携帯4社とそのグループ企業の決算が発表された。料金引き下げの影響により各社ともに利益を落とすなど、業績面の動向も注目される所だが、より大きな関心を呼んだのはやはりKDDIが起こした大規模通信障害と、楽天モバイルの「月額0円」施策廃止の影響であろう。これら一連の出来事が各社に与えた影響と業績への関連などについて、各社の決算説明会の内容から振り返っていきたい。
まずは4社の業績を確認すると、NTTの2022年度第1四半期決算はグループ全体で見ると、NTTデータの好調で増収増益となっている。ただNTTドコモに絞った場合、売上高が2021年同期比1.0%減の1兆4218億円、営業利益が2021年同期比0.3%増の2837億円と、減収増益となるようだ。
またKDDIの2023年3月期第1四半期決算は売上高は2021年同期比4%増の1兆3517億円、営業利益は0.8%減の2969億円。ソフトバンクの2023年3月期第1四半期決算は売上高が前年同期比0.4%増の1兆3620億円、営業利益が2021年同期比12.7%減の2471億円と、いずれも増収減益となっている。
各社ともに行政による携帯電話料金引き下げ影響が業績に色濃く反映された様子だ。だが各社ともに業績目標に対する進捗自体は順調としているのに加え、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員 兼 CEOである宮川潤一氏が、料金引き下げの影響が「ピークを迎えてきたと思っている」と話すなど、徐々に影響が減りつつあるようだ。
一方で楽天グループの2022年12月期第2四半期決算は、売上高が2021年同期比12.6%増の8935億円、営業損益は1971億円と、やはり楽天モバイルの先行投資で赤字が続いている。ただしその赤字幅は前四半期より縮小しており、今後は改善に向かうとの見解を示している。
その要因の1つは、KDDIに支払うローミング費用の大幅な削減である。楽天モバイルのエリア整備加速により人口カバー率が97.6%に達し、全国47都道府県でローミングの終了を進めていることから、ローミング費用が大幅に抑えられてきているようだ。
実際KDDIの決算を見ても、楽天モバイルからのローミング収入が大幅に減少したことで、「グループMVNO収入+ローミング収入」がマイナスに転じている。
さらに楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、2023年中に楽天モバイルの基地局を6万局以上に拡大し、人口カバー率99%超を目指すとしている。同社の調査では、エリア整備が進んでいる都市部で楽天モバイルの申込数が高い水準に達していることから、全国で同水準のエリア整備を進めることが加入者の増加につながると判断、ローミング費用削減と契約者数増加のためエリア拡大に一層注力する様子を見せる。
そしてもう1つの要因は、いわゆる「月額0円」の廃止である。楽天モバイルは2022年7月より導入した新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」で、以前の料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」の特徴でもあった、月当たりの通信量が1GB未満であれば月額0円で利用できる仕組みを廃止。利用者の拡大から収益化へと大きく舵を切って収益改善を進めており、Rakuten UN-LIMIT VIIを発表した2022年5月からその影響が出てARPUが高まりつつある様子を見せている。
ただ一方で、月額0円施策は消費者に非常に好評でユーザー獲得に大きく貢献してきたことから、その廃止による楽天モバイルの契約数の減少も懸念されていた。今回の決算では2022年6月末時点での契約数が明らかにされているが、MVNOを除いた楽天モバイルの契約数は477万。一時は契約数が500万に達したとされていたが、そこから20万以上契約数が減少したことになる。
それら解約者は他社に流れているようだ。ソフトバンクは楽天モバイルの月額0円施策廃止の影響もあって今四半期の純増数が大幅に増えたとしているし、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏も、通信障害の発生以前は「povo 2.0」が大きく伸びていたと話していた。さらにNTTの代表取締役社長である島田明氏も、楽天モバイルの影響かどうかは分からないとしながらも、やはり今四半期におけるドコモの番号ポータビリティによる転入はプラスに転じたと話している。
さらに言えば、MVNOの大手であるインターネットイニシアティブ(IIJ)も、今四半期の純増数が従来より1万以上増えたとしており、その要因として楽天モバイルの月額0円施策廃止を挙げていた。低価格サービスを展開する事業者を中心として、楽天モバイルの月額0円廃止が契約増につながっている様子を見て取ることができるだろう。
ただ三木谷氏は、流出したユーザーの8割が月額0円で利用していた人達であるとも説明。Rakuten UN-LIMIT VIIの提供以降はメイン回線で利用する人が増え、30%程度の伸びを示しているとしており、経営の改善にはプラスに働いているとの認識のようだ。
今後はエリアの拡大によって信頼を得て、現在あまり獲得できていない地方の利用者を獲得し利用者を伸ばす方針のようだが、その取り組みがスムーズに進むかどうかが業績にも大きく響いてくることになるだろう。
今四半期の決算に直接影響する訳ではないものの、今後各社の業績に大きく影響すると見られているのがKDDIの通信障害である。7月2日からおよそ3日間にわたって影響が続いたKDDIの通信障害は、音声通話に影響が出て緊急通報ができなくなったのに加え、一部のATMや気象観測所などが使えなくなるなど、社会的に非常に大きな影響を与える結果となった。
その理由はメンテンナンス時の設定ミスにより発生したコアネットワーク内部での輻輳(ふくそう)が大規模化したためと説明されているが、総務省も8月8日に「電気通信事故検証会議」を開催し、より詳細な原因究明や再発防止策について議論を進める予定となっている。
今回の通信障害に関しては、島田氏や宮川氏が共に「他人事ではない」と話すなど、業界にとって非常に大きな影響を与えるものでもあっただけに、同様の障害を起こさないため業界全体での情報共有が求められるだろう。
だが、それよりも注目されているのは、通信障害の発生時に他社がネットワークを融通して通信を維持するローミングの活用である。日本ではさまざまな要因から緊急時のローミングが難しいとされてきたが、今回のKDDIの通信障害を期として、前総務大臣の金子恭之氏が前向きに検討することを打ち出すなど、今後緊急時ローミングの実現に向けた議論が進む可能性が高いと見られている。
ただその実現に向け、何をどこまでローミングするのか? という点は、携帯各社で考え方に違いがあるようだ。実際島田氏は、ローミングに関して「まずは時間をかけないでやることが大事」と話しており、緊急通報のみのローミングを早期に実現することを最優先に議論すべきとした。
一方、宮川氏は「本当に119番や110番の(緊急)通話を確保するだけで世の中のパニックが収まるかというと、残念ながらあまり機能しない」と話し、データ通信のローミングもある程度実現すべきとの考えを示している。
無論、そうした各社の意見の違いを今後、総務省が主体となって議論して整理していくものと思われるが、気になるのは緊急通報の扱いだ。なぜなら緊急通報機関が通報者に後から折り返し電話ができる「呼び返し」が法律で必須とされていることが、緊急時のローミング実現に向けた大きな壁となっており、呼び返しなしでの緊急通報を実現するにしても緊急通報機関となる警察や消防を納得させる必要がある。総務省と携帯電話会社だけでは解決できない問題だけに議論の難航が予想されるのが気がかりだ。
一方で決算という視点で見た場合、今回の通信障害が今後各社の契約数に影響を与えるかどうかが気になる所だ。まずはKDDIの業績に与える影響だが、一連の返金措置により同社はグループ全体で約75億円とかなりの損失が出ることとなる。ただ障害発生時の高橋氏の的確な説明などにより評価を上げた部分があり、決算時点では同社からの大規模な顧客流出が起きている訳ではないようだ。それもあってか高橋氏も厳しい環境ながら、業績予想の変更もしないとしている。
もっとも通信障害の影響によってKDDIの新規契約の獲得は落ち込んでいるようで、宮川氏は「番号ポータビリティで(KDDIに)移った絶対数がぐっと圧迫された」と話すなど、従来KDDIに流れていた利用者が踏みとどまる、あるいは別の会社への乗り換えを検討するという動きは出ているようだ。そのトレンドが今後も続くかどうかが、KDDIの今後の業績を左右することになりそうだ。
そしてもう1つ、業界全体で見た場合注目されるのがサブ回線需要の拡大である。今回の通信障害を受けてバックアップ用のサブ回線を追加する動きも広がってきており、その需要の主体は法人向けではあるものの、個人向けのバックアップ回線ニーズも強まっているようだ。
実際IIJの代表取締役社長である勝栄二郎氏は、同社のeSIMによるモバイル通信サービスが「KDDIの通信障害の翌日には8倍くらい売られた」と話し、今後そうしたニーズが拡大することに期待を寄せている。
今回の通信障害が業界全体に与えた影響は非常に大きなものだったが、それだけにサブ回線のような新たな需要が生まれるなど、各社のビジネスにも大きな変化が出てくる可能性が出てきている。各社がそうした新しいニーズをうまく拾ってビジネスを伸ばせるかどうかも、今後大いに注目される所かもしれない。
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