携帯4社の決算が出揃った。大手3社はいずれも利益1兆円超えの増収増益決算を達成した一方、楽天モバイルは依然赤字が続く。だが、政府主導の料金引き下げ影響がネットワーク整備に影響を与え、品質低下が懸念されるなど厳しい状況にあることは間違いない。
その対処として今後各社が強化しようとしている取り組みの一端が、楽天モバイルの新料金プランから見えてくる。模索が続く携帯4社の決算を改めて振り返ってみたい。
まずは各社の決算を振り返ると、NTTドコモの2022年度決算は売上高が前年度比3.2%増の6兆590億円、営業利益が前年度比2%増の1兆939億円。KDDIの2023年3月期決算は売上高が前年度比4.1%増の5兆6718億円、営業利益が前年度比1.4%増の1兆757億円。そして、ソフトバンクの2023年3月期決算も売上高が前年度比3.9%増の5兆9120億円、営業利益が前年度比9.8%増の1兆602億円となっている。
楽天モバイルを有する楽天グループの2023年12月期第1四半期決算は、売上高が前年同期比9.3%増の4756億円、営業損益は762億円と引き続き大幅な赤字を記録したが、大手3社は軒並み増収増益、なおかつ利益1兆円超えを記録する好業績を記録した。
もっとも、その内容を見ると苦労の跡が見える。本業の通信事業は政府主導の料金引き下げ影響で軒並み減益となっていることから、通信以外の事業を強化し、さらにコスト削減を一層推し進めることで業績改善を図っているのが実状だ。その最たる例がソフトバンクで、同社の代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏によると、コンシューマー事業やヤフー・LINEなどの事業が振るわない中、2022年度にスマートフォン決済のPayPayを子会社化し、その再測定益2948億円を計上したことで「約束していた1兆円を達成できた」と話した。
しかし、3社の2023年度業績予想を見るに、長らく続いた料金引き下げ影響は今期がピークとの見方が強い。なぜなら動画視聴でスマートフォンの通信量が増加傾向にあるため小容量プランから中・大容量プランへ移行する動きが強まっており、それがARPUを押し上げ業績の回復へとつながっているためだ。
KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏によると、そうした動きはサブブランドである「UQ mobile」の中でも強まっているそうで、月間データ利用料は前年度比で19.3%増加。より通信量が多い上位プランへと移行したり、「au」ブランドに移行したりする動きが加速しているという。
そうしたことから3社は、ともに大容量プランの利用拡大に向けた取り組みを強化している。NTTドコモの代表取締役社長である井伊基之氏は、コンテンツサービスとのセット契約でdポイントを還元する「爆アゲセレクション」の対象サービス拡大を進め、中・大容量プランの魅力を高めるとしている。
ただ、その急激な通信量の増加によって、ドコモのモバイル回線が都市部でつながりにくくなるという問題も生じている。それゆえ井伊氏は決算説明会の場でも、改めてつながりにくさの解消に向けた対策について説明していたのだが、根本的な対策としては容量が大きい5Gの整備をいち早く進めることが求められる。
それゆえ井伊氏は、大容量プランの利用を増やすことと、ネットワーク整備のバランスをいかに保つかが投資戦略上非常に大事と話していたが、一方で「ネットワーク全体を増量するのは無駄」とし、あくまでネットワークの容量が不足した場所に絞って素早く対処していくとの方針を打ち出しているのが気になった。
その傾向は混雑が目立っていない他社でも同様で、KDDIもソフトバンクも混雑状況をつぶさにチェックし、必要な場所の容量を増やすというギリギリの対処をしている様子が浮かび上がってくる。それら各社のトップの発言からは、各社が通信料金引き下げ影響でネットワーク投資に資金を潤沢に使えなくなってきており、面的な容量対策に大きく踏み切れずギリギリでの対処を余儀なくされている様子が浮かび上がってくる。
それに加えて円安によるスマートフォン価格の高騰、そして総務省でいわゆる「1円スマホ」への規制に関する議論が進むなど再びスマートフォンの値引き規制が厳しくなりつつあることから、消費者の5G端末への買い替えサイクルも停滞気味だ。高橋氏も「端末価格が非常に上がっていて、流動性が落ちているのは間違いない」と話しており、5Gのネットワークだけでなく端末の普及も思うように進まない状況が見えてくる。
かねて日本は5Gで大きく遅れを取っているとされているが、各社の動向からは改めて、政府主導の料金引き下げが国内モバイルネットワークの質の低下に直結している様子が見えてくる。通信料金を安くすることだけが消費者の恩恵になるのかという点は、やはりいま一度議論が必要な所ではないだろうか。
そのネットワークを巡ってもう1つ注目を集めたのが、楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten最強プラン」である。これはKDDIとの新たなローミング協定の締結により、地方だけでなく大都市部もローミング対象とするとともに、そのローミングエリア内でもデータ通信が使い放題になるというものだ。
これまでローミング費用削減を重視してきた楽天モバイルが、一転してローミングの活用に踏み切ったのは、ひとえに赤字解消のためだろう。楽天モバイルの先行投資による巨額な赤字が楽天グループ全体の経営危機を高めており、赤字の早期解消が至上命題となっている。ローミングの活用で最もコストがかかるインフラの設備投資を3年間で3000億円削減しながらも、課題となっている通信品質を早期に向上させるというのが楽天モバイルの最大の狙いだろう。
そして、都市部でもローミングを提供することは、楽天モバイルのネットワーク品質向上による競争力強化にもつながってくる。実際、楽天グループの代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷浩史氏は、新たなローミング協定により「人口カバー率は他の3社と遜色なくなる」と、新プランによる契約拡大に自信を見せている。
ただ、回線を貸す側の高橋氏は「MNP(番号ポータビリティ)を見ていると、楽天モバイルの加入者があまり増えている訳ではない」と話しているし、競合となる井伊氏も「それが両社の判断であったと理解している」などとコメントするにとどまっている。コスト削減により実店舗やマスプロモーションを減らすなど、総合力で見れば楽天モバイルがまだ厳しい状況にあることは変わっておらず、直ちに脅威にはならないと見ているようだ。
とはいえ料金引き下げなどの影響もあってか、ネットワークサービス強化のため他社の力を借りるケースが楽天モバイルに限ったものではなくなってきているのも確かだ。場所や設備を共用するインフラシェアリングがその代表例といえるが、3月から始まった、他社回線を用いて通信障害時の予備回線を提供する「副回線サービス」もそうした事例の1つとなるだろう。
先行して提供しているKDDIとソフトバンクの契約状況については、両トップ共にサービスの性格上、契約数が大きく伸びている訳ではないと答えている。ただ、ドコモも新たに、KDDI回線を用いて6月1日からサービスを開始することを明らかにしており、通信障害発生時のためにも利用拡大が期待される所だ。
そしてもう1つ、他社との協力という点で注目されるのが、NTTグループが主導する光技術を活用した新しいネットワーク「IOWN」構想である。IOWNに関しては既に3月から「APN IOWN 1.0」の提供が開始されており、今回の決算に合わせる形でNTTは、IOWNで重要な要素となる光電融合デバイスの製造を担う「NTTイノベーティブデバイス」を300億円を出資して設立することを明らかにするなど、着実な進展が見られるようになってきている。
そのIOWNの仕様などを策定している「IOWN Global Forum」に、長年NTTの競合でもあったKDDIが参画したことが大きな話題となった。その理由について高橋氏は、競争がネットワークより上の領域、具体的にはOTTや、最近であればAIなどになってきていることから「競争と協調を見極める必要がある」と回答。ビジネスにならない部分や、国力を上げる技術の取り組みなどでは他社と協調していく必要があるとし、IOWNに関しても国際標準化を進めるため、NTTと協調して取り組むとしている。
また、IOWN Global Forumにまだ加盟していないソフトバンクも、宮川氏は政府の会合などでNTTとコミュニケーションを取っており、「エネルギーを生むことができなくなる可能性がある国の中で、どうやってデジタル化を推進するか、企業の垣根を越えてあらゆる知恵を出し、連携しないといけない」と話す。その上でIOWN構想について「非常に評価している」とし、具体的な加盟にこそ言及しなかったものの、何らかの連携を考えている様子を示していた。
携帯各社のビジネス成長領域が法人ソリューションやスマートフォンを軸とした金融・決済などに移っているように、通信だけで成長を見込むのは非常に難しくなっているのは確かだ。そのような状況下でも質の良いインフラを提供し、日本の国力向上につなげていく上でも各社の連携が重要になってきているようで、今後各社がどのような形で連携を進めていくのかが注目されることは間違いない。
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