携帯4社とそのグループ企業の決算が発表された。政府主導の料金引き下げ影響が依然色濃く残るが、その影響は徐々に縮小しつつある。一方で新たな課題となっているのが、総務省で議論が進められている「非常時ローミング」「プラチナバンド再割り当て」「1円スマホ」の3つだ。これらに関する各社の見解や今後に与える影響なども含め、4社の決算を改めて振り返ってみたい。
まずは4社の業績を確認すると、NTTドコモの2022年度第2四半期決算は売上高が2021年同期比0.7%増の2兆8998億円、営業利益が0.1%増の5765億円と、わずかながらも増収増益を達成している。
一方でKDDIの2023年3月期 第2四半期決算は、売上高が前年同期比4.4%増の2兆7408億円、営業利益が前年同期比2.5%減の5585億円と増収減益に。ソフトバンクの2023年3月期第2四半期決算も、売上高は2021年同期比3.1%増の2兆8086億円、営業利益は2021年同期比12.7%減の4986億円と、やはり増収減益となっている。
ただ減益となった2社の業績内容を見ると、KDDIの減益要因は2022年7月に発生した大規模通信障害や電気代高騰などで、それがなければ3億円の増益となっていた。またソフトバンクの減益要因も、法人事業の一時的な影響やヤフー、LINE事業の先行投資が影響したとされている。政府主導の通信料金引き下げ影響が現在も大きく響いているのは確かだが、ほかの事業がそれを補って、イレギュラーな要因を除けば増益に転じるなど最悪の時期は脱しつつあるようだ。
一方、新規参入の楽天モバイルを有する楽天グループの2022年12月期第3四半期決算は、売上高が2021年同期比13.7%増の1兆3647億円、営業損益が2871億円。依然、楽天モバイルの先行投資で赤字決算となっている。
月額0円施策の終了で注目される契約回線数を見ると、MVNOを除いた契約回線数は455万と、前四半期からさらに22万回線減少しているようだ。実際KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏は、「povo」を中心として楽天モバイルからの流入が契約数を伸ばしていたとしており、依然楽天モバイルからの流出が続いていた様子がうかがえる。
ただ一方で、今回の決算で初めて公開されたARPUを見ると、月額0円施策の終了もやむなしと言える事情が見えてくる。月額0円施策の終了を打ち出して以降同社のARPUは伸びており、今四半期は1472円にまで上昇しているが、それでもMVNOとして展開していたサービスのARPUを大きく下回っている。さらに2021年同期のARPUは453円、それ以前は200円台となるなど、月額0円施策の影響でARPUがほとんど伸びず、通信料収入があまり得られていなかった様子がうかがえる。
それだけに全てのユーザーが料金を支払うことになる11月以降は、必然的にARPUも伸びて楽天モバイルの業績も回復に向かうと見られる。それに加えて4Gの人口カバー率が97.9%に達するなど、エリア拡大が一定規模まで進んだことから、今後は基地局整備費用やKDDIに支払うローミング費用などが減少すると見込んでいるようだ。
その楽天モバイルを巡って注目されたのが、総務省で進められていたプラチナバンドの再割り当てである。総務省は2022年11月8日に「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」の報告書案を公開したのだが、その内容を見るとプラチナバンドの再割り当てに係る移行期間は「5年以上」、それに伴って必要なレピーター交換やフィルタの設置などの費用は全て「既存免許人」、つまり現在プラチナバンドを保有している事業者が原則負担することとされている。
これはプラチナバンドの再割り当てを要求している楽天モバイルの主張がほぼ認められた内容といえ、楽天モバイルは同日に報告書案を歓迎するコメントを出している。同社の代表取締役CEOであるTareq Amin(タレック・アミン)氏も、報告書案の内容について「大変うれしい」と高く評価、それを受ける形で2024年3月からのプラチナバンド使用開始を目指すとしている。
一連の議論に際して楽天モバイル側は、1年以内でのプラチナバンド再割り当てを要求したり、要望が通らなかった場合は現在主張している3社のプラチナバンドから一部ずつを均等に再割り当てする方針を変え、特定の1社からプラチナバンドの800〜900MHz帯を全て奪うことも辞さない姿勢を見せたりするなど、非常に強硬な姿勢を見せていた。また楽天モバイルの主張が有識者に全て評価されていたとは言い難く、批判を集めるシーンも少なからず見られた。
それゆえ各社の決算説明会でも、「やはり言いすぎな所があると思う」(高橋氏)「もう少し地に足を付けた形でゆっくり会話できたら」(ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏)と、楽天モバイルの姿勢に疑問を示す声少なからずあった。それだけに総務省が楽天モバイル寄りの結論を出したのは意外な印象も受けるが、総務省は以前から大手3社による市場寡占を強く警戒してきただけに、新規参入事業者の優遇に全力を注ぐという結論に至ったのだろう。
とはいえ実際の作業で、楽天モバイルが主張する通りに再割り当て作業がスムーズに進むのかは分からない。NTTドコモ代表取締役社長の井伊基之氏は「事業者側がどう対応するかが次の課題」と話していたが、方針が決まった後の実務プロセスがスムーズに進むかどうかが今後の課題になってくるといえそうだ。
同じく総務省での議論で注目を集めているのが非常時ローミングの実現についてだ。こちらはKDDIの大規模通信障害をきっかけとして「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」で議論が進められているのだが、最大の争点となっている、緊急通報受理機関側から通報者に折り返し電話ができる「呼び返し」に関して、警察や消防などが「必須」との姿勢を打ち出したため早期実現が難しくなるとの懸念も出てきている。
呼び返しを実現するとなるとローミングの技術ハードルが高くなるため、大手3社のトップはいずれも「実現に時間がかかる」旨の発言をしていた。それゆえ各社は呼び返しなし、あるいは呼び返しを代替する手段を検討するなどして、早期実現を求める姿勢を見せているようだ。
ただ先のKDDIの通信障害のように、コアネットワーク自体がダウンしてしまえばローミング自体ができなくなってしまう。そうしたことから3社はどちらかといえば、既存のスマートフォンにある「デュアルSIM」の仕組みを用い、自社回線に加え緊急用の他社回線を追加できる有料サービスを提供することで、通信障害時の対処をしたい考えのようだ。
実際KDDIの高橋氏は、他社に声掛けしてデュアルSIMを用いた実現の模索を進めている旨の発言をしており、ソフトバンクの宮川氏や、NTTの代表取締役社長である島田明氏も、高橋氏からの声掛けを受けてそうしたサービスの実現に向け協力する姿勢を見せている。
ただ非常時のサブ回線需要は、低価格サービスに強いMVNOにとって大きな商機となっており、一連の取り組みがMVNOのビジネス機会を阻害するとの見方も出てきている。その実現に向けても慎重な議論が求められるようだ。
そしてもう1つ、今後総務省での議論が進められると見られているのが「1円スマホ」、要はスマートフォンの大幅値引きに関する問題である。これはスマートフォンの料金自体を大幅に値引き、それに現在の電気通信事業法で定められた、回線契約に伴う値引き上限の2万円(税抜)をプラスすることにより、スマートフォンを一括1円など激安に販売する手法だ。
この手法は電気通信事業法に触れることなく大幅値引きができる一方、回線契約なしでもスマートフォンを安価に購入できることから、組織的な転売ヤーによる買い占めが急増するなどの新たな問題も生み出している。ただ一方で現在の電気通信事業法上、顧客の契約を“縛る”ことができなくなったことから携帯各社の顧客奪い合いが加速しており、1社だけが値引きを止めるというのは難しい状況にもなっている。
実際、各社のトップからは「新品を中古より安く売るのは信じられない」(井伊氏)「社会現象としてよくないと認識している」(宮川氏)といった声が聞かれ、できれば止めたいが競争上続けなければならないというのが本音のようだ。そうしたことから行政の介入によって1円スマホの販売手法に規制が入ることについては賛同する姿勢を見せており、今後は行政側で問題解決に向けた議論が進められるものと考えられる。
ただ転売ヤーの問題に関して、井伊氏は現在電気通信事業法で禁止されている、端末と回線のセット販売を復活させることにも言及している。セット販売による値引きであれば値引きに回線契約が必要となるため、必然的に転売ヤーによる大量買い占めを防ぐことができるからだ。
実際井伊氏は「端末と(回線を)とセットで売るのが仕事だと思っている。端末だけを売るのはキャリアの仕事ではない」とも話しており、セットで価値を提供することこそが携帯電話事業の本筋だと主張、値引きに一定の規制を設けながらもセット販売を復活させることを要望している。そうした主張を他社、あるいは総務省が受け入れるかどうかも、1円スマホの問題を見据える上で注目されるポイントとなりそうだ。
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