィスの方が快適かもしれないと思うほど(笑)」と段違いの空気感を生み出す。
worXlab内では、このように気流と香り、光を組み合わせたゾーニングを展開。パーティションなど物理的な区切りを設けずに、スペースの使い分けを実現している。ミーティングのほか、執務スペース、集中ブースなどがオフィス内に存在するが、壁などを最小限に抑えることで、広々としたスペースを確保している。
加えて、執務スペースには、指向性スピーカーとスポットライトを組み合わせることで、光と音でゾーニングを実現する。リラックスできる「Cafe-mode」のほか、集中するときの「Booth-mode」、リフレッシュできる「Nature-mode」とさまざまな環境を生み出し、仕事効率化をサポートする。
光の役割も大きい。エントランスやオフィス内の壁、床には、木漏れ日が差しているような演出が見られるが、それらはすべて照明器具と映像再生機を使って再現しているもの。風にそよぐ葉の動きや日差しのようにゆらぎのある光はリアルで、屋外にいるような快適さが視覚から得られる。
天井に備えた照明は、リラックスできる電球色や集中しやすい昼光色などに変化できるほか、ミーティングブースでは、会議の終了10分前を光の変化で知らせる。スケジュールアプリのアラートでは気づきにくく、音声でのお知らせでは直接的すぎるが、光によりスマートな退出を促す仕掛けだ。
従来型の固定席だったオフィスを、フリーアドレス制へと変更したworXlabでは、執務座席数を従来の100席から46席に減少。集中ゾーンやテレワークゾーンなど、仕事の内容に応じて座るスペースを設け、総座席数は120席を確保する。
フリーアドレス制に変更して一番の変化は「荷物が減ったこと」(西森氏)だという。従業員には1人1つのロッカーが割り当てられ「ロッカーに入らないものは持たない」という意識変化にもつながった。これと同時に進んだのがペーパーレス化。在宅勤務もあり、紙の書類は急速にデジタルデータに置き換わっているという。「逆に増えたのがモニター。いろいろなところに設置することで、資料が見づらいといったストレスを解消している。フリーアドレスになったら何が必要で、何が不要なのか。自らが実践してみることで、新たな働き方を探れる」(西森氏)と、リアルな実験の場として機能する。
西森氏は「オフィスのリノベーションは、配置を変えて、机や椅子を新しくして終了になることが一般的だと思うが、私たちはオフィスの空気を変えるところまで踏み込んでいきたい、二酸化炭素の濃度が仕事の効率化にどれだけ影響しているのか、発信することで快適なオフィスを提案できる」と、時代に即した快適なオフィスづくりを追求する。
データ活用についても掘り下げる。「位置情報センサーやウェアラブル端末から取得するデータを活用すれば、従業員の会話量や屋内での移動、リラックスしている時間や集中している時間帯などが見えてくる。そうした1人1人の行動を追うことで、組織のあり方や従業員への理解が深まる」(パナソニック ライフソリューションズ社マーケティング本部空間ソリューション事業推進室主幹の神谷学氏)とする。
一方で、「人がどこにいるのか、席がどのくらい使われているのかは実データを検証することで、本当に必要な数、場所がわかる。会議室が足りなくて困っているオフィスもあるが、本当に足りないのか、それとも人気のある会議室に集中してしまっているだけなのか」(神谷氏)と、人の行動データを利用することで設備面の最適化にも期待する。
worXlabは、現在の形が完成ではなく、これからさらに進化していく。「未来ではなく、現在のオフィスの新しい形を見せられるのがworXlab。全部を改装するのではなく、パーツごとに取り入れるだけでも、今までとは違うことを実感してもらえると思う」と西森氏はその効果を説明する。空気から作るオフィスは、仕事の効率化を追求するとともに、オフィスに新たな可能性をもたらす。
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