KDDIは5月11日、2023年3月期の通期決算を発表。売上高は前年度比4.1%増の5兆6718億円、営業利益は前年度比1.4%増の1兆757億円と増収増益を達成した。
政府主導の料金引き下げ影響に加え燃料費の高騰、そして2022年7月に発生した大規模通信障害の影響など多くのマイナス要素がありながらも、ビジネスセグメントや金融事業といった成長領域が順調に伸び、なおかつコスト効率化を強化したことで過去最高益の達成に至っている。
同日に実施された決算説明会に登壇したKDDI 代表取締役社長の高橋誠氏によると、主力の通信事業に関しては、料金引き下げで大きく落ち込んでいたARPUの反転に向けた取り組みを推進しているという。
その契約数とARPUに関しては、「au」「UQ mobile」「povo」のマルチブランドID数が3123万に伸びる一方、マルチブランド通信ARPUは3960円に減少。ただ、高橋氏によると、いずれも期初予想を上回る結果で、マルチブランド通信ARPU収入のマイナスの幅は着実に減少。2024年3月期の上半期にはプラスに反転させることを目指すとしている。
そこには5Gで通信量が増加し、より大容量のプランを利用するユーザーが増えている影響が大きいようだ。高橋氏は「よく5Gにはキラーアプリがないというが、そんなことはない」とし、動画がキラーコンテンツとなって通信量が大きく伸びていると話している。
実際に、auの月間データ利用量は前年比で26%増加、使い放題プランの契約者数も前年比12.8%増加。加えて、UQ mobileの月間データ利用料も前年比19.3%増加しているという。それゆえ、UQ mobileからauへ移行するユーザーが前年比1.6倍と増加傾向にあるほか、UQ mobileの中でもより通信量が多い上位のプランの加入数が延びている状況で、今後はさらに大容量プランの魅力を高めARPUを反転上昇に転じさせたい考えのようだ。
一方、高橋氏が「お気に入り」と話すpovoは提供からおよそ2年が経ち、Z世代に注力したブランドとしている狙いについて改めて説明した。高橋氏は、平均年齢が若い海外の新興国では「若い人だらけだからDX(デジタルトランスフォーメーション)がすごく進む」と話し、今後もpovoをZ世代に特化したブランドと位置付け、DX化をより進めた商品にするべく新たなチャレンジを続けていくとのことだ。
その契約数に関しては、現状「1.0」「2.0」を合わせて150万強とのこと。だが、月額0円で利用し続けるユーザーも多いことから、今後は全契約数ではなく、アクティブユーザーベースでの開示に切り替えていく方針を示している。
なお、ARPU反転に向けた基盤となる5Gのネットワークに関しては、人口カバー率90%を超え、同社が重点を置く生活動線についても47の鉄道路線、そして323の商業地域をカバーするに至ったとのこと。今後もエリアの拡大を進め、2024年3月期末には5G基地局を現在の約5.2万局から、約9万局にまで拡大させる予定とのことだ。
一方で、5Gを巡っては、ここ最近NTTドコモの「つながりにくい」事象がユーザーの不満を高めているが、高橋氏もこの事象は「気になっている」と話し、4Gから5Gへの移行が非常に難しいとの認識を示す。
同社では700MHz帯など低い周波数帯から用いて5Gの面展開を進める方針を取っている点がドコモとの違いになるというが、それでもトラフィックの増加による品質への影響には非常に警戒しおり、あらゆる手段を用いて素早い対応を進めているとのことだ。
高橋氏はまた、次の期となる2024年3月期の連結業績予想についても説明。売上高は今年度比2.3%増の5兆8000億円、営業利益は今年度比0.4%増の1兆800億円と、利益は微増ながらも引き続き増収増益を見込むとしている。
中でもビジネスセグメントは、営業利益の2割超の水準を目指すとして期待をかけているようで、それら成長領域の伸びに加え通信ARPU収入の反転などによって、楽天モバイルからのローミング収入の減少をカバー。2025年3月期以降はローミング収入の減収影響を緩和できる見込みだという。
そのローミングに関してKDDIと楽天モバイルの両社は、決算発表と同日に新たに、2026年9月までローミングを延長することを発表。従来ローミングを提供してきた地方だけでなく、新たに東京23区や名古屋市、大阪市を含む都市部の一部繁華街エリアでも新たにローミングを提供することを明らかにした。
ちなみに今回のローミング延長は決算直前に取りまとめられたものであるため、先の業績予想にその影響は含まれていないとのこと。ただ、高橋氏は、「3桁(100億円単位)は行くと思う」と答えており、大きな影響が出るものと考えられる。
ローミングの延長、さらに拡大に至った背景として、高橋氏は5Gの存在を挙げている。今後携帯電話会社の競争軸は5Gとなり、KDDIも4Gへの投資は減らしていることから、4Gのネットワークを楽天モバイルに貸すことで投資効率効率を高め、互いに5Gへの投資に集中すべきという考えが一致し、今回の措置に至ったと話す。
加えてKDDI側としては、ローミング収入が急激に減ると経営に与えるインパクトが大きいことから、徐々に減らす形にしたいとの考えがあったという。赤字に苦しむ楽天モバイル側としても、設備投資を減らしてローミングを活用した方がコスト面でメリットが大きいことから、延長した契約は双方のバランスを取った内容となっているとのことだ。
ただ、このローミング契約延長は、赤字が深刻で競争力が落ちている楽天モバイルにKDDIが救いの手を差し伸べたもの、という見方も少なからずある。だが、高橋氏は、「4Gの投資効率をできるだけ高めたいのは当たり前」と話し、あくまで既に存在する4Gネットワークの設備投資効率を高めるのが狙いとし、「それ以上(楽天モバイルからの)見返りがあるものではない」と答えている。
もう1つ、他社との連携という側面でいえば、2023年3月にKDDIがNTTと提携し、IOWN構想を主導する「IOWN Global Forum」に加入したことが話題となった。その理由について高橋氏は、「競争が上のレイヤになってきている」と答えた。競争軸がネットワークより上のサービス、最近であれば「ChatGPT」などのAI技術などに移っており、通信事業者が苦しい状況にある中にあり、協調できる部分は協調していく必要があるとしている。
高橋氏は、IOWN構想の中でも、とりわけ電気を可能な限り光に置き換える「オールフォトニクス」の重要性が高いとしており、海底ケーブルなどで光に関する技術を多く持つKDDIの技術を生かせることから、この領域で協調するべく提携に至ったとのこと。IOWN構想を国際標準にするべくNTTと協調していく姿勢を示したが、高橋氏は一方で「グローバルスタンダードはいち早く取り入れる」とも話し、国内だけでなく他国の技術なども引き続き積極的に取り入れていく考えを示した。
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